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いつか化けの皮が剥がれますよーに!

「失礼しまーす。

あの、市ノ宮くん、見事連れてくることに成功しました」


研究室の一室。

生活指導をしてる例の教授の元へ挨拶しに来た。


俺に続いて、市ノ宮が入る。

そして、先生は市ノ宮の顔を見た途端、


「い、市ノ宮くん…!

市ノ宮くうぅぅぅぅん!!」


表情が一気に光り輝いた。

ついでに頭のてっぺんも光り輝いた。


「来てくれたんだね!あぁ、嬉しいよ、これから毎日君の顔を見られることが!

い、いや!決してその、性的な意味ではなく!!」


(どういう意味だよ)


心の中で突っ込むがもう面倒くさいからそれ以上は考えないことにする。



先生は歓喜のあまり思わず抱きつこうと近寄るが、市ノ宮も近づいてきた分後ろに下がる。


「ほらほら、先生、嬉しい気持ちはわかりますけど積んである本に躓きますよ」


俺は間違いを起こさないように、適当に理由をつけつつそっと距離を取らせる。



「色々とご心配おかけして申し訳ありませんでした。

これからしっかり勉学に励みますのでよろしくお願い致します」


俺の横で丁寧にお辞儀する市ノ宮。

そして、頭を上げて


にこっ


と優しく微笑んだ。


すると、





「あ、あぁ…美、しい……」



先生が鼻血を出してぶっ倒れた。



「…………倒れた」

「行こう藤森。挨拶終わったからもういいでしょ」


そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、倒れた先生をほっといて部屋を出る市ノ宮。


「え?いいの、これほっといて。おーい」


鼻から血がだばだば流れて本当にほっといていいのか迷う。

あいつどんどん行っちゃうし。



「ふ、藤森…く…ん…」


その時、先生が頭を持ち上げて俺に声をかける。


「?なんすか?」

「ぐっ…じょぶ…」 


親指をぷるぷる震わせながら立ててそうにやっと笑った。


「先生もお大事にね。

あと、お気に入りなのはわかりますけど、手ぇ出して捕まんないようにね。

あいつ、あぁ見えておっかねぇから」


とりあえずティッシュ箱を渡してあげる。


そして、俺も部屋を出た。



幸せそうな顔をしているから、まぁ、結果オーライかな。

俺も約束果たしたし、単位がもらえりゃそれでいいか!





――――――――――――――――――――――――――――――――――……





「なぁ、お前、もしかしてああいうの日常茶飯事だったりするのか?」


さっさと歩いていた市ノ宮に追いつき、聞いてみる。


「まあね。あの先生はまだかわいい方だよ」

「あ、あれで!?」


俺の方を見るわけでもなく、ただ淡々とそう答える市ノ宮。

本当に何とも思ってないような顔だ。


「…そっすか」


俺はそうとだけ返すと、そのまま一緒に歩いた。



なんか、こいつはきっと俺と見てる世界が違うんだろうな。

そう思った。


あの悪魔の契約をしてしまった次の日、宣言通り市ノ宮は学校に来た。

というか、朝家を出たらアパートの下にいたのだ。


相変わらず細身のカットソーを着て、こぎれいにしている。

完全に俺のアパートに似合わな過ぎる。


実際、アパート前を掃いていた大家さんがこんなきれいな男の子、住んでいたかな?という感じで目を丸くして市ノ宮を見ていた。



「お、お前なんでいるんだよ…」


昨日の出来事を思い出して、ちょっと気まずい。


市ノ宮が階段から降りてくる俺を見上げる。

その顔は別に恥ずかしさとか、気まずさとか何もなくて。


そして一言。



「藤森、遅い」

「……知らねーよ…」


約束別にしてないじゃん…。





そして、市ノ宮は器用な人間だった。


突然学校に現れたこいつに学科の人間は驚き、変態以外の先生方も驚いた。


はじめはひそひそと話す連中ばかりだったが、講義を受けて1ヶ月経つ頃にはまったく状況が変わっていた。


テストを受ければ高得点連発。

先生に当てられれば期待以上の回答をする。

おまけに顔がよければスタイルもいい。

背だって俺ほどじゃないけど高い方だった。


おかげで市ノ宮人気はどんどん上がって、男子からは授業のわからないところを教えてくれとこいつに群がり、その中には自己紹介の時からかってやろうと言ってた俺の友達の姿もあった。



一方、女子は例のイケメンが現れたと大歓喜。


「私まりかっていうの!よろしくね♡」

「市ノ宮くん!今までどうしたの?ずっと心配してたんだよぉー」

「ねぇねぇ、お昼一緒に食べない??

美味しいランチのお店知ってるの♪」


女子力全開で市ノ宮へ我先にと話しかける。


そんな彼女たちを、へっという顔をしながら俺は見守っていた。


(あーあー女子の皆様ご愁傷様。

こいつの本性知ったらがっかりするだろうなぁ)


きっと市ノ宮のことだ。


「うるさい」


とか、ぴしゃりと言って周りの空気を凍り付かせるのだろう。

そして、女子全員に嫌われると。ざまあみろ。


そんなシナリオを描きながら、俺はこいつが本性を見せるのを楽しみにニヤニヤ見てる。



なのに。


「うん、よろしくね」


なんて爽やかに微笑みながら言ってんじゃねーよ。

お前誰だよ。


女子からの好感度が爆上がりする音が聞こえた。



(あいつ、猫被ってる上にカリスマの大魔王かよ!)


裏の顔を知ってる俺からしたら、ははは…とただ笑うしかなかった。






「ねーねー、市ノ宮くんってどんな子が好みなのかなー?」


一ヵ月もする頃には、女友達から市ノ宮の情報を聞かれることが多くなった。


「知らねーよ、自分で聞けばいいじゃん」

「い、いやよ!」

「なんで?」

「は…恥ずかしいもん…」

「…」


なにが、恥ずかしいもん…だよ!

俺に対してそんなしおらしくなったことないくせに!


あまりにもしつこいものだから、市ノ宮にとりあえず伝える。


「俺の友達がお前とデートしたいって」

「彼女いることにしておいて」


でも1秒もせずにそう返答が来るのがテンプレート。

びっくりするくらい興味ない顔してる。


「…さいですか」


そして、その子にそう伝えると。


「う…うえええぇっぇえっぇ!」


泣き出されてしまった。


仕方なしに、そこらへんのレストラン行って落ち着くまで話を聞いてあげる。

すると決まって、


「藤森って優しいんだね…。市ノ宮くんじゃなくて藤森と付き合おうかなー」


なんていうもんだから。


「え、そんなこと言われても困る……」


ついそう言っちゃってさらに号泣される。



…というものすごい悪循環を生むこと多数。


てか、なんで俺が仲介人してるんだよ、勝手に言って自爆しろよ…。





――――――――――――――――――――――――――――――――――……




「なんで断るの?せっかく藤森でいいって言われたんならのっちゃえばいいのに。彼女欲しいんでしょ」


ある日の学校帰りのことだった。


ふと、市ノ宮に言われた。


「え、なんだよ突然…」


そんなことを振られると思わずぎょっとする。


「別に。数日前にあんたの友達と彼女欲しい!ってバカ騒ぎしてたの聞いたから」

「あー…あれね」


大学入ってから、あの子可愛いこの子と付き合いたいなんて友達がしょっちゅう話して、俺も便乗してたから、それを聞いたのだろう。


でも、俺は首の後ろを擦ると、


「いや、でも、好きじゃないし…」


そうぽつりと呟いた。


「付き合ったら好きになるかもしれないじゃん」

「う、うぅーん…でも…」


それもそうかもしれないけど…。

そう言ってそれ以上言えなくなってしまう。


そんな俺をちらっと見た後、


「まぁ、無理することではないとは思うけど」


大して興味もなさそうに返事した。



(…んだよ、自分から聞いておいて)


そう心の中で呟くが、こいつのことは何となくわかってきたからいちいち突っ込むのはやめることにした。



ちなみに、なぜか俺たちは市ノ宮が学校くるようになってから、毎日一緒に学校で過ごし、一緒に帰る生活をしていた。


というか、こいつが俺から離れようとしないのだ。

当たり前のように隣にいる。


(ははぁ。わかったぞ。さてはぼっちになるのが嫌なんだな)


数日前の帰り道、俺はそう思った。


こいつ、確か友達いないんだよな。

だから、一人でいるのが怖いんだー!


(なーんだ、意外と小心者じゃん!)


そう納得してにやにやとしながら、隣で歩く市ノ宮を見た。

そんな俺に気が付いて怪訝そうな顔をする。


「言っとくけど、別にぼっちが嫌なわけじゃないから」

「!?」


あまりにも的確なセリフが出てきて、思わず心臓が飛び跳ねた。


「な、な、なんでわかった!?」

「あのさぁ、藤森ってすごくわかりやすいんだよね。

思ってること全部顔に書いてある」

「え」

「で、俺があんたといるのはただ観察してるだけ。どんな人間なのかなって」

「はぁ…何かわかりましたかね」

「気になる?」


ふふっと笑う。

ごくりと唾をのんだ。




「安心して。思ったより悪い人じゃないなって思ったから」

「思ったよりって、悪い人かもって思ってたのかよ!」


あの時あんなに全力で助けたのに!?

そんな気持ちでショックをちょっぴり受けた。


「そうじゃないよ。あの時の藤森は本当だと思ってるし。

…ただ、世の中には見た目と中身が違う人もいるからね。念のため」



お前がそれを言うな。

とはちょっと(いや、かなり)思ったが、ぐっと飲みこんだ。



(俺、そんなに顔に出てるかなー…)


こうやって心の中を読まれたことは何回あっただろうか。

今のこの恋愛話でも、もしかして何か読み取ったのだろうか?



そう考えるが、それっきり、お互い何も発することなく。

俺のアパートの前に着いた。


「じゃ、また明日な」


市ノ宮にそう言って階段を上がろうとする。

でも、いつもさっさと帰るのに今日は帰らなかった。

それどころか、一緒に階段を上ってくる。


「えーっと…。なに?

なんで俺の家の前まで来るわけ?」


もうドアの前だというのに、後ろを向くと市ノ宮がすぐそこにいた。

でも、俺の顔を見たまま何も発しない。



「?」


どうしたんだろう。

そう思っていると、



「ねぇ、藤森」


突然名前を呼ばれて。











「今から、しよっか」


そうとだけ言った。






「……へ」



茜の空にカラスの声が響く。

2人の間をさらりと風が通り過ぎて。



俺は瞬きを忘れて相手を見ていた。



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