知り合えてよかった
「う---ん」
海堂が悩む声が聞こえる。
今日は海堂と一緒に大きめの画材屋さんへ来た。
色々切れかけてるから、買いに行きたかったのだと話してくれたから、どうせならと俺も一緒に行くことにした。
「どっちのほうがいいかなぁ」
「海堂、探し物は見つかったか」
「あ、藤森!」
海堂はさっきから10分以上同じところに立ち止まって悩んでいた。
だから見かねた俺は声をかける。
そうしたら、聞いてください!と言わんばかりに相談を持ち掛けてきた。
「ちょうどいいところに!どっちのほうがいいと思う?」
「ん?何が………??」
すっと目の前に出された海堂の両手は絵の具をつまんでいた。
ラベルにはそれぞれ別の名前が書いてあるが…。
クリムソンレーキ?とカドミウムレッドパープル?
「俺今度紅葉描きたいんだけど、その時のために赤色が欲しくて」
「え?」
「どっちの色のほうがいいかなぁ?」
「あ゛、あーう--ん…そう、だなぁ…」
まさかの質問に動揺してしまった。
何度も見比べる。が。
え、どっちも同じ色じゃねぇの?違いがわかんねぇんだけど!
ちらりと海堂を見る。
まるで子犬のようにきらきらした目で俺を見ていた。
「そう、だなぁ…」
俺は美術に関しては全くの専門外だ。
それを正直に伝えるか?
で、でもせっかく頼ってくれてるし…。
どっち?
海堂の目はずっと俺にそう問いかけている。
よし、こうなったら…これしかない!
「うん、、よし、じゃあさ…」
「うん!」
「迷ったら、全部買う!!」
ドンっ!と自信満々の答えとともに海堂を指さす。
「っていうのはどうだ…?」
「…」
海堂はじっと2つの絵の具を見つめている。
あれ、まずったか…?使えねー男とか思われたか…?
額から汗が垂れた。
「そうだよね!実はどっちも捨てがたかったんだ!相談してよかったー。レジ行ってくるね!!」
ありがとうと言いながら海堂はとびきりの笑顔を作った。
周りに花が咲く。あぁ、かわいい…。
そしてぱたぱたと駆け足でレジに向かった。
(ほっ何とかなった…)
無事乗り切って胸をなでおろした。
が、俺には芸術の才能がまるっきりないことを自覚した瞬間だった。
「はぁーいっぱい買えたー」
がっさがっさと音を立てる。
海堂は大きな袋を両手で抱え、時折中身を見てふふっと笑った。
「ここ遠いからなかなか来れないんだ。車出してくれてありがとう」
一緒に歩きながら、駐車場に向かう。
楽しかった!とも付け加えてくれた。
「いやいや全然!車くらいいくらでも出すし!」
俺は照れ隠しで頭をかきながらそう答える。
車くらい出すよ、こんな喜んでくれるなら、本当いくらでも…。
じっ
俺は無意識のうちに海堂を見ていた。
これが恋だと自覚してからというもの、気が付くと海堂を見てしまっている。
今何考えてる?だとか。
優しい顔してるな。だとか
髪がきれいだな。だとか
身長差あるな。だとか。
なんて見とれてたら、海堂がその視線に気が付いたのか。
目が合う。
「?」
そして、にこっと笑顔を向けてくれた。
「~~~~っ」
まただ。
またこの感覚。
こいつの笑顔を見るといつも頭がぐらぐらする。
あの時と同じ…。
動物園の日、キスしようとしたときのことを思い出す。
って駄目だ!
前はなんかばれなかったけど、2回もそんなことしたら…
ぶんぶんと頭を振って雑念を吹き飛ばそうとする。
平常心平常心。落ち着け俺…
駐車場まであともうちょっと。
大丈夫。
こつん。
その時、何かが俺の手に当たった。
どきんと心臓が跳ねる。
そしてもう一度、こつんと当たる。
(今、手…当たった?)
いつの間にか海堂が袋を片手で持っていて、俺側の手は歩きに合わせて前後に振っていた。
隣に並んで歩いてるからそれが当たったのだろう。
顔が熱くなる。
そして、少しうつむいた。
(…やっぱり、触れたい、手、つなぎたい)
さっき吹き飛ばしたはずの雑念が戻ってくる。
だって、
こんなに近くにいるんだ。少しくらい触れたっていいじゃんか。
そっと手を伸ばす。
そう、少しくらい…
きゅっ
優しく、つまむように相手の手を包んだ。
「わっ!ごめん、手当たった!?」
ばっと勢いよく海堂が手を引っ込めた。
俺の指は行き場をなくした。
そこで、俺ははっとする。
「えっ、い、いや、俺こそ…わ、わりぃ…」
はは…と頭をかきながら弱々しく笑いながら謝る。
が、すぐに笑顔が消える。
もう、本当どうしたらいいんだ。
自分を制御できない。
またこんなことして、いい加減怪しまれるだろ…。
ふらふらと歩道の脇にいく。
壁に手をつくと、もう片方の手で口を塞いで、
「まじで俺どうかしてる。まじで俺どうかしてる。まじで俺どうかしてる。まじで俺どうかしてる。まじで俺どうかしてる。まじで俺どうかしてる。」
ぶつぶつとそうつぶやいた。
傍から見たら怪しいこと極まりない。
「藤森?」
当然海堂もそう見えたに違いない。
ゆっくりと近づいてくる。
「か、顔赤いけど大丈夫?汗も出てるし…」
「え、えぇっと、大丈夫、へーきへーき…」
返事はするが、そっちを向けない。
怖くて見れない。
「藤森…」
海堂の声色も弱々しくなる。
と、そうだ!と聞こえたと思うと、
「藤森、あっちに公園あるからちょっと休もう」
そう言って向こうの方を指さした。
「ごめんね。藤森は画材に興味ないのに付き合わせちゃって」
公園のベンチ。ふたり並んで座る。
俺が何を言えばいいかと悩んでいたら、海堂の方から切り出してくれた。
でも、その声はすごく申し訳無さそうだ。
「俺だけテンション上がって疲れちゃったよね…」
あはは…。
下を見ながら小さく笑う。
でも、あまりに見当違いの謝罪にすぐ否定する。
「そ、そんなんじゃねぇって!」
「でも…」
「お、お前は何も悪くないっていうか、俺の問題っていうか…」
「?」
「俺だって今日楽しかったし、疲れてなんか…」
だから気にするな。
そう必死に伝えた。
海堂は俺の目を驚いたように見つめていたが、また視線を落とす。
風かさらりと流れる。
「…藤森。なんとなく気づいてるかもしれないけど、俺、友達少ないんだ」
「え?」
突然。
静かに海堂は打ち明けた。
相変わらずうつむいたまま。
表情はわからないが、少し声が震えているような気がした。
「元々人見知りする性格で、なんだかちょっとずれてるみたいだし、人間関係築くの下手で…」
「かいど…」
「でも!」
なんて返すのが正解かわからなく戸惑う。
だけど、海堂はバッと顔を上げて、俺を見て微笑んだ。
「藤森は俺の話をいつもちゃんと聞いてくれるからすごく嬉しいんだ。
それに、まだ出会ってからそんなに立ってないけど、藤森なら信頼できて…」
一呼吸おく。すぅっと息を吸い込んで
「俺、藤森と知り合えて本当に良かった」
そう言って、いつもの、あの、俺が大好きな笑顔を向けてきた。
「何が言いたいかっていうと、えっと、つまりいつも遊んでくれてありがとう」
えへへ…と頬をかいて照れる。
ずっと笑顔のままで。お花を周りに咲かせて。
(ああ。俺、やっぱりこいつのことが好きだ)
どくん。心臓がうるさい。
(大好きだ)
どくん。止まらない。
俺は、そっと海堂の手に自分の手を重ねた。
「藤森?」
「………海堂」
どうしたの?という表情の海堂の瞳だけを見つめる。
やっぱり、俺、俺…。
「俺、お前のこと…」
「あれ?、あそこにいるのって…修司?」
その時、遠くのほうから声が聞こえた。
女性の、声…?
その後すぐにたったったと音がする。
え?と思った時にはもう駆け寄ってきて…。
そして…
がばっ!
「やっぱり修司だー!!」
「わっ」
海堂に抱き着いた……。
………………。
………………………………。
………………………………………………え?
「あ、あずさ!?なんでここにいるの?」
「私もびっくり!友達とショッピング行った帰りに公園の前通ったら修司がいるんだもの!」
海堂は当たり前のように抱き着いてきた女の子と話している。
あずさと呼ばれた女の子も当たり前のように返答をする。
え?ちょっと待って。
「それよりも画材屋さん行くんだったら私も一緒に行きたかったのにー」
拗ねたように人差し指を唇に当てて頬を膨らませる。
そんな様子にごめんねと返す海堂。
本当に待って。
………………だれ?
「か、海堂…?あの…さ…」
ようやく声を絞り出す。
多分かすれていたと思う。
「あ、ごめんね、藤森。この人は…」
「だれー?修司の友達?」
女の子が俺の顔をのぞき込む。
ぱっちりした瞳。ウェーブがかった茶髪の髪をサイドテールにしている。
第一印象はあざとい。だった。
「うん、そうだよ。前に話してた同じ大学の人」
「あー!この人が!」
何の話?
俺わかんないんだけど…。
そんな俺の困惑とは反対に女の子は海堂の腕に抱き着いて…
「初めまして!修司の彼女の東山あずさっていいます」
にっこり微笑んだ。
「修司がいつもお世話になってます♡」
最後にそう付け加えて。
「か、彼女…」
彼女ーーーーーーーーーーー!?
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