ピエロの一本線
高校の文化祭初日。俺たちのクラス出し物はサーカス。サーカスといってもセットや演出は質素なものだ。体育館のステージ上で各々の特技を披露するだけのもの。どちらかというとお披露目会に近い。マジックやアクロバット、空手や剣道の型などそれぞれが好き勝手に自分のやりたいことをする。何を披露するかはすぐに決まった。特技といえば小さい頃から祖父に教わっていたあや取りぐらい。あや取りなんてステージ上でやるものではないだろうとは思いつつも、他に特技がない俺にとってはあや取り一択であった。サーカスと銘打っている以上、衣装はTシャツという訳にはいかないらしく、各々がサーカスらしい衣装をなけなしの金で揃えていた。俺はというと、サーカスにおける一番の笑い者、ピエロに扮していた。なぜピエロなのか、その答えとも言える人物の方へ俺はちらりと目をやった。彼女は底抜けに明るい笑顔ではしゃいでいた。その隣には、彼女の笑顔を一身に受ける男が一人。俺はその光景を目に焼き付け、自分の感情に蓋をする事を再度決意する。何故ピエロなのか、何故感情に蓋をするのか。その答えは明白だった。自分の感情は彼女の幸せを阻害するものであり、不純なものだからだ。一途といえば聞こえはいいが、俺の場合は単に諦めの悪い弱い人間。彼女の幸せを願うなら自身の気持ちにケリをつけるべきだが、それが出来ないのなら、無理矢理にでも感情に蓋をするしかない。ピエロを選んだ理由もそこにある。ピエロはサーカスで一番の立役者。だがそんな功績とは裏腹に、客の興味は別の方へと向かう。空中ブランコや曲芸などのいわゆる主役に心奪われる。サーカスで得られる興奮や感動は本来、引き立て役であるピエロの存在が不可欠なのだが、そんなことに気付く人間は無に等しい。それでもピエロは何食わぬ顔で笑いを誘い、脇役という仮面をつけながら陽気におどけてみせる。まさに道化師。今の自分がなるべきはこの道化師である。自分の持つあらゆる感情に蓋をし、あや取りという微妙な道具を器用に操り、脇役という仮面を被る。たかが失恋で大袈裟かも知れないが、俺にとってはそれだけ大きな存在であったのだ。俺が今手にしているあや取りは元来、一本の紐である。その端と端を結ぶことで初めて、様々な表現力を持った価値ある輪へと昇格する。そう、一本線のままでは何の価値もない。俺から彼女へと向かう想いの線も無価値な一本線。彼女との間に結び目が出来ることはなく、彼女と想いの輪を作ることもない。無価値な一本線は俺の心に一生ぶら下がるだろう。それを隠すためにも、この先何重にも仮面を増やし、道化師として自分も周囲も騙していこう。そこまで決意した瞬間、俺の中で何かが切れたような気がした。今までかろうじて繋がっていた何かが。ピエロの姿をした自分がこれまでの自分を取り込んでいく。その瞬間の俺は、人とは思えない表情を浮かべていた。右目からは涙がこぼれ、同時に左の口角は不気味に上がっていた。
初めての投稿です。
まだ右も左も分からないまま、自分が趣味で書いていた短い物語を一つ、投げてみようと思いました。
叶う恋もあれば叶わない恋もある。
そして叶わない恋は結構残酷なもので、立ち直るまでは深い傷として残り、人を変えてしまうこともあるかもしれない。
そんな叶わない恋にスポットライトを当てつつ、ホラー要素も少し交えてみました。
「若さ」が生む危うさを侮ってはいけない気がします。
そしてその危うさが、きっと大きな表現力の糧になるのではないか。
やっぱり若いってすごい!!
そんな語彙力のない結論で今回は締め括ろうと思います。




