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深海まで沈んで

「そう、そんな過去があったんだね。

本当に苦しいことなのに、話してくれてありがとう」

「ううん、こっちこそ聞いてくれてありがとな…」


市ノ宮の言葉が胸にしみる。

ゆっくりと目を閉じて一度深く息を吸うと、


「市ノ宮の言う通り、母さんは生きるのに必死だった。

…好きだった人に似てきた俺に求めちゃうくらい、追い詰められてたんだと思う。

それに気が付いてあげられなかった」

「…そう」


市ノ宮もそれ以上何も言えないようだった。

それだけ呟いて、また部屋はまた静かになった。




「市ノ宮」

「?」


また口を開いた俺に、耳を傾ける。


「………俺、誰も好きになれないんだ。思い出しちゃうんだよ…。

母さんが女になったときのこと。俺を男としてみたときのこと」

「うん」

「お前、前言ったよな。付き合えば好きになるかもって」

「うん」

「…実は高校3年の時さ、付き合ったことあったんだ。

友達だった女の子と」



何人かで一緒に遊んでたメンバーの1人が告白してくれて。

告白なんて人生で初めてだったから素直に嬉しかったし、普通に仲良かったし、何気なくOKしたんだ。


周りからもお似合いだとか囃し立てられてさ。

相手の子もずっと俺のこと好きだったみたいで、付き合えて嬉しいって周りにも言ってたみたい。

デートだって何回かした。



…だけどさ、できなかった。

手つなぐのも、キスも、ハグも。恋人らしいことは何も。


してあげようって思ったよ?

男友達にもいつまで待たせるんだ、早くしてやれよって言われたし。


でも、どんなに決意しても、次の日こそ!って覚悟決めても、いざその時が来ると吐きそうになるんだ。

結局ただご飯食べたり、ゲーセンで遊んで終わるんだ。


友達にしか見れなかった。

異性だって思うのが怖くなってしまっていた。



…最終的に言われたよ。

「藤森は私の事好きじゃないよね?なんで付き合ってるの?」


それ聞いて思ったよ。

あぁ、俺、もうきっと誰も好きになれない人間になってしまったんだって。

…その子にも本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



「母さんのせいにしたくない。もう亡くなって1年経った。

大変な思いをした母さんの分まで幸せにならなきゃって決意した。

なのに、なのに!大学生になったらもう大丈夫だと思ったのに!

…今でもフラッシュバックするんだ。

母さんのあの顔。亡くなったときの様子。

どこから、どうしてあんなことになっちゃったんだろうって!

どこから間違えちゃったんだろうって!!

もう、この世にいないのに、大切な俺の唯一の家族だったのに…こんな、俺は…………」



また涙がこぼれてしまう。

手の甲で拭いても間に合わず、市ノ宮の服にまで染み込んでしまった。


彼はまたそんな俺を相変わらず優しくなで続けてくれる。

そして、ゆっくりと口を開いた。



「でもさ、俺とはキスできたよね」

「……え?」


思っていなかった切り口に、思わず市ノ宮の顔を見る。

だけど、いたって真面目な顔をしている。

ふざけて言ってるわけではないのはすぐわかった。


「そ、それは、お前が…」


その時のことを思い出す。

一方的だったから、そう顔が火照りながら言い返す。


「でもそれで感じたよね」

「……まぁ…」

「もしかしたら男なら大丈夫なんじゃない」


さらにびっくりするような発言が出てきて、顔がもっと熱くなった。


「え!?で、でも男と付き合うなんて…!」


慌てて言い返す。

その考えは正直な話、至ったことはなかった。

確かに、理論的にはそうなると思うけど…。


でも、こいつは、付き合ってないにしろ男性と関係持ってるんだよな…。

それに今の時代、全然ありえない話じゃない。

だけどつい動揺してしまった。



そんな俺を見て、市ノ宮はふっと軽く笑う。


「別に付き合えまで言ってないよ。

…あ、安心して。少なくとも俺はあんたと恋愛する気無いし」


そこはしれっと言う。

まぁ、セフレって名のもとの契約だしな…。


「…ただ、リハビリでならいいんじゃない?」

「…でも…」

「そうしたらそのうち好きな人も出来るかもしれないし。だから」


撫でていた手を離す。

そして、俺の背中に手を回して抱き着いてきた。


「だから、俺には弱い部分も全部出して、甘えていいよ」

「…………いいのか?」

「もうここまで知っちゃったらどこまで甘えられたって同じでしょ?」


温かい。

否定することもなく、同情するだけでもなく。

ただ、俺のことを受け入れてくれた。


「市ノ……っ」


俺も市ノ宮の細い体に腕を回す。

そして、勢いよく押し倒した。


「あっ」


ベッドから軋んだ音がする。

市ノ宮は押し倒されたことに少しだけ驚いたようだ。


そんなこと、お構いなしに俺は心情を全部吐き出した。



「市ノ宮っおれ、俺、ずっと辛かったんだ!

学校じゃ元気キャラみたいな感じで過ごしてたけど、家に帰るとどうしても夢を見たりして、思い出しちゃって…っ。

誰にも言えなくてっ、それでも亡くなった母さんのためにも明るく生きなきゃって思って!」


そう言って泣きつく。

そんな俺を軽蔑するわけでもなく、焦るわけでもなく、ただ淡々と背中を撫で続けてくれる。


「本当に今まで頑張ったんだね」

「うっぐす…」

「…そういう点でも、セフレ一人いた方が気が楽だよ」

「うん、うん…」

「それで気が楽になるんならいいと俺は思ってるし。

そういうことしてる時間くらい逃げても、罰は当たらないでしょ」

「………うん」


さらに力強く市ノ宮を抱きしめる。



「……市ノ宮」

「なに?」

「…キスしていい?」

「え?」


また、驚くような声を出す。

そりゃそうだ、突然俺から言い出すんだから。


でも、すぐに、


「いいよ。でもできるの?」


意地悪っぽくそう聞かれた。

あんなに顔真っ赤になっちゃうのに。

そう付け加えられる。


そう言われてバッと顔を上げて相手を見る。


「ば、馬鹿!俺だってやればできる…!」


そう言ったものの、一歩が踏み出せない。

されるのとするのじゃ、全然勇気が違う。


「ふふっすごく顔赤いよ?やっぱり俺からしようか?」


待ちくたびれた市ノ宮がそう提案してくれる。


「……うぅ」


我ながら、情けなくなってしまった。


「いいよ、次からしてくれれば」


俺の頬を撫でて、ゆっくり、優しく唇を触れて、誘導してくれた。


「…んっ」


何度も角度を変えて、舌を入れて、触れ合う。

そのたびにいやらしい音が響いて、脳がくらっとした。



そして、服を脱がせて、初めて市ノ宮の体を舐めた。

温かくて、きれいで、なめらかで。


…なんとなく男たちがこいつにはまる理由はわかった。

他の人にはない、何かを引き付ける魅力があるんだろう。


俺も服を脱ぎ捨てて、抱き合って、肌の温かさを知る。

お互いの大事なところを慰め合った。



「市ノ宮、入れたい…」

「ん…なんか積極的だね」


しっとりと汗で濡れた彼が息を弾ませながらそう返す。

そんな姿がすごくいやらしくて、俺の欲がどんどん膨らんでいく。


「うん、入れていいよ。

…でも、あまり声出しちゃだめだよ?

大家さんとか隣の人とかにばれちゃうし」

「が、頑張るのはお前の方だろ…っ」

「…ふふっ。それもそうだね」


そう笑うと、またゆっくりと口づけをした。


外は真っ暗。

カーテンも閉じて月明かりも入らない部屋の中。



俺は、初めて快感に溺れた。


声出すなって自分で言ってたのに、どうしても市ノ宮の口から甘い喘ぎ声が漏れて。

そのたびに唇で塞いでキスし合って。


「藤森、動くの下手」

「う、うるせ!は、初めてなんだから仕方ねーだろ…っ」


たまにそんな茶々入れられて。

だけど、最後まで優しくしてくれた。


息がどんどん荒くなっていく。

市ノ宮の体をしっかりつかんでただ欲望のまま突き上げて。


「あっふじ…っだ、だめ、そこ…っ」

「市ノ宮…っ、俺、もう無理…」



深い深い快感。

今まで経験したことのないくらい大きな欲望。

弱い部分を全部さらけ出して、自分だけでは支えきれなくなって。

もう浮き上がれない。


溺れて、溺れて、そのまま…


深海へ、沈んでいく。

そんな感覚。




快感が襲った後、意識が途切れそうなまどろみの中で、


「安心して。俺は藤森の事、誰よりもわかってあげられるから」


そう囁く声が聞こえた。











その日を境に、なんでもわかってくれるこいつに、俺はどんどん依存していった。


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