超えられない存在
東山あずさ(当時25歳)
海堂と同じ大学同じ学科卒で海堂の彼女。
現在はアパレル関係の会社でデザイナーの仕事をしている。
155cmと非常に小柄だが胸はでかい。
よく派手にみられるが、 結構一途の面もあったりする。
藤森と性格が似ているが、同族嫌悪なのか初対面の印象が悪かったからなのか、あまりいい印象を持ってない。
彼女?
ちらりと2人を見る。
まぎれもなく、彼女と名乗ったほうは腕に絡みついてる。
海堂も特に振りほどく様子はない。
彼女って…まじかよ…
(いつから)
「あ、あずさ…人の前だよ、その…」
海堂が恥ずかしそうにそう言う。
顔は真っ赤だけど嫌そうな感じはしない。
(どこで)
「え?そういえばそうね!」
それを聞いて東山さんはパッと離れる。
(てか、海堂の性格的に勝手にいないものだと思ってた…)
「もおー修司顔真っ赤ー♪」
「あずさー…」
まだ顔が赤い海堂の鼻を東山さんがぷにっと押してからかう。
距離が近い、まさにカップルそのものだ。
(なんで…)
「ところで」
くるりと俺のほうをまた向く。
後ろで手を組んで、上目遣いで俺を見てきた。
「藤森君だっけー?私たちと同じ大学って聞いたけど、修司にこんなタイプの友達がいるなんてびっくり!」
なんか、品定めされている気分で、気分が悪い。
だから俺も対抗して
「そ、そうか?結構相性いいと思うけど?」
腕を組んでそう言い放つ。
でも声の震えが止まらない。
(落ち着け、取り乱すな)
「でも正反対って感じだしー。藤森君、大学で友達多いってえりが言ってたか
ら派手な人なんだって思ってたんだけどー」
余計なお世話だ。なんて思ったけどぐっとこらえる。
(とにかく穏便に済まさねぇと)
「えり?」
「山本さんって同じサークルにいなかった?私えりと同じ学科の友達でなんとなく藤森君のこと聞いたことあるんだよー」
(それから……)
それから、どうする?
どんなに考えを巡らせてもなにもいい案が思いつかなかった。
相手は海堂の彼女。
対して俺は?
海堂にとってただの男友達だ。
「あ、えりね、藤森君とよく一緒にいた黒髪の男子とお話ししたかったって言ってたから、良かったら今度………聞いてるー?」
「あー…そうなんだ」
もう目を合わせることができなくて、顔をそむける。
そんなそっけない態度の俺を見て、東山さんは困惑したらしい。
今度は前に手を持ってきて自身のニットの裾をきゅっと掴んで、
「えー」
と言った。
そして海堂に耳打ちする。
「修司ぃーなんか感じ悪くない?聞いてた感じと違うんだけど」
「え?」
耳打ちの割には声が大きい。
俺に聞こえている。
「でも、さっきまでは普通に話してくれてたけど…」
海堂は海堂で困って俺を見てくる。
さぁ…と風が髪をなびかせる。
さっきまで心地よかったのに今は肌寒い。
「あ、あの、藤森…」
恐る恐る声をかける海堂。
だけど俺は反応できなくて…。
「もーいいよ、行こー」
突然東山さんは海堂の腕を掴んで、ぐいぐいと引っ張り始めた。
な、何やってんだよ…。
「あずさ?」
「だって時間もったいないんだもん。」
そう言ってふてくされた顔で俺を見る。
俺も少しむっとした。
「それより修司!今からデートしよ♡このあたりにおいしいパスタ屋さんがあるんだって!食べてみたいな♡」
うふふっと笑う彼女。
海堂は驚きながらも東山さんが引っ張る方向へ進んでいく。
「え」
は?何?なんで?
なんでそんな話になってんだよ。デート?え?
2人の間で勝手に話が進んでいくことに焦る。
いや、だって、だってさ…!
「海堂!!」
がっと自由になっているほうの海堂の腕を掴む。
東山さんは動かなくなったことを疑問に思い俺のほうを振り向いた。
そしてそんな彼女を睨むと。
「今遊んでるの、俺なんだけど!!!」
思いっきり叫んだ。
(…したくない。2人きりにしたくない)
少なくとも今は。じゃないと…)
ぐっと手に力を入れる。
(おかしくなりそうだ…)
あたりが静寂に包みこまれる。
誰も声を動かなかった。
きっと俺は顔色がすこぶる悪かったことだろう。
頭痛と汗が収まらなかった。
「…も」
静寂を破ったのは東山さんだった。
「もぉーびっくりしたー。いきなり大声出さないでよー」
へなへなと海堂の体に沿ってしゃがみ込む。
が、すぐに立ち上がって、
「何よ、一日遊んだのにまだ遊び足りないの?私だって修司と遊びたいんだけど」
海堂の後ろに隠れながらそう言い放つ。
ものすごく怒っている顔だ。
「ねっ、修司?」
「…えっ」
彼氏に同意を求める。
でも、海堂は俺と東山さんの顔を何度か見比べて、
「う、うーん…」
と言ったきり黙ってしまった。
………。
また沈黙が訪れる。
東山さんは眉間にしわを寄せる。
でも、次の瞬間盛大にため息をついた。
「……はぁ…わかったわよ」
まったく…という感じで前髪をかき上げる。
そして、トートバックをかけなおすと、
「やっぱり今日は帰るわね。ちょっとわがまま言っちゃった感あるし」
海堂から離れて、そう言ってくれた。
「ご、ごめんね、あずさ…」
海堂が東山さんに謝る。
俺もそれを見てほっと胸を撫で下ろした。
「いいのいいの。藤森君と先に遊んでたのは事実なんだし」
海堂に背中を向けて歩き出そうとする。
だが、
「その代わり!」
くるりと方向転換して、海堂の首に手を回すと、
「来週はちゃんと遊んでよね」
ちゅっ
と頬に口づけした…。
「……………………ッ」
びくっと体が震える。
やばい、まじで倒れそう…。
「あ、あずさぁ…っ」
「また真っ赤になってるー♪ふふっ修司大好き!」
海堂はまた困ったように顔を赤くする。
俺の見たことのない表情…。
そしてそんな海堂にぎゅーっと抱き着く東山さん。
「それじゃ!藤森君もおやすみー」
走り去りながら手を振って帰っていく。
俺は、何も言えずうつむくことしかできなかった…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……
「…さっきはごめんね。あずさが…その…」
街灯に照らされる道路。
公園を出て駐車場に向かって歩いていた。
「い、いや、全然?」
何にも気にしてないという口調で返す。
でも海堂の顔を見れない。
震える体を隠すように、ズボンのポケットに手を突っ込んでいた。
「…なんか、すげぇ仲良さそうだな…」
「うん、毎日電話してるしよく遊んでるよ」
とりあえず何か会話を。と思ったが、聞きたくない答えが返ってきて、喉の奥が詰まった感じがした。
しーん。
静寂が訪れる。
歩いてるのに、止まっている感覚に陥った。
(あ、あれ。や、やっぱりあまり調子よくないのかな?えっと、何か話さないと…)
気配だけで海堂が焦ってるのがわかった。
数秒経って、何か思いついたのか、明るい声でまた話しかけてくる。
「……あ!そうだ藤森!俺もずっと聞こうと思ってたんだけど!」
「何」
「藤森は彼女いるの?」
ぐっ。
喉どころか胸まで詰まる音が聞こえた。
心臓が、頭がおかしくなる。
息が、できねぇ…。
でも、会話、しねぇと…。
「い…いねぇ、けど…」
ようやく絞り出す。
かすかすの音が出た。
でも海堂はそんなことに気が付かず、えー!というテンションで、
「うそ!絶対いると思ってた!」
信じられない!と笑った。
その、無邪気な笑顔が…怖い。
「…なんで?」
「え、だって、藤森、いつも明るいし、話すの上手だし、かっこいいし、絶対モテるなーって思ってたんだけど!」
1人で盛り上がる海堂。
俺はぎりっと歯を食いしばって…
「そ…」
「そう見えるかー!?」
にかっととびっきりの笑顔で返した。
「まぁ、、モテないって言ったら嘘になるか?なんてなー!」
「あはは、どっちだよー」
海堂が俺の笑顔を見て、安心したようにつられてのんきに笑う。
顔色は相変わらず悪いし、口角は引きつってるのに。
「それよりあずさちゃん?可愛い彼女じゃん!」
うりうりと海堂の腕を肘で小突いた。
「え、あ、ありがとう」
嬉しそうに照れている。
嫌だ。そんな表情見たくない。
「すごくいい人だよ。この前もお弁当作ってくれたし、熱出した時もお見舞いに来てくれたし」
「べたぼれじゃんかーこのー」
「やめてよー」
震える手で海堂をいじる。
駐車場に着く。
「あ、藤森の車あった!」
「おー、ちょっと先乗ってろ!運転の前にちょっと一服してくるわ」
「はーい」
海堂を先に乗せて離れた場所に歩く。
そして見えないところまで移動すると、
しゃがみ込んで静かに涙を流した。
(彼女がいるか?んなもん、いるわけ、いるわけねぇだろ。だって、付き合いたい人は…付き合いたい人は…っ)
「………………お前なんだから…」
ザザッと脳内に市ノ宮との会話が流れる。
〈望みあるの?きっとむずかしいんじゃない?〉
市ノ宮、お前の言うとおりだったよ。
やっぱり、やめておけばよかった…。
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