見たくないものほど見てしまう
海堂視点。
※なんで藤森の回想なのに海堂視点なのかは気にしたら負けです。
「はあああああああ…」
大きなため息をつく。
近くですれ違った人がちらりとこちらを見て通り過ぎて行った。
会社からの帰り道、駅に向かう途中。
俺は今、イラストの仕事をフリーで受ける傍ら、それだけじゃお金が足りないので派遣社員として働く生活をしている。
正社員も考えたけど帰る時間が遅くなってしまう。
どうしても絵の仕事をしたいから将来の不安はあるけど派遣社員を選んだ。
そして今は仕事帰り。
いつもは18時に上がれるんだけど、今日は納期が迫っていて皆揃って残業。
おかげでだいぶ遅くなっちゃった。
まぁ、ちゃんと残業代出るからいいんだけど…。
「はあぁ…」
もう一度ため息をつく。
とぼとぼと歩く理由、それは友人と仲違いしたから。
というより、俺が一方的に拒絶してしまった。
一緒にいて楽しかったのに。
親友だと、一方的だと思うけど、本当にそう感じてたのに。
好きだって言われて、びっくりして家を飛び出して、それから会っていない。
あれから友人…藤森から、何度も着信があった。
でも、大っ嫌いと言ってしまった手前、出るのが怖くて。
「だって、俺みたいな人間を藤森が好きになるなんてありえないよ…」
ぽつりと声に出す。
男同士だからとか、そういう話ではない。
藤森は明るくて、友達も多くて、しっかり学校の先生として働いていて、いつもキラキラして見えた。
そんな彼を尊敬していたし、羨ましくもあった。
親友と思っていたのと同時に憧れも強かった。
…たいして俺なんて、人見知りして、輪に入るのが苦手だから友人だって数えるくらいしかいない。
イラストの仕事だって波があるし、派遣の仕事だっていつまでいさせてくれるかもわからない。
あと、いわゆる陰キャっていう分類に入るし…。
だから、好きだなんて言われても信じられなかった。
抱かれた時も俺は気弱で非力だから、きっと藤森にとってはそういうことをするのに都合のいい相手だったんじゃないかって、そう考えちゃった。
世の中には遊び目的で平気で好きと言える人もいるみたいだし。
そもそも男同士でそういう発想に至るとは思ってなかったけど…。
藤森のしっかりした体。人肌の温かさ。唇の触れ合った感触。
その時の光景が脳内再生され、思わず赤くなった。
「でも…」
いままでの藤森を見てて、そんなひどい人には見えないという気持ちも残っている。
俺と一緒に遊んでた時の藤森は本当に楽しんでいたように見える。
俺が泣いてしまった時、本当に心配してくれたように見える。
じゃあ、本当に俺のこと……?
考えれば考えるほど出口が見えずぐるぐると頭で回り続ける。
「これで良かったのかな……」
うつむいたままもう一度盛大にため息をついた。
「ぁ……」
とある通りに差し掛かった。
ホテル街。仕事場から駅までの最短ルート。
夜になるとカップルがたくさん歩いている。
そして、あずさの浮気現場を見てしまった場所。
きっとあずさは知らなかったんだと思う。
俺がいつもこの道を通って帰ることを。
そして、それを目撃してあまりのショックで差していた傘を落としてしまい、そのまま走って逃げちゃったんだ。
…藤森に落としたと言った時、頭に?が付いてたけど…。
あずさと一緒にいた男性、すごくかっこよかった。
爽やかで、背も高くて、リードするのが上手そうで。
…俺とは正反対。
やっぱり、あずさも俺のこと頼りないって思ってたんだろうな…。
こんな道、本当は通りたくないけど、他のルートを選ぶと10分以上差が出てしまうから。
時間がもったいなくて結局この通りを選んでしまう。
「だめ、考えちゃ…!」
頭を横に振る。
とにかく急いで帰ろう。
帰ってゆっくりお風呂に入って、沢山寝よう。
端っこの道に移動する。周りはカップルばかり。
甘い声やいちゃつく声が聞こえて余計に落ちこむ。
本当に泣きそう……。
その時、何気なく、本当に何気なくだった。
ふと視線を上げると、見知った姿を見つけた。
人ごみの中でもなぜか見つけてしまった。
「え?」
こげ茶で短めの髪。
仕事終わりにいつも背負っている黒地に緑のラインが入ったリュック。
精悍な横顔。
少し離れたところにいた、その人は紛れもなく藤森だった。
「な、んで…?」
思わず目で追う。
なんで、なんでこんなところにいるんだろう。
場所が場所なだけにそんな疑問が浮かんだ。
だって、藤森の学校の近くでも家の近くでもないし、俺みたいに近道するとかじゃなければ普通通らない場所なのに…。
無意識のうちに行き先を確認しようとしていた。
と、最初は人込みに紛れていたから気が付かなかったけど、誰かと歩いているようで。
藤森と並んで親しげに話している。
黒髪がきれいで、すらりとした男性だった。
美形なのはこの距離でもわかった。
周りもその人のことをすれ違い様に見ている。
そして、入ったのは…
「…………!!」
ラブホテル、だった。
「………ふじ……え………………?」
思考が停止する。
心臓がどくどくとなっている。
思わず息するのを忘れそうになる。
「な、なんで…どうして…?」
ホテルの扉が閉まるのを見ながら、ただただ呆然と立ち尽くしていた。
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