守ってあげたかった
愕然とした。
その話を聞いて、言葉がしばらく出なかった。
話し終えた海堂はぼー…っと海を見つめている。
なんで、どうして…。
市ノ宮が、海堂にそんなことを言ったなんて…。
「…………ふふふっ」
その時、突然海堂が笑った。
そして大きく伸びをする。
「あ…あはは。
なんか、話したらすっきりした。
ちょっと長くなっちゃったけど、最後に聞いてくれてありがとう。
実はご飯の時に理由話したくなかったのって、なんかすごく惨めな気持ちにになりそうだったからなんだ。
…結局俺都合だよね。ごめんね」
謝りながらも相変わらずふふっと口から漏れている。
くるっと海堂の顔が俺の方を向いた。
そして優しく微笑む。
「あ、でも、藤森は何も悪くないよ。
だってそりゃ、俺みたいなのと一緒にいたら愚痴りたくなるよね。
それは至らない俺のせいだから藤森は何にも悪くないよ。
だから別にそれに関しては俺は何も…」
「何お前笑ってんだよ」
「え?」
「何笑ってんだよ」
中途半端に口角を上げるこいつにそう呟く。
すると困ったような顔をした。
「…だ、だって…なんか、話してたらやっぱり自分がどうしようもない人間だって再認識して、呆れる通りこして笑えて来るというか…」
そして、また口が笑いそうになる。
それを見て俺はついに切れた。
「ふざけんじゃねーよ、てめぇ!!」
「!?」
突然大声を出した俺に全身で驚く海堂。
わけがわからない。そんな顔をしていた。
「なんで、なんで俺に言わなかった!
なんで市ノ宮にそういうこと言われたって相談してくれなかったんだよ!!」
「そ…そんなの…言えるわけないよ…だって、市ノ宮さん藤森の、友達でしょ…そんな…言うなんて…」
さっき以上に困った顔をしながらそう答える。
「と、友達だからって…!」
…そうだ、こいつはこういう奴だった!
自分のことより相手のことを考えちゃう奴だった…!
「お前…っ俺からしたらそっちの方が迷惑なんだよ!
…俺はお前のなんなんだよ…。
恋人守れねぇで、俺、お前にとってなんだったんだよ…!!」
「ふ、ふじ…」
額に手を当てて下を向く。
「俺が愚痴言ってたって?
そう思わせたんならまじで謝る。
市ノ宮にお前のすべてを話しちゃって本当にごめん。
…けど、俺、俺は………。
…………………惚気のつもりで言ってたんだ。
愚痴なんか一回も言ったつもりなくて…。
お前のそばでお前の支えになれてたのがずっと嬉しかったんだ。
幸せだったんだよ…………!」
海堂は突然怒鳴られたと思っていたら謝られ、さらに惚気ていたという言葉に驚き、おろおろする。
「えっと、えっと…」
返事の仕方がわからない感じだった。
「………あとさ、俺と市ノ宮との間に体の関係があったことも、言わなくて本当に悪かった」
そう言った途端、苦しそうな顔を海堂がしたのを見逃さなかった。
でも、また困ったようにあははと小さく笑う。
「べ、別に…大丈夫だよ。だって昔の話だもの。
付き合う前のことだし、そんなこと気にしてる俺が小さい男というか…」
語尾がどんどん小さくなって、しまいには聞こえなくなってしまった。
沈黙が流れる。
もう電車の音も聞こえなくなっていた。
波の音だけ、それしか聞こえない。
「ごめんな、さい…正直言っちゃうと…すごく、ショックでした」
1分ほど経ってから、海堂がまた口を開いた。
その声は、震えていた。
「い、市ノ宮さんは…市ノ宮さんは俺が知らない藤森のこと、全部知ってるって。
俺は、藤森が初めての相手で、俺の初めてを全てあげたのに、藤森は、市ノ宮さんと、ずっと前から沢山そういうことして、日常の一部になってたんだなっ……て…」
「か、海堂……っ」
それを聞いて心が締め付けられるように痛くなった。
いや、海堂の方がその数十倍痛いのだろう。
声だけで、その事実が海堂にとっていかに辛いものか、十分に伝わった。
海堂が続ける。
「でも、大学にいる4年間ずっと関係があったってことは、きっと、俺が立ち入っちゃいけない特別な関係だったんだよね。
藤森にとっても、市ノ宮さんにとってもお互い大切な存在だったんだよね。
市ノ宮さん、綺麗でかっこいいから、そりゃ、藤森も、そういうこと、したくなるよね……………っ。
10年前、俺が邪魔しなければ…、藤森は今も市ノ宮さんと肌を重ねていられてたって思ったら本当に申し訳なくて…軽率で自分勝手な行動だったなって……っ!
市ノ宮さんが俺に対してすごく怒るのも無理はないよね………。
うっ……ご、ごめんね、泣いてばっかり、本当、みっともない…っ」
言葉に詰まりながらも心情を吐き出す。
とめどなくあふれる涙。
…見ているこっちも本当に辛くなる。
でも……
「…海堂、この際だから、全部話したら駄目か?」
涙で真っ赤に腫れた瞳で俺を見る。
「……全部?」
「そう、市ノ宮と俺の話」
「………………」
無言で俺をじっと見つめていたが、これ以上何を聞かされるのか。
そういう表情をしていた。
「わかってる。お前がもうどうしようもないくらいに辛くて苦しいのは十分わかってるんだ。
でも、あまり聞きたくねーかもだけど…。
大学の時に、あいつと何があったか、ちゃんとお前には知ってほしいんだ」
そうして、俺は話し始めた。
市ノ宮と出会った、あの日のことを。
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