初めてのお使い(大学生編)
「藤森くん!君は市ノ宮君の友人だろ!お願いがあるんだ!」
「え、な、なんすか急に」
それはある日の昼過ぎのこと。
講義が終わった後、突然生活指導をやっている先生に引き止められる。
そして、他の生徒が出て行った後にこっそりそう言われた。
「いや、俺、別に友達ってわけでは…」
正直、ただ一緒にたばこ吸って一緒に歩いて帰っただけだ。
相手のことについて、知ってることなんて何もない。
…無理やり上げるとしたらちょっと冷めていて人をからかうの好きな奴というくらいだろうか。
あと突然服を脱ぎ始める。
なんて考えてたら、肩をがっとつかまれて、先生の顔が目の前にあった。
思わず一歩下がる。
「でも数日前に一緒に帰っているところを見かけた!」
「あれ、たまたまというか…」
「藤森くん、君は言ったよね、全員と友達になりますって!
じゃあ市ノ宮君と一回でも話したらもう友達だよね?そうだよね!」
「え、あ、うん、はい…」
あまりに必死に説得をしてくる相手にちょっと引きながら、まぁ…と答えると、ほっとした顔をした。
「実はね、市ノ宮君、まだ学校に2回しか来ていなくて」
「はあ…」
「1回目はオリエンテーションの時でしょ。2回目は私が彼を呼び出した時」
「はぁ…」
まじでそんだけしか来てなかったんだ。
心でそう思い、呆れたようにそう適当に返す。
「あのー…なんであいつ…市ノ宮くんにそんなに執着するんすか?」
そんな学生ほっとけばいいのに。
なんて思ってしまう俺は薄情に見えるだろうか、とも考えたがつい聞いてしまう。
すると、先生はよくぞ聞いてくれた!とばかりに教壇を思い切り両手で叩き、目をきらきらさせながら話し始めた。
「実は彼、学年トップの成績で入学しているんだ。
いや、トップどころじゃない!
日本で一番頭いい大学でさえも入学できるほどだ!!」
「え、それマジっすか」
その事実に普通に驚く。
確かに勉強ができると言われても納得のいく顔はしてる…気はする。
「そんな彼がこの大学に来てくれたんだよ!
それに、大学生活はやっぱり友人に勉強に部活に色々満喫できるし…」
「まぁ…そうっすけど…」
「あと……まぁ、美人じゃないか?男の子にしては。非常に。
いやー、彼はとてもきれいで目の保養になる…」
「……あの、先生…?」
なんか、だんだんこの人の顔がうっとりし始めたぞ。
「あの黒髪、あぁ、さらさらだしいい香りしそうだなぁ…。肌も本当にすべすべだし…あぁ…触れてみたい…。そして……」
「………」
ぶつぶつと一人で何かを呟いている。
言ってることはよくわかんないけどこれだけは言える。
なんか気持ちわりぃ。
「……」
「……」
そんな俺の冷たい視線を察知したのか、コホンと咳ばらいをすると、
「…とにかく!
私は心配なんだよ。君以外に友達もいなそうな感じだし」
「あー…うん、もう友達ってことでいいや…。
…あのーそれで要件は?」
「だから、このまま退学になるのは勿体ないんだって思っているんだ」
そう恐る恐る聞くとメモを渡される。
住所が書かれてた。
「……なにこれ」
「市ノ宮君を説得しに行ってくれないか」
「…俺が?」
「…君が」
つまり、この変た…先生が言いたいことは、俺が市ノ宮くんを説得して、学校にちゃんと来るようにしてほしい、ってことらしい。
「え、先生が直接行けばいいじゃないっすか」
「!!き、君は私にそんな破廉恥なことをさせるのかね!?」
「は…はれんち?」
「彼のお家にお邪魔するなんて…そんな私は、そんなことをしたらぁあぁぁ!!興奮しちゃうじゃないかあぁぁぁっぁ!!!」
…なんか押しちゃいけないスイッチを押しちゃったらしい。
まさかここまで変な先生だとは思わなかった…。
何かを妄想して鼻血を出し始めたので、慌てて質問しなおす。
「じゃ、じゃあ…ご両親は?」
「それは、最終手段だ。
彼のご両親、今は離れたところに暮らしているし、忙しい方だから」
話題が切り替わったことで瞬時に冷静になった先生はティッシュで鼻を拭きながらそう答える。
この切り替えの速さ、そこだけ見習いたい。
「いや、忙しいって言っても息子が不登校…」
「忙しいんだよ!」
「…さいですか」
市ノ宮くん、ますますわけわかんねぇ奴と思いながらも最終的に先生の威圧に負け、俺は教室を出ようとする。
「ああ、そうだ」
後ろから声をかけられる。
「藤森君、もし連れて来れなかったら単位あげないからね…」
「……いや、それは駄目でしょ」
と、返したものの、まじで単位くれなかったら困るので、結局学校帰りに書いてあるマンションへ向かうことになってしまった。
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