修羅場
目の前に海堂がいる。
それはあまりにも間違えようのない事実だった。
混乱した頭で考える。
なんで?
なんで海堂がここにいるんだ?
しかもここラブホなのに?
てか……
「どうやってここに入ってきたの?」
俺がそう聞く前に市ノ宮が言葉にした。
いつの間にかズボンをきちんと履き、足を組んで腰掛けている。
その声は怒りの感情やパニックを起こしてる様子は無く。
ただ、その場の空気が張りつめた気がした。
「え?えと…いや、ただ、ドアノブ回したら開いたので…
じゃあ入っちゃおうかなーって…あはは…」
質問された海堂は両手を遊ばせながら目を泳がせてそう答える。
口元は中途半端に笑っていた。
「は?」
それを聞いた俺は一瞬理解できなかった。
いや、市ノ宮も同じだったんじゃないか。
だってさ、あれ、普通鍵かけたらかかるよな。
開かないよな。…そう、だよな…。
もしやと思い、慌ててドアに向かう。
そして、ロックして、ドアノブを回す。
ガチャッ
………………普通に開いた。
「………は、はあぁぁぁぁ!?これ、壊れてんじゃん!」
「う、うん。みたいだね…」
何度やっても開く。
いつの間にか海堂がその様子を見にこっちに来ていた。
ありえねぇよ!ここラブホだぞ!
万が一誰か入ってきたら大変なことなるじゃねーか!
……今まさに起きたけど!
ありえな過ぎて固まっている俺とは反対に、
「クレーム入れないとね」
市ノ宮は淡々とそう言う。
それから前のボタンを留めると立ち上がって海堂と向き合った。
びくっとする海堂。
さっき以上に目が泳ぎ、うつむいて体を縮こませていた。
そんなのはお構いなしに、にこっとして口を開く。
「えーっと、海堂さんはここで何をしているの?」
その笑顔をちらりと見て俺は思った。
これ、営業スマイルだ。…目が全然笑ってない。
でも、海堂はそんなことに気が付かずにその笑顔に少しほっとした様子で答える。
「えっ、い、いえ、友人が、藤森がなんだかこのホテルに入っていくのが見えたからその、なにかあるのかなーって思って…」
「それだけ?」
「は、はい…まあ…あはは…」
おどおどしながら笑う海堂。
「……っ!」
俺はラブホへ入るところを見られていたことに驚きとうしろめたさを感じた。
それにさっきまで市ノ宮とキスしたり体を触ったりしてたのだ。
海堂は、一体いつから見ていたんだろう…。
思わず唇を手の甲で拭う。
それを市ノ宮がちらりと見て、一瞬不服そうな表情をした。
い、いや、なんで罪悪感を感じるんだよ。
海堂にとって俺はもう何でもないんだから。
それに現に今も海堂は俺のことを友人と言った…。
いや、友人と思ってくれるだけありがたいことなのかもしれないけど…。
なんて考えていると、市ノ宮が俺の横まで歩いてくる。
「ふーん、じゃあさ」
そして肩に手を置いてきて、はっきりこう言った。
「邪魔しないでくれる?俺たち、これから一晩一緒に過ごすから。
友人のあんたには全く関係ないことだし」
「えっ」
「そうだよね、藤森?」
「え、ぉ、ぉぅ…」
同意を求められ、目をそらしながら俺らしくない小さなボリュームで答える。
誰の目も見れない…。
「えっえっ?」
明らかに動揺している海堂。
そんな彼に市ノ宮はふっと笑うと、
「じゃあ、そういうことだから出てってくれる?」
「えっ、え…………」
俺の背中を押してベッドに戻ろうとする。
海堂はうつむいて何も発しなくなった。
俺も何も言えず、背中を押されるがまま歩き始める。
「…ざけるな…」
その時、後ろからぽつりとそう聞こえた。
「え?」
海堂が何か言ったのか?
思わず振り返ったその瞬間、
「ふざけんな!藤森、お前俺の事好きって言ったじゃないか!!
嘘だったのかよ!!」
今まで聞いたことのない大音量で海堂がそう叫んだ。
その声は少し震えていて、目には涙がたまっていた。
「!かいど…ッ」
そんな様子を見て慌てて駆け寄ろうとする。
違う。
嘘なんて1つもついていない。
嘘なんて1つも……!!
そう言いたくて口を開きかけた時、後ろから腕を掴まれて駆け寄るのを阻止された。
そして俺が否定するよりもそ早く市ノ宮が言葉を発した。
「何?情緒不安定なの?」
市ノ宮の声が明らかにいつもと違う。
すごく冷たい、それに人を見下すような…。
「不安定なんかじゃ…!」
それに対抗するように海堂も言い返す。
海堂の目もいつもと違う。
初めて見る戦うような目だった。
俺は、そんな2人の言い合いを心配そうに見守ることしかできず…。
「いい加減にしなよ、海堂さんが振ったんでしょ。
藤森なんか大っ嫌いだ!…って」
「…!そ、それは……」
だけど海堂は口喧嘩なんて慣れていないのだろう。
すぐに言葉に詰まってしまった。
「全部聞かせてもらったよ。藤森の好意を踏みにじったって。
連絡にも出ず、謝る機会も作らせなかったって。
なのに突然また目の前に現れてさ、慰めるのも邪魔するの?
本当に藤森、可哀想だよね。
そういう中途半端なのって最低だと思うけど?」
「……」
「それで、自分は付き合う気ないけど相手は自分しか見てないと嫌ってこと?
…海堂さんって超自己中なんだね」
「…………………」
市ノ宮が確実に海堂を追い込んでいく。
海堂は何も発せなくなっていて。相変わらず目線は下を向いていた。
「おい!市ノ宮言いすぎだぞ!」
さすがにもう止めないとまずい。
そう感じた俺もついに口を出す。
…いや、正確には口を出そうとしたんだけど、途中まで言いかけて消えてしまった。
何故なら…
「………………!」
海堂が、俺のワイシャツを掴んで。
キスをしてきたからだ。
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