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初めて会った場所で

空はすっかり黒に覆われていた。

寒さも一段と強くなり思わず身震いする。


ここまで来る途中、お互い終始無言だった。

ただ、ラジオから流れる音楽だけが静けさを和らげてくれて。



邪魔にならないように広場へ車を駐車する。

そして車から降りると、潮風のにおいと波の音が耳に届いた。

広い海。きらきらと輝く星々。あの時と同じ。


俺は海堂と初めて会った場所へやってきた。



「懐かしいな、ここ」

「…………」


ずっとうつむいたままの相方に話しかける。

海堂はパニックこそは収まったが黙ったままだ。


「寒いだろ。ブランケット使うか?」

「…………」


後ろ座席に置いていたふかふかのブランケットを海堂に手渡す。

ずっとうつむいたままだが、ゆっくりと受け取ってくれた。


先に歩いて堤防へ腰かける。

そして、座れと横を軽くたたいた。


「…………」


はじめは、座るのに躊躇していた海堂だったが、何度も


「ほら」


と横をたたいたら、ゆっくりと近づいて少し離れた場所に座った。




「元気?」

「……」

「…じゃねぇよな。どう見てもやつれてるもん、お前」

「……」


怖がらないように優しく声をかけたつもりだが、相変わらずうつむいたままだんまりを決め込んでいる。

顔色はいい…とは正直言えない。

クマができてたし、疲れ切った表情をしているのは月明かりだけでも十分わかった。


ふと、海堂が持っていた資料を思い出す。

就職説明会と書かれていた袋。

中にも何冊か会社のパンフレットが入っていた。

思い切って聞いてみる。


「あの資料どうしたの?就職すんの?」

「……」

「スーツ着てるのだって珍しいじゃん。

いつ以来だっけ?前着てたのは2年前にいとこの結婚式出た時だっけ?」

「……藤森には関係ないよ…」


小さい声だが、ようやく口を開いてくれた。


「関係なくはねーだろ。イラストの仕事だって順調だったじゃん。

先月なんてリピーターさん来たり、大口の案件受けたりして、嬉しい悲鳴上げてたじゃん。それとも描くの嫌になったわけ?」


そうだよ。あんなに嬉しそうにしてたのに。

評価はどんどん上がっていってたのになんで突然…。


「……別に…ただ、ちゃんと正社員になって働こうと思っただけ…」

「今まで全く経験ないのに?」

「…っ」

「それに正社員になったらお前、忙しすぎてそれこそイラストの仕事受けれなくなるだろ。

なんでそんな選択しようとしたんだよ」

「…ぅっ…」


どうやら痛いところをついてしまったようだ。

収まっていた涙がまた瞳からあふれ出す。


「あ、あぁ、いや泣かせようとしてたわけじゃなくてさ!

じゃ、いったんこの話題は置いとくな?」



……といっても置いたところで残ってる話題はあれしかないわけだが。


「あー…じゃあ、なんで俺と別れたいの?」

「そ、それは……………」


もっと答えにくいのだろう。

さっきよりも一段と声が小さくなった。

どんどん涙がこぼれる。


「俺の事嫌いになった?」

「…」

「俺の態度が気にくわない」

「…」


また黙り込んでしまった。

嗚咽すらも我慢している。そんな感じで肩を震わせている。


そんな様子を見て、ため息をついた。

頭をかいて、俺までうつむいてしまう。


「海堂…俺さ、わかんねぇよ…。10年も一緒にいてさ、なんで突然さ、別れたいなんて…。

しかも理由言ってくれねぇし…嫌なところあったら言ってくれよ。

頑張って直すし…」

「…ぐすっ…」

「………それとも理由も聞かずに別れたほうが海堂のためか?

もう、もう俺もお前のこと忘れて生きたほうが、お前にとって幸せか…っ?」


俺まで声が震えてくる。

別れたほうがなんて、忘れて生きたほうが、なんて言いたくない…。

これ以上こんなこと言っていたら俺も泣きそうだ…。


でもわからない。

本当に、どうしたらいいかわかんねぇんだよ……。





海堂すぐに口を開かなかった。



数分経って、ようやく海堂がまた言葉を紡ぎだす。



「……そ、そうだね…きっと俺なんて藤森の記憶から消えたほうが、幸せなんだと、おも、う…」

「!!」


ショックを受けた。

頭を鈍器で殴られたように視界が歪む。


まさか、本当にそう言ってくるとは思ってなかったからだ。

なんで、なんで、なんで………………!!



言った本人はボロボロと涙が頬を伝い、甲で雫が跳ね返る。


「だ、だから、あはは、ごめんね、別れよ…」

「お前、ふざけんなよ…!なんで…そんなこと言うんだよ!!」


言葉をさえぎって叫ぶ。

今度は俺がパニックを起こす。

そんな言葉、絶対聞きたくない……っ!


「なんで、なんで…!!」


がっと俺側の肩を掴む。

びくっと細い体がはずんだ。


「答えろ!」

「…って……」

「聞こえない!」


だめだ、こんな叫んだって海堂を怖がらせるだけなのに…!

声を荒げてどんどん呼吸が早くなる。

胸が、苦しい…。


「おい、海堂!!」


でも、止まらない。

辛くて、黙ったらそこで終わってしまいそうで……。


「頼むから、答えてくれ……!」





















「…だ…だって………藤森、俺の事迷惑だってずっと思ってたんでしょ…?」

「…………………………………………は……?」


ようやく俺に届いた言葉に耳を疑った。

海堂の顔を思わず凝視する。


「今、なんて…?」

「俺、こ、これ以上、藤森に、迷惑…かけたくなくて…」


なにを、何を言ってるんだ、こいつは…。

なんで、俺が海堂を迷惑だと思うんだ?


てか、てか…


「だ、誰が…そんなこと言ったんだ…?」

「……………ぇ、ぃ、いや、別に……あはは…」


海堂は一向に俺の顔を見ようとしない。

ずっと自分の手の甲を見つめている。


「俺か?俺、そんなこと言っちゃってたのか?」

「ふ、藤森は別に………何も……………」

「じゃあ、誰が?」

「………」


訳が分からない。頭が追いつかない。

焦りだけがどんどん先行していく。


「こっち見ろ!海堂!!」


もう片方の肩も掴んで、体を無理やり俺の方に向かせる。

そして、ようやく目が合う。


その時になって初めて気が付いた。


「………っ!!」



涙が流れ続ける海堂の目は虚ろだった。


そして、観念したように、ポツリと言った。












「………い…市ノ宮さんが…」












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