Silent Invitation
-前回のあらすじ-
保健室で寝ていたら何やら不審な人物が…
その正体は入学式に何やら鋭い目をしていた綾城先生だった。
SilensのCグループに記憶を取り戻してもらった蒼は、言われるがままにSilensに入ってしまった。
これから蒼の6年間の学校生活はどうなるのか…?
春の青嶺高校附属中学校は、桜吹雪が舞い、まるでアニメのオープニングのような爽やかな朝だった。
宮本蒼は左足の鈍い痛みを感じながら、教室に向かう。保健室での出来事は、夢か現実か分からないまま頭の中を巡っていたが、足の痛みが、それが確かに“現実”だったことを教えてくれる。
だが、その痛みを忘れさせてくれるのが、同じ1年3組の藤原だ。
「蒼、おはよー!早速告白の現場見ちゃったんだよね、昨日!」
「え、マジで?それ絶対一目惚れじゃん。」
他愛もない会話を交わしながら、教室の扉を開けると、そこには黒髪をきちんとまとめた榊原紅葉先生が立っていた。
「おはようございます。“遅刻”ですよ。」
その声は低く、クールだ。だが、何やら面白そうな雰囲気も漂わせている。
「ぼーっとしてないで、早く席につきなさい!入学式に午前6時に来たのは誰でしょうね?」
わーっとクラス中が笑いに包まれる。
小声で藤原が
「お前って面白いんだなw」
と言ってきたが、確かに午前6時は伝説だな。おまけに事件にも巻き込まれたし。
HRが終わり、1時間目が始まる。
「授業は来週から始まるから。金曜日までの3日間は全部学活よっ!」
意外にもノリがよく、テンポのいい言い方に、クラスはますます和む。
「じゃあ、まず簡単な自己紹介……っと、あ、そうだ。携帯はしまってください。私が見つけたら没収しますよ〜。」
その瞬間、プルルルル…と電話の音が鳴った。
「誰ですか〜?携帯の電源を切っていないのは〜?」
誰も手を上げない。沈黙が流れる中——
「あ、私だわ!夫から電話……ちょっと待ってて。」
教室は爆笑の渦に包まれた。
(……この先生、やっぱり面白いかもしれない)
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昼休み。蒼は中庭へ向かった。校舎の陰に入ると、急に空気が重くなる。
(なんか、嫌な感じがする……Silens?)
その時——
「奇遇だな。」
不意に声をかけてきたのは、九条だった。水色の制服姿だが、耳には無線機、腰には拳銃らしきものが見える。
ちなみに僕は緑色の制服を着ている。
「何やってるんですか?」
「何もしちゃせんよ。新入りにはまだ早い……」
そう言って九条は歩き去っていった。
蒼は何かを言いかけたが、その背中はすぐに視界から消えた。さっき歩いて行ったばかりなのに…
そして、その様子を遠くから見ている、もう一人の影がいたことには、まだ気づいていなかった——
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放課後。
教室で荷物をまとめていた蒼に、榊原先生が近づいてきた。
「宮本くん。放課後、少し来てもらえるかしら?」
「……僕、何かしましたか?」
「いいえ。ただ、“君に知っておいてもらいたいこと”があるの。」
蒼は戸惑いつつも、榊原に従い、校舎の旧館へと足を踏み入れた。
立ち入り禁止と先ほどの学活で言われたその場所。薄暗く、ひんやりとした空気が漂う廊下を進み、無機質な鉄の扉の前で立ち止まる。
「ここは、“Silens”のオペレーションルーム。いわば中枢ね。」
「え…先生もSilensの関係者…?」
「そうわよ。綾城先生と昔から仲良くてね、たまたま…。まあ、この話はいい、さっさといくわよ」
モニターを操作し、扉を開けると、長い廊下が見えた。
「エレベーターを使うわよ。」
と言いながら先ほどと同じようなモニターを操作すると、エレベーターのドアが開く。
地下へと潜って、さらに長い廊下の1番奥の頑丈そうな扉の横にあるモニターを操作する。
ロックが解除され、扉が開かれると…
巨大なモニターと機器が並ぶ部屋が広がっていた。数人の上級生や職員らしき人物が忙しなく動いている。
「ここがSilensの活動拠点。君はもう仮所属という形でこの組織の一員よ。」
そう言いながら、紅葉は中央に行き、モニターの一つに操作を加えた。次の瞬間、そこに現れたのは——昨日、体育館廊下で見た光景。銃を構える九条、逃げ惑う影、そして記憶を消される直前の自分。
「……録画、されてたんですか。」
「当然よ。これは“観測記録”。Silensはあらゆる異常を監視・記録し、対処する機関なの。」
紅葉の声は穏やかだが、鋭さを帯びていた。
「君がなぜここにいるのか。それを説明するわ。」
彼女の説明によれば、Silensは青嶺高校とその附属中に存在する、外部に一切知られてはならない治安維持組織。異常事態、テロ、未知の脅威——それらに対処するために選ばれた生徒と教師で構成されている。なぜ治安を守っているのか質問したが答えてくれなかった。
あと、グループ見分けられているらしく、SとBが中核的グループらしい。
Aグループは、記録・情報保管・機密管理
Bグループは、戦略立案・情報統制・全体指揮・作戦配置・監視管理
Cグループは、隠蔽・証拠消去・報道操作
Dグループは、暗号解読・通信傍受・ハッキング系
Eグループは、護衛・護送・警備(戦闘も可)
Fグループは、外部連携・潜入・地域監視などをやっている。
そして今仮で入っているSグループは、AとC〜Fグループを全てこなすチームらしい。
ちなみにどのグループの人も他のグループの知識も入っており、いなくても対応できるらしい。
また、中高合わせて3000人いるこの学校のうち、100人ほどのSilensがいるらしい。なんと3%しかしない。
「君は——その素質を持っていた。観測適性、分析力、そして何より、恐怖より“理解”を選ぶ心。」
蒼は自分の胸にある小さな金属プレートを思い出す。《S-100》の刻印。
「明日からは“仮所属”から一歩進んで、正式加入に向けた適性試験が始まるわ。グループ単位で行われる訓練。同期は他に9人。全員、個性と問題を抱えた連中だけど……きっと君になら乗り越えられる。」
「……僕は、戦うためにここに来たんですか?」
「違うわ。君は“知るため”に来たの。何を守るべきか、何を信じるべきか——そして、誰と共に戦うかをね。」
その言葉を聞いたとき、蒼の中にふとした確信が芽生えた。
(僕は、ここで変わっていく。いや、変わらなきゃいけないんだ)
紅葉が扉を開け、蒼を地上へと送り出す時、彼女はふと微笑んでこう言った。
「心配しなくても大丈夫。先生はね、君たちの一番の味方よ。」
外に出ると、夕焼けが校舎を赤く染めていた。
風に舞う桜の花びらの中で、蒼は一歩ずつ歩き出した。
——普通の中学生活なんて、もうとっくに終わっていた。
でも、それでも。
「明日が、楽しみだな。」
小さな声で、そう呟いた。
次は金曜日投稿です。