終わりにしよう
あれからさらに時間が経って、俺たちは無事4年生になった。
4年生にもなると、ほぼ単位は取り終わっていて。
その代わり、就活が始まりお互い忙しくなっていった。
俺は教職をとっていたのと、もともと先生になりたかったこともあり、高校の教師として働くことが決まって。
市ノ宮は誰もが知る大手企業に就職が決まった。
だけど、
「…アメリカに行くことになった」
「ほー。そりゃなんともお前らしいじゃん。行ってらー」
俺の部屋にあるローテーブルで、お菓子を食べながらそう聞かされる。
市ノ宮は反対側での場所で、本を読みながら座っていた。
どうやら聞くところによると、本社は日本だけど、世界中に支社があるらしく。
市ノ宮はその中でも、アメリカにある支社に配属がもう決まったらしい。
アメリカに行くなんて、なんかスケールでかすぎてよくわかんねぇけど。
すごいことだろうから、おめでとうと言っておく。
「…………全然おめでたくない」
でも、市ノ宮は全く嬉しそうな顔をしない。
むしろ不服そうな顔をしている。
「なんで。英語喋れない俺からしたら羨ましい限りだぜ?」
「別に希望して行くわけじゃない。
ただ、面接のときに英会話したらなぜか海外勤務にされた」
「そ、そうか…」
こいつのことだ、多分ペラペラと話してしまったんだろう。
さすができる男。
まぁ、しょうがないっちゃしょうがないような気もするが…。
「…………」
でも、これはチャンスかもしれない。
思い切って密かに決心したことを口に出した。
「なあ、市ノ宮。俺たちさ、もうこれっきりにしないか」
「?…何が?」
勇気を出して切り出した俺に対して、目の前の人はきょとんとした顔をしている。
何のことか全然見当もついていない。
そんな感じだ。
だから、俺はもう少し具体的に伝える。
「何がって…関係を持つこと」
「……………関係って…まさかセフレやめたいってこと?」
「あぁ」
卒業を機にもうやめた方がお互いのためとはずっと思っていた。
そして、就活してその気持ちはもっと強くなった。
だって、これからもそんな関係続けていたら、社会人なんてもっと辛いことやストレスかかるのに、いよいよ浮き上がれなくなる。
余計に依存してしまうし、体に癒しを求めていたらお互いのためにならないって思った。
でも、ずるずると続いてしまうことは恐れていたところはあったから、きっぱり断つには物理的に離れるのが一番とも考えていて。
…市ノ宮のアメリカ行きは、俺にとって都合のいいものだった。
「…でも、俺に危険な橋渡らせたくないから、藤森が代わりにセフレになってくれたんでしょ。そんなことしたら俺、…また遊ぶよ?」
ここまで話して、市ノ宮が口を開く。
そして、当時の契約のことを話し始めた。
だけど、俺はそんな彼に対して、
「別にいいよ、もう」
そうはっきりと言った。
「…え?」
「だって、もうお前だって大人だろ」
市ノ宮だって社会人になったら俺がどうこうする必要もない。
学校に来るとかいう話も無くなるし、もう十分遊んだだろ。
もしこれからまた誰かと遊びたければそれはそれで遊べばいい。
俺は何も思わないし口出しもしない。
もう俺が縛る必要なんてない。
何だって自己責任で自由にやればいい。
あとは俺がしっかりすればいい話。
強くならねぇと。
…いい加減、母さんとの思い出を受け入れて、歩き出さないと。
「それに俺さ、やっぱり大切な人見つけたいんだ。
ちゃんと好きになれる人。俺を好きと言ってくれる人。
今後は本気で守ってあげたい、幸せにしてあげたいって思える人とだけそういうことしたいんだ。
…お前にはちょっと理解できない感情かもしれないけどさ」
困った顔をしながら、少し笑う。
だから、こんな関係は終わりだ。
そう心境を伝えた。
市ノ宮の事だ。いつもどおり淡々と
「あっそ」
なんて言って終わるだろう。
そう勝手に思っていた。
なのに。
「……………………」
市ノ宮は明らかに動揺していた。
読んでいた本をバサッと落とし、俺の顔を瞬きせずに見つめている。
こいつのこんな顔…初めて見た。
(え?なんで?なんで即答しないんだよ)
俺もどう反応したらいいかわからず、しばらく動けなかったが、にかっと明るく笑った。
「し、心配すんなよ。俺、お前とは普通の友達でずっといたいと思ってたんだ。
市ノ宮って、ほら、頭いいし、俺と結構馬が合うっていうか、性格全然違うのにずっと話してられるし!親友として最高だと思うんだよな!」
「………」
「それに俺たちの関係って、ほら全然普通じゃないし!
やっぱり社会人としてよくないというかさ!」
「………」
市ノ宮はずっと俺を見つめたまま微動だにしない。
言葉も発しない。
「あ、安心しろって…。
定期的にLINEするし、愚痴も聞くし。
あ、日本帰ってきたときは飲みに行こうぜ!…な?」
より明るく、卒業してからも仲良くしたいという気持ちを伝えた。
でも、市ノ宮は。
「…………そう…」
最後にぽつりと返事したっきり俺の顔を見ようとしなかった。
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