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今だけは溺れたい

外はがやがやとしているのに、部屋に入ったら何も聞こえなくなった。

聞こえるのは空調の音だけ。


シンプルな室内。

だけど、質素なわけでなく、洗練されているデザインだった。


リュックを近くの椅子に置く。

市ノ宮はスーツを脱ぐと、ネクタイをほどき始めた。


「ねぇ、どっちからシャワー浴びる?あれなら何か飲み物とか頼んでも…」


俺の顔を見るわけでもなく、世間話のように市ノ宮がそう話しかける。


でも、俺は最後まで聞かずに市ノ宮を抱きしめた。


「ちょ、どうしたの。藤森らしくない」

「…別に?抱きしめたくなっただけ…」


全てを忘れるようにただただ強く抱きしめる。

相手も少し驚いたようだが、そっと背中に手を回してきた。


全然体形が変わっていない。

細いけど嫌な細さじゃなくて、ちゃんと健康的で。


(そうだ、この感じ…本当に懐かしい…)


首筋にちゅっと口づける。

少しだけ市ノ宮の肩が跳ねた。


「んっ」


声も漏れる。

こいつ、淡々として余裕ぶってるくせに体は敏感なんだ。

ちょっと面白いな、なんて。



「………」


…海堂もそうだったな。

あいつ、全力で恥ずかしがるし、肌に触れるだけで顔真っ赤にして声すごい漏れてて、かわいかった…。


「……………っ」



やべ、なんで思い出したんだろ。

全部忘れようって決めたのに、俺の馬鹿…っ!




抱きしめてる腕が震えた。

きっと市ノ宮にも伝わったのだろう。

顔を上げて俺の顔を見てくる。


「また藤森泣いてる。本当社会人になってから泣き虫になったんじゃないの」

「う、うるせーよ、馬鹿!今度こそすぐ止めるから…っ」


回している手を顔へ持っていこうとする。

でもその前に市ノ宮がまた唇を近づけて吸い取ってしまった。


「…しょっぱ」


ちょっと意地悪そうな顔をしながら、微笑んで俺をまた見た。

黒い瞳に俺が映る。情けない顔をした、俺が。


「市ノ宮……」


あぁ、もう駄目だ。

あんなにあの時決めたのに、こんな関係ダメだって心に誓ったのに…。

もう、無理だ。


もう、何も考えたくない。

この1週間、無理に笑ってずっと辛かった。

こんな、失恋して立ち直れないなんて誰にも言えないし、めそめそするなんて俺らしくねーよ…。


無意識に顔を近づけていた。


市ノ宮の唇を少し乱暴に奪う。


「ん…」


何度も何度もキスして、舌も絡ませて。

そのままベッドへ押し倒した。ベッドが軋む。



ひとしきりキスを楽しんだ後、ワイシャツのボタンをはずそうとする。

でも手が震えてうまくはずせない。


「何?もしかして緊張してるの?」

「んなわけあるか、馬鹿じゃねーの…」


ちゃかしてくる市ノ宮に、また悪態をついてみる。


でも、本当に緊張してるんだろうか。

こいつとこういうことするの久しぶりだから。


市ノ宮はいつもどおりだ。

嬉しそうな顔をすることも、恥ずかしそうにすることも無い。

淡々としている。大学生の時から何も変わらない。

でも、その瞳は目を細めてずっと俺のことを見ていた。


そんな相手を俺は虚ろな目で見返す。


「…藤森、大丈夫。俺だけ見て」


その時、俺の手に細い手を重ねてそっと撫でてくれた。


「…うん」


それだけで、俺はなんだか安心した。


ゆっくりボタンを外し始める。

1つ、2つ。

全部はずして、市ノ宮のきれいな肌が露わになる。


「ふふ、よくできました」


俺の頬を撫でながら、ほめてくれる。

そんな彼の手にちゅっと口づけしてから、静かに首筋に舌を這わせた。



「あっ…」


色っぽい声を出す。いい香りがする。

そして、そのまま鎖骨へ、胸へ、おへそへ移動していく。


あぁ、これも海堂にやったな。

ぼんやりと思い出す。

海堂の肌も白くて、なめらかで、温かくて…。



「藤森、俺のことだけ見て」


はっとする。

また市ノ宮にそう言われてしまった。

なんでわかるんだろうな。昔からそうだ。

俺が考えていること、基本ばれている。


「ごめん、そうだな、市ノ宮」


また唇を重ねる。

目を見るとさっきとは違い、とろけそうになっていた。


離れようとすると、市ノ宮から吸い付いてきた。

何度もリップ音が鳴る。その音だけで脳が犯される。


そのまま胸をいじると塞いでいる口から声を漏らしながら体が反応した。


(えろ…)


本当、色っぽい。こいつが男女関係なくもてる理由はよくわかる気がする。


「ねぇ、藤森…っ」

「ん?」

「…って…」


小さく何かを言った。


「聞こえねぇよ。なんだよ」

「下、舐めて…」

「えっ」


さっきまでの余裕な態度はどこへやら。

珍しく市ノ宮が恥ずかしそうに手の甲を唇に当てて、顔をそむけながらお願いをしてきた。


「へぇー珍しいじゃん。お前からお願い事なんて」


さっきのお返しで俺も意地悪っぽく返す。


「いいから早くして。藤森のくせに生意気」


ちょっぴり睨まれる。でも顔は赤いし、息は荒い。


「全然怖くないなぁ。どうしようかなー」

「藤森…!」


本当に余裕のなさそうなその態度に、思わずクスッとしてしまう。


「わかったよ」


微笑んで市ノ宮の髪を優しく撫でる。

さらさらとしていて気持ちよかった。


市ノ宮の顔が緩む。

その間もその瞳はずっと俺を見つめていた。


もう一度唇に触れる。

そして足の方へ移動する。

ベルトをはずして、ファスナーを下げる。

下着ごとズボンを少し下にずらすと、張り詰めた中心が現れた。


そっと撫でる。


「んぅ…っ」


声がさっきより大きくあがる。

必死に抑えてるんだろうが、すごく甘い声だ。



………………。


乱れる市ノ宮を見ていてふと思った。

ほんとさ、海堂のことばっかり思い出して馬鹿みてー…。


今更さ、幸せになんかなれっこねーのはわかってるよ。

人間関係は簡単なもんじゃない。

大事な人はみんなどこかへ行ってしまう。



(じゃあ、別にどうなったっていいじゃんか。

もう、落ちるところまで落ちちゃえばいいし、目の前の快楽だけに溺れていればそれでいいじゃねーか…)


懐かしい時間。

本当に全部忘れてしまおう。

何も考えないで、相手の体温だけを感じて。




ゆっくりかがんで、近づく。

あと数センチで触れそうになる。

俺の息がかかったのか、さらに反応しているのがよくわかる。




そして、それに唇を近づけて……。



















「あ!あの…っ!」

「ぐふッ!」


突然ワイシャツの後ろ襟をものすごい力で引っ張られた。

強制的に上半身を起こされる。

当然、俺の首は締まるわけで。

今思い出してもあれは死んでもおかしくなかった。うん。



「な…なにすんだよッ俺の事殺す気か…………………!」


げほげほとむせながら首を抑える。

そして、半ばキレながら後ろを振り返る。


でもそこにいたのは、





「あ…あの…えと……こ、こんなところで会うなんて奇遇ですね…あはは…」



顔をそらしながらそう弱弱しい声で呟いた海堂だった。



「か、いどう…?」


目の前にいる人物が信じられなかった。

俺は大きく目を見開く。



え、嘘、ま、まじで!?

なんで、いや、本当になんで!?


さっきまで麻痺していた脳が一気に覚醒する。

目の前の人物に集中しようとするが、同時に脳内は大混乱だ。


海堂に似た人なのかとも思ったが、顔、背丈、仕草どれをとっても本人だ。




「………」


市ノ宮が上半身を起こす。

無言。

さっきまでの甘い雰囲気は一瞬にして消え去り、いつもの市ノ宮に戻っていた。



「ふーん、この人が海堂さん」



そして、数秒経ってからそうぽつりとつぶやいた。


















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