待ち伏せ
「う、うぅ…さみぃ…もうちょっと着込んでくるべきだった…」
夕暮れ、海堂が一人暮らししてるマンションの部屋の前で携帯をいじって待ってる。
紺のジャンパーに黒のズボン。
もう片方の手にはパンやらおにぎりが入ったレジ袋。
ポケットには充電器。
耳にはワイヤレスイヤホンをつけて暇をつぶす。
けど、今は11月。
まだ冬ではないとはいえ、部屋までの通路が外だから、寒さがダイレクトに伝わる。
カイロ、買っとくべきだったな…。
校長と話した次の日、早速行動に移した。
朝から部屋を訪れて、チャイムを押してみる。
…が、やっぱり海堂は出てこなかった。
「んだよ。また居留守使ってんのか?」
そう思い、扉に耳をつけて澄ましてみても物音がしない。
「んー?」
もう外出してるのか?こんな早くから?
電話してももちろん応答なし。
LINEも一応送っておくが、どうせ見ないんだろうな。
「まぁ、気長に待つかぁー」
大きく伸びとあくびをして、扉と反対側の壁に寄り掛かった。
まぁ、そんな経緯で俺は朝からずーー---っと、海堂が帰ってくるまでここにいる。
前も思ったが、何かあると逃げるのはあいつの悪い癖だ。
すべてを無視するのならもう全力で捕まえるしか方法は無い。
そうしないとあいつと話す機会は一生訪れない。
「このまま終わらせてたまるかよ…」
おなかが減ろうが眠くなろうが、離れたときに海堂が帰ってきたらすべては
無駄になってしまう。
だから、必要なものは全部持ってきて、前を通る他の住民が不思議そうな目でこちらを見ようが気にしないであいつの帰宅を待ち続けた。
それから、しばらくした時だった。
「………ん…」
階段の方から何か音が聞こえた気がした。
もうイヤホンの充電は切れてしまったし、買ってきたご飯も底を尽きている。
おまけに寒いから頭はぼーっとして、働かなくなっていた。
「……………気のせいか?」
ついに幻聴でも聞こえ始めたか?
と上を見ながらふぅ…と息を吐き出す。
だが、しばらくしてもう一度音がする。
それはどんどん近づいてきて、やがて深いため息とガサガサという袋の音だとはっきりわかった。
靄がかった脳内が一気に覚醒する。
そして、姿が見えた。
「………!!…………やっとか…」
その人物を捕らえた瞬間、努力が報われたことを理解し、はは…っと小さく笑った。
そう、階段を上ってきたのはずっと待っていた相手、海堂修司だった。
だけど、喜びはつかの間、その姿に首をかしげる。
海堂はスーツを着ていたんだ。
普段ほとんど着ないスーツを身にまとって、何か資料が入ってる袋をぶら下げていた。
そして、目にはクマ。
かなりやつれているのが離れていてもわかった。
「海堂…」
思わず声が漏れる。
その声を聞いてか、ずっと下を向いていた海堂が顔を上げた。
そして捕らえる家の前で待つ俺の姿。
「よう!久しぶり」
そう声をかけようと脳内シミュレーションをしていたのに、次の瞬間、海堂は
「あっ!」という顔をして今上ってきた階段を駆け下り始めてしまった。
「は!?…ちょ、ちょっと待てよ!!」
思わず叫んで追いかける。
でも海堂はまったく止まる気配はなく、必死に下へ下へと向かっていく。
(なんで、なんでだよ!なんでそんな避けるんだよ!!)
本当にわけがわからず、そんな思いで階段を駆け下りる。
だけど、足が速いのは昔から俺で。
どんどん距離は縮まっていく。
そして、手が届きそうなくらい後ろまで近づいたとき、海堂が段差に躓き、こけそうになった。
「わっ!」
地面に向けて傾く体。
やばい、怪我する!!
「!…危ねぇ!」
間一髪のところで腕を掴む。
そして勢いよく引っ張ると俺の中にすぽっと納まった。
(…捕まえた)
「海堂…!大丈夫か!?」
安堵してそう声をかける。
海堂の体温、髪の毛の感触、体の細さ。
なんだかとても懐かしくて、余韻に浸りそうになる。
でも海堂はまだ逃げようとしていた。
「離せよ…っ!」
必死に腕をほどこうとする。
「ちょ、危ねぇって!!」
力いっぱい押されて思わずよろける。
また駆け下りようとする海堂の手首を慌てて掴みなおした。
「なんで、やだっやだ………!!」
俺の力に叶うわけないのに、パニックを起こしながら掴んでいる指を開こうとする。
「お、落ち着けって…っ、な?頼むから……!」
「うっ、うぅ…!」
しまいには涙まで浮かべ始めた。
「………」
おいおい、どうすんだよ。
これじゃ話し合いもままならない。
それどころか、他の人に見られたらもっと面倒なことになる。
「………っちょっとドライブ付き合え!」
頭をかきむしると、仕方ないとばかりに海堂を無理やり引っ張り始めた。
「ちょ、ちょっと…!」
海堂も俺が本気を出したことに驚き、踏みとどまろうとするが、止まるたびに引っ張られて前のめりになる。
そんなのを何回か繰り返して、下に停めていた俺の車に押し込んだ。
荷物も後部座席に放り投げる。
「………え?」
その時ちらりと見えてしまった。
資料には就職説明会と書いてあった。
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