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ずっと貴方だけが好きです

「……まあ、そんな感じだよ。俺と市ノ宮の関係は」

「…………」


話し終えた俺は、静かにそう締めくくった。

海堂は俺をじっと見たまま、何も言えずにいる。


「あの時の俺は、本当に自分を大切にできてなかった。

はじめは何も考えずに、契約という名のもと一緒に寝ちゃって、その内に目的がどんどん変わって。

辛くなるたびにあいつに依存して、気持ちが落ち着く代わりに反動で不安がさらに大きくなって本当に苦しかった。

その時だけは心が安定するけど、決して良くなるわけじゃなくて、すぐにまた不安になって、自分の足で歩けなくて、甘えてばかりで」

「……うん」


俺は逆に海堂の顔を見れずにずっと海を見つめている。

ただ、声を荒げるわけでも、沈むわけでも無く。

本当に海のように静かに話していた。


「きっと、海堂からしたらそんな俺、想像できねぇよな。

お前の前じゃ、いつも明るかったし………もしかしたら嫌いになるかな」

「…そ、そんなことないよ。

…そんなに辛い思いしてたなんて知らなくて、俺、俺…っ」


それを聞いてふるふると顔を横に振る海堂。

声が、すごく泣きそうだ。


でも、それ以上なんて言えばいいのか、そんな感じで言葉を紡げなくなってしまう。






「だけどさ!」

「?」


突然、俺は少し大きな声を出して海堂の方を見た。

相手は声に驚いたのか、びっくりして目を丸くしている。

浮かべた涙が月明かりできらりと光って。



「海堂に出会ってすべてが変わった」

「え?」


海堂は何度か瞬きをする。

なんのこと?そう言いたげだ。


そんな恋人を見て優しく微笑む。


「初めて本気でどうしようもないくらい好きな人ができて、付き合えてこんな長い時間一緒にいてくれて。

毎日楽しくて幸せすぎて、この人のために頑張って生きて行こうって思ったし、今でも思ってる」

「あ…」


そう言うと海堂はかあぁっと赤くなった。

俺は続ける。


「……確かにさ、市ノ宮だけが知ってることは多いかもしれねーけど、俺にとっては、何だろうな…。

友達として過ごした時間はよかったんだけど…。

あいつが海堂に言ったようなことはあまり思い出したいものじゃないんだよ」

「そう、なんだ…」

「…俺、本当は市ノ宮とはずっと普通の友人でいたかった。

きっと他にもやり方があったはずなのに俺が弱かったせいで、あいつの言うがままに動いちゃったし、自分も大切にできなかった。

……………今でもさ、たまに思うよ」


片手で顔を覆う。

そして、一度深く息を吐いた。


「あの時に海堂と出会っていれば、あんな生活を送ってなかったのにって…。

せっかく同じ大学にいたのに、なんで知り合えなかったんだろうって…っ」


声が震える。そしてうつむく。



「だから…だから!

頼むから、迷惑かけてるとか釣り合わないとか、そんな理由で別れるとか言わないでほしい!

俺はそんな風に今まで一度も思ったことないし、俺は、俺は…



ずっと海堂修司だけが好きです」



涙を流しながら、海堂の顔をまっすぐ見つめながら、


そう伝えた。





静寂が訪れる。

暗いけど、海堂も泣いていたのは分かった。

隣から嗚咽が聞こえる。


俺も、すすりなく声を漏らした。



そして、しばらくしてから、ぽつりと呟いた。



「…いいの?」

「え?」


何に対しての返しかわからず、それしか言えないでいると、


「まだ、まだ俺のこと好きって言ってくれるの…?

こんなに、俺、藤森のこと傷つけたのに…自分勝手な行動したのに…!

藤森は、まだ俺と一緒にいてくれるの?」


一層泣きじゃくりながら教えてくれた。


それを聞いて、俺は思わず海堂の手を握りしめる。

予想外の行動だったのか、声が止まった。


そして俺は叫んだ。


「あたりまえだろ!

てか、お前がよほど俺のこと嫌いにならない限り、俺は手放す気ないから!」



そう伝える。ずっと恋人を見つめたまま、一番真面目な顔をして。


…だけど海堂はうつむいてしまい、また波の音しか聞こえなくなった。



「…海堂?」


そっと声をかける。

どうしよう、抱きしめていいのか?

でも、それで嫌われたら………。


どうするのが正解かわからなくなってしまい、頬をぽりぽりとかく。




だけど次の瞬間、重みが加わり、思わず後ろに手をついた。

何が起こったのかと、何回か瞬きして理解した。



「か……かい……」

「俺も、俺も…っ藤森昭夫くんだけがずっと好きです…っ」



海堂が抱き着いてくれていた。

ぼろぼろ涙を流しながら、ぎゅうっと俺の腰に腕を回して、顔を胸にうずめて。



「ごめんなさい、ごめんなさい…っごめんなさい……!!」


何度も謝罪の言葉を涙とともに何度も何度もこぼした。

そんな細い背中を俺も抱き返しながら優しく撫でる。


「海堂、ありがとう…っ。

俺もごめんな。たくさん辛い思いさせて、俺が至らなくて…!!」



そして、俺も力の限り抱きしめた。


俺たちしかいない砂浜。

真っ暗な世界に月が優しく照らして海がきらきらと光った。



それから時間も忘れて、2人で泣いた。





――――――――――――――――――――――――……





その後しばらくしてから俺の家に戻って、泣きやまない海堂を慰めた。

あの日みたいにコンビニで色々ご飯買って、一緒に食べて。

少しずつ笑顔が出てきた彼を見てほっとする。


それから、お風呂で冷え切った体を温めてもらって。

サイズの合わない俺の服着てもらって、シャンプーのいい香りがして。


一緒に布団の中でくっついて抱き合った。


(なんか懐かしいな。すごく落ち着く…。

でも、ちょっと痩せたか?)


そんなことを思いつつ、体を撫でるとくすぐったそうに笑い声が漏れて俺もつられて笑った。



「あの…藤森」

「ん?」


ようやく落ち着いてきたのか、泣き腫らして赤い目をゆっくり閉じる。

そんな彼の髪をやさしく撫でる。


それからまたゆっくり口を開いた。




「俺ね、多分大学生の頃藤森に会ったことあると思う」

「え?」


だって、今までそんな話聞いたことない。

本気で驚いた声を出してしまった。

そんな声を聞いて、慌てて付け足す。


「い、いや、確信がなくて言ったことなかったんだけど…。

……大学2年くらいだったと思うんだけど、俺、授業に遅れそうで慌てて走ってたら、こけて色鉛筆床にぶちまけちゃったんだ。

その時、短髪の学生が一緒に拾ってくれたんだけど…もしかして、今思えばあれ藤森だったのかなって…」

「え?………あ!あったなぁ、そんなこと!」


確かに俺にも記憶があった。

1人で廊下歩いてたら盛大に何もない所でこけた人がいたことを思い出す。

あの時は一緒に拾うのに必死だったし、拾い終えたらすぐに行っちゃったから結局ほとんど話せずに終わっちゃったけど。


お礼を言ってくれた時のあの笑顔。

すごく優しくてほんわかしてて、いい感じの人だなって思ったのは今でも覚えてる。

こういう人となら幸せになれそうだな。とも、思った記憶がある。



「あれ、やっぱり藤森だったんだね!あの時は拾ってくれてありがとう」

「え?い、いや、あんなの全然!」


嬉しそうに突然お礼を言われて、つい照れる。

だけど、それと同時に少し後悔もあった。


「…そっか、会ってたんだ。意地でももっと話しときゃよかったな…」


はは…と弱気に笑う。

そんな俺を見て、海堂は、


「あの、藤森」


また俺の名前を呼んだ。


「大丈夫だよ」

「?」

「え、えっと!

何が言いたいかって言ったらつまり、その…きっとそういう風になってたんだよ。

あの時はきっとその時じゃなかった。

藤森が大学生の頃に俺のこと好きになって付き合ったとしても、上手くいかなかったかもしれないよ。

それに、藤森が思い出したくないことも藤森を成長させるためのきっと大事な過程で…。だから、その…えぇっとつまり…。

…だから神様はもう一度海で藤森と会わせてくれたんだよ!」

「海堂…」


そう言ってくれて、つい涙ぐむ。


「ご、ごめん、俺、言いたいこと伝えるの下手で…」


海堂はあわあわと弁解する。

それでも海堂は俺を元気づけようとしてくれたのは十分伝わった。


「いや、十分だよ。海堂、ありがとうな」

「ぜ、全然…。こんなことだけしか言えないけど…」



ぎゅううっと力いっぱい抱きしめる。

そして、


「好き。大好き。愛してる」


耳元で囁いた。



「えっ、ちょ、ちょっと、恥ずかしいよ…!」


突然言われた言葉に照れてしまったみたいで、慌てる海堂。

鼓動が一気に早くなったのはすぐ伝わった。


そんな彼がおもしろくてくすくすと笑う。


「なんだよ、こんなに一緒にいても慣れねぇのかよ」

「な、慣れないよ…恥ずかしいもの…」


うぅ…と声を漏らして、目を瞑ってしまう。

見てたらすごくかわいいなって思って。


本当に何も変わらない。

ずっと素直で、純粋で、優しい奴。



ふと、笑いのをやめて今度は真面目な顔をする。


「…海堂は俺のこと好き?」

「え?え?」


こんなことも聞かれるとは思ってなかったらしい。

更に慌てて、目をすごく泳がせてる。


「それは、藤森と同じです…」

「駄目。ちゃんと言葉で聞きたい」

「えっなんで?」

「…お前からあんまり言われたことないから…」


この10年、一体何回海堂から言葉にしてもらっただろうか。

意地悪とかではなく、純粋に聞きたかった。

せっかく仲直りしたのだから、ちゃんと言葉にしてほしかった。




「好きだよ…」


ぽつりと呟く。

本当に小さな声で、そう言ってくれる。


聞き逃しそうなボリュームだったけど、しっかり俺の耳には届いて。


「………………っ」


次の瞬間、俺は恋人の唇を塞いでいた。



「ふじ…ん…」


何度もキスして、抱きしめて。


海堂の顔は真っ赤だったけど、そんなのお構いなしに何度も好きだと言って。

しつこいくらいに言って。



「海堂」

「な、何…?」

「抱いていい?」

「………うん」


こくりと恥ずかしそうに頷いて、俺の胸に顔を埋める。

そんな彼を優しく優しく、壊れ物を扱うように服を脱がせて、愛撫して、抱き合って。


一晩中愛し合った。



永遠に、こんな時間が続きますように。

そう心の中で呟きながら、ずっと海堂に気持ちを伝え続けた。





――――――――――――――――――――――――……





まどろみの中、海堂がはうとうとしている。

さすがに俺も眠い。


海堂が風邪をひかないように、服を着せた後、またゆっくりと抱きしめる。

恋人も俺の腕枕を嬉しそうに、寄り添ってくれて。


だけど眠りに落ちる直前、


「藤森、いっぱい不安にさせちゃってごめんね…」


そう呟いた。

そして、その後は寝息しか聞こえなくなった。



「………」


俺はその言葉を聞いて、抱きしめられながら眠る恋人の姿を見つめながら。







市ノ宮、許さない。




…その感情だけが胸に張り付いていた。


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