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時間は人を変えるのか?

市ノ宮が出て行った後の部屋はとても静かで。

何とも言えない不思議な感じがした。


(あぁ、今、俺の腕の中に海堂がいる…。

髪の毛がふわふわして気持ちいい。なんか、すげぇ落ち着く……)


しばらくぎゅうううっと抱きしめ、目を閉じながらそのぬくもりを感じ取っていた。


ふと、海堂をずっと強く抱きしめていたことを思い出し、慌てて離す。


そして海堂の顔を見る。


と。



「か、海堂!?」


さっきまでの真っ赤な顔はどこへやら。

今の海堂は対極的なまでに真っ青になっていた。


「海堂ー!!!」


締めすぎた!?

俺加減知らないから窒息させる勢いだった!?


非常に焦ったのを覚えている。



「………ご、ごめんな、さい…」


だけど、ぽつりと出てきた言葉は謝罪だった。


「え?え??」


訳が分からずあたふたしていると、




「藤森、ごめんなさい!俺、1人で突っ走っちゃって!突然部屋に入り込んじゃって!完全に不法侵入だよね!藤森はあの人と一緒にいたのに!あの人藤森の恋人だったら俺本当に自分勝手なことしちゃった!藤森だってびっくりしたよね、わけわかんないよね!しかもキスまでしちゃって!俺も実はなんであんな大胆なことしたのかびっくりしてて!ごめんなさい!俺、今からあの人に土下座してきます!すごく怒らせちゃったし!あぁ、でも藤森にもしなきゃ!

えぇっと、本当に勝手で自己中人間で申し訳ございませんでした!」


わーっっと息継ぎなしに心情を一気に吐露し始めた。

そして、本気で土下座しようとする。


俺も焦って相手の肩をがっと掴んだ。


「落ち着け!とりあえず落ち着け、海堂!!」


相手の目をしっかりと見てそう言う。


「でも、でも…!」

「いいから、な?」


しばらく息を荒げていたが、深呼吸しろと伝えると、やがて落ち着いてきたのか、ほーっとした顔をした。


力が抜けて膝から崩れそうになるのを支えてひとまずベッドに座らせる。



「うぅ…本当にごめんなさい…。俺、あの人、市ノ宮…さん?に悪いことしちゃった…」


収まったと思っていた涙がまだ溢れ始める。

そんな彼を見て俺は困り顔になりながらも微笑んだ。


「お前は何も謝ることなんてねぇよ。あいつには俺から謝っとくし、気にするな」

「でも…」

「…来てくれてありがとう」


自然と感謝の言葉が零れ落ちた。

それを聞いた海堂は恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「お、俺が勝手に来ちゃっただけだから…」

「でも、まじで嬉しかった。…それに、市ノ宮は別に恋人でもなんでもねーし…」

「え?そうなの?」


きょとんとした顔をする。

そして、じぃっと俺の顔を見つめてきた。


その瞳は、じゃあどういう関係?と純粋に聞いている。


「え?い、いや…ただのお友達だよ!うん!健全な!」


いたたまれなくなって、顔ごとそらした。汗がだらだら流れる。

む、無理あるか?



海堂は少なくとも、俺が市ノ宮のイチモツに口を近づけていたのを見ているはずだ。

それを見ていて、恋人じゃなかったらなんとなくわかるような気もするが…。


「ほ、ほら!ここ来る前に飲みに行ってて、酔っぱらったらお互い悪乗りっていうか?ちょっとふざけてああいうことしてただけっていうか!いやーほんと、酔っぱらうって怖いなー!気をつけなきゃな!あ、あはは!」


ものすごくしどろもどろに言いつつ笑ってみる。

だって、失恋して慰めてもらいに来ました!なんて、言えない、口が裂けても言えるか!


ちらりと海堂を見る。

すると、


「そうなんだ!酔っぱらうと普段じゃ考えられないこともしちゃうもんね!」


なるほど!と納得したみたいで、


「ふざけあえるくらい仲いいお友達なんだね、教えてくれてありがとう」


と、にこーって微笑まれた。



こいつ…純粋すぎる!!!





「………」


さっきまでの気持ちと打って変わって、申し訳ない顔をする。


「海堂、あの時は本当に悪かった」

「えっ」


今度は俺の突然の謝罪に海堂がびっくりする。


「お前と仲良くなってさ、気が付いたら俺、お前のことが好きになってたんだ。

笑顔が素敵で、一緒にいて楽しくて。男だとか、もうそんなこと俺の中で関係なかった」

「そ、そんな、普通だよ、俺の笑顔なんて…」


そんなこと言われると思ってなかったらしく、相手は恥ずかしそうに下を向いた。


「普通だったら、お前はそこら辺の人間と同じにしか見えてねぇよ。

…でも、彼女がいるって知ってすごくショックで、でも諦められなくて。

そんな中お前から彼女が浮気したって聞いて…それで、この機会を逃したら気持ちを伝える機会が無くなるって思っちゃったんだ」

「……」

「朝起きて海堂がおびえた顔してて、気持ちが伝わらなかったのがわかった。

大っ嫌いって言われて本当にひどいことをしたんだと気づかされた」

「そ、それは…えっと……」

「それでも、お前のこと、忘れられなかったったんだ」


そこで、いったん言葉を区切る。

そして、息を吸い込んで。




「海堂、好きだ」


今までで、人生で一番真面目な顔をして告白した。

海堂がはっとして、俺の顔をまっすぐに見る。耳まで赤くなっていた。


「もう、お前への告白はこれっきりにする。

…だから、嫌だったらはっきり断ってほしい。

友達にも戻りたくなければもう二度と姿も見せないから。

だから、答えて、くれますか…?」


最後は声が震えてしまった。

それに心臓が破裂しそうだった。

緊張から汗が流れる。


それでも、海堂の瞳から離れることは絶対にしなかった。


海堂は口をぱくぱくしていた。

何かを言いたいが、なんて言い出せばいいか、わからない。

そんな感じだった。


だけど、一度目を閉じて、深呼吸をすると、


「お、俺は…友達は、いや、です…」


静かにそう言った。




「えっ…」


その答えにぐらっとくる。

友達は嫌…って…


あぁ、やっぱり心がついていかなかったのか…?



でもまだ話は続いていた。


「俺、いっぱい藤森にひどいこと言った。傷つけた。

でも…さっきも言った通り…藤森の隣に他の人がいるのがたまらなく嫌でした…」

「海堂…」

「東山さんとは別れたのは事実だけど、だからって乗り換えるためとかそんなんじゃないよ…。自分でも、藤森に対する気持ちがわかってなかったんだと思う…」

「うん…」


また深呼吸をする。


「俺、多分これからも藤森にいっぱい迷惑をかけると思う。

怒らせることもいっぱいあると思う。

それでも良ければ…友達じゃなくて…あの、恋人として、



す………好きって、言っても…いい、ですか…………?」


手を胸のところで組み、ぎゅっと目を瞑って恐る恐るそう呟いた。


そう、呟いてくれた。



「か、かいど、う…………っ」


どうしよう、嬉しい、嬉しすぎる…。

涙、出そう……。


「!?ふ、藤森、泣いてるの?ごめん、やっぱり迷惑だった……!?」


目元に手を当ててうつむく俺を見てあたふたする海堂。

そんな彼の声を聞いてたら、ふふって笑っちゃって。


もう、抑えがきかなくなった。


「ふじ…わっ!!」

「ばーか…迷惑なわけねーだろ」


また、あの時のように海堂のことを押し倒していた。

海堂が驚く声を発する。


柔らかい髪を優しく撫でる。

そして、勢いでキスまでしそうになって、ぴたりと止まる。


だめだ。これじゃ、また一方的だ。


「ふ、藤森……」


海堂の頬がすごく熱い。

俺に抱きしめられたまま、恐る恐る声をかけてくる。


そんな彼から一度顔を離し、はっきりとこう言った。


「海堂、俺と付き合ってください」

「!」

「付き合って、ください…」



数十cm離れたところに海堂の息遣いを感じる。

数十分前もあった似たような状況。

でも、相手も気持ちも全然違う状況。


真剣な気持ちをしっかりと伝える。


「………俺なんかでよければ…よろしくお願いします…」


はじめこそ、すごく緊張した様子で俺が言った言葉を聞いていたが、少しして、恥ずかしそうにそう答えてくれた。


「あぁ、良かった…!」


力が一気に抜ける。

そして、ゆっくり顔を近づけると優しくキスをした。


海堂は一瞬体を固くしたが、今回は受け入れてくれた。


「こっちこそ、よろしくお願いします!」


唇を離した後、いつもの俺らしく満面の笑みでそう返した。

それを見て、海堂もようやくあの大好きなほわっとした笑顔を見せてくれた。


やっぱり、好き、好きすぎるこの笑顔…!



ここで、ある事実に気が付く。


「…あ、つーか!

ここ、ほ、ホテルだったな!あはは!なんか、えーっと…か、帰るか…?」


照れ隠しをするように笑いながら海堂から離れて横に寝転がる。


さすがに付き合ってすぐにそういうことをするのはいかがなものか。

…俺、前科があるわけだし。

それに、ちゃんと誠意を見せないと次こそ海堂に嫌われる!…かも。


「…え?あ、えーっとそうだね…うん…」


海堂もこの場所の本来の目的を思い出してまた赤くなる。



「「………」」


無言。


なぜか2人とも動かない。


そぉーっと海堂の様子をうかがう。

と、海堂もこちらを見ていたようで、ぱちっと目が合ってしまった。


「「!!」」


目が合うと思っておらず、2人揃って慌てる。


「ご、ごめん!」

「いや、こっちこそ!」


そしてなぜかお互い謝って顔を反対側へそらした。


「「………」」


また無言。



それからまた数秒経った時、海堂が口を開いた。





「ふ、藤森…」

「ん?」

「……………………してもいいよ」


蚊が鳴くより小さな声でそう言った。


「…………へ?」


心臓がどくんとはねた。

海堂の方を向くとすぐ目の前で視線がが合った。


今日何回目の顔真っ赤状態だろう。

耳どころの騒ぎじゃない。首も真っ赤だ。


「…こわくねーの?」

「え?えっと……大丈夫…お願い、します…」


きっとものすごく勇気を出して言ってくれたのだろう。

その後、顔を手で隠した。


(あぁ、もう、そういうことするからかわいいんだよ…!)


俺は、そんな海堂を引き寄せてもう一度ぎゅうっと抱きしめた。

額にも、頬にも、首筋にも、もちろん唇にも何度もキスをした。


「んっあぅ…」


口づけるごとに海堂の唇から声が漏れる。

どこに触れてもくすぐったいみたいだ。

服がこすれただけでも身をよじっている。


じゃあ…


「これはどうだ!」

「あ、藤森やめて!そこほんとダメ!あははは!」


わき腹をくすぐる。

めちゃめちゃ弱いみたいで、息が苦しくなるほど笑っていた。

そんなん見たらもっといじめたくなる、なんて思っちゃったり。


「お、お返し!」


海堂も負けじと俺のわき腹をくすぐってくる。

だけど、残念ながら俺、効かないんだよなぁ。


「え?あれ、なんで効かないの!?くすぐったくないの!?」

「おう、ぜーんぜん」


えぇ!?と驚く海堂にどや顔しながらまたくすぐる。

そしてくすぐりながら首筋にキスする。


「ひゃっ、ん、ふ、ふじも…だめ、あっ、俺死んじゃう…っ」


息遣いがどんどん荒くなって、涙も浮かべ始める。

さすがに本当に死にそうなので、一旦手を止める。


海堂ははぁはぁと息を整えて、目を閉じていた。

肌が汗でしっとりとしている。それにすでに髪が乱れていて。


(あーもう、やばい…本当にえろいしかわいい…)


そんな様子を見てふっと笑った後、被さるようにもう一度抱きしめる。



「海堂」

「…ん?」

「部屋かえよっか」


静かにそう言う。


「…はい」

「嫌になったらすぐに言ってくれよ」

「…はい」

「ちゃんと力加減考えて優しくするように頑張るから」

「…はい」

「…好き」

「俺も…好き、です…」


そうして見つめあって、またキスをした。



その後、事情を話して部屋を変えてもらった。


新しい部屋に着くと鍵がかかることを確認し、荷物を置きなおす。


「か、海堂」

「え?な、何?」


なんだかさっき以上に緊張してしまい、上手く言葉が出てこない。


「えっとさ、あの…」

「うん…」

「しゃ、シャワー一緒に浴びる…?」


頭をかきながらちらりと顔を見る。


でも、


「え!む、無理!恥ずかしいから藤森先に浴びていいよ!」


目を瞑ってぶんぶんと頭を振る。

全力で断られてしまった…。



お互いシャワーを浴びて、抱きしめる。

ホテルのシャンプーなのに、すごくいい香りに感じた。


「ベッド行こ?」


優しく海堂の手をつないでを誘導する。




「ま、待って…あの…」

「ん?」


海堂が立ち止まる。

何かを躊躇しているようで、不安そうな顔をしていた。


「…やっぱり怖い?」

「そ、そうじゃなくて…えっと、電気、暗くしちゃだめ…?」


そう恐る恐る呟くと、照明を指さした。


そっか、恥ずかしいのか。

そんなことでさえもかわいいなんて、頭の中で連呼して口元が緩みそうになる。


「ん-…でも、消したら顔も体も見えないからなぁ…」


またちょっといじめたくなってそう意地悪をする。

実際問題、消すって発想が全く頭になかった。


「うぅ…」


でも、海堂は反抗することなく諦めたようにうつむいてしまったので、慌てて電気を消しに行く。


「ごめんごめん、嘘嘘!」


よしよしと頭を撫でる。

ホッとしたようで、


「ありがとう…今後電気つけても大丈夫なように頑張るから…」


そう言って、抱き着いてくれた。


「………おう…無理はしなくていいし…」


か、海堂から抱き着いてくれた…!

やばい、幸せ、幸せすぎる…!



海堂を暗闇の中見つめる。

相手もきっと見つめ返してくれていたに違いない。


改めてベッドの上に移動する。

そして暗闇の中、見つめあってキスして、


「海堂…して、いい?」


そう聞いた。


「うん…」


声だけでも恥ずかしそうなのはわかる。

それでも、海堂はいいよっていってくれた。


「ありがとう」


そう言うと俺は、ゆっくり押し倒して、服を脱がせて、体全体に赤い花を咲かせて。



そして、繋がった。


海堂の中はとにかく温かかった。

興奮してるのに落ち着く。

そんな矛盾を抱えた気持ちになる。


「ふじ…っあっ…」

「海堂、気持ちいい、すごく、気持ちいい…っ」


優しくしなきゃって心に決めたのに、やっぱり抑えが聞かなくて。



「お、俺…あっ、すき、大好き…っ」

「俺も、愛してる…!」


それでも、海堂は必死に好きだと、俺に伝えてくれた。




海堂はすべてを俺に委ねてくれた。

本当は怖かったところもあったかもしれない。


それでも、初めて無理やり抱いた時とは全然違った。

幸せという感情しか出てこなかった。

人生のどんな時間よりも、一番幸せな瞬間だった。


それは海堂もきっと同じだったと思う。






それから、俺と海堂は付き合い始めて。


そして――――――――――――…………











――――――――今に至る。



自分で言うのもあれだけど回想くっそ長!!



「そういやそんなんだったな。あの時はお互い若かったなぁ」


懐かしい懐かしいと一人で頷く。





………。


「10年、経つのか…」


10年。

長いようであっという間だった気もするあいつとの時間。


その間喧嘩もしたし、色々あったが、あいつが大切だということは絶対に変わることはなかった。



でも。





―――――― 別れてほしい ――――――――――――……




あいつは違った?

俺と同じ気持ちじゃなかった?


もう、付き合った時のことは忘れてしまった?



「時間は人を変える…か……?」



読んでいただきありがとうございます!




この小説を読んで




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