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今なら届くかもしれない

扉を開いて目の前にいたのは紛れもなく海堂だった。

ずぶ濡れの海堂。傘もささずにただそこに立っている。


「か、海堂!部屋の前まで来てたのか!?チャイム鳴らしてくれればよかったのに」


驚きを隠せないまま、声をかける。

すると、海堂はすごく弱弱しい声で、


「ご、ごめ…押したんだけど鳴らなくて…。め、迷惑なの分かってたけどどうしても話したくて電話しちゃ…ごめんなさ…っ」


そううつむきながら、謝ってきた。

あまりにも小さい声だったのでところどころ雨の音でかき消されている。


「え。……あ、そういえば」


とチャイムを押してみる。

ただカチカチというだけで、音が鳴ってる気配がない。


「やべ。壊れてるんだった…」


2週間ほど前に酔っぱらって帰ってきて、頭ぶつけて壊したなんて恥ずかしくて絶対言えない。


「ってそんなことは全然気にしてないから!むしろお前なら大歓迎だから!

あ、い、いや違う!じゃなくて!」


チャイムをカチカチしながら顔だけ海堂に向ける。


「なんでそんなずぶ濡れなんだよ!傘は!?」


こんな雨だ。

さすがの天然海堂でも傘忘れて歩いてたわけじゃないだろう。


「傘は…お、落としちゃって…」

「お、落とした?」


そんなことあるか?

と思ったけど、海堂ならもしかしたらありえるのかもなんて納得してしまう俺がいてしまう。

でも、そう言った海堂は余計暗くなって…。


「ふ、藤森…おれ、俺…っ」


そこで初めて顔を上げて俺を見る。

前髪からぽたぽたと垂れる雫がちょっと色っぽいなんて思ってしまう。

だけど、すぐにじわりと瞳に涙を浮かべて…。


「うっうっ」


顔を手で覆って泣いてしまった。


「って!」


うわあぁぁぁぁ…!

目の前で泣かれて、俺まであわあわとしてしまう。


な、なんでこんな泣くんだよ。

なにかあったのか?


「と、とりあえずさ。シャワー浴びて温まんねぇと風邪ひくからさ」


「服も貸すし部屋ん中入れよ。話はそれから聞くから…」


海堂の背中を押して、家の中へ招き入れた。





部屋に入ると雨の音が一気に遠くなる。

代わりに聞こえるのは浴室から聞こえるシャワーの音。


俺はそわそわしながらローテーブルの前に正座して待っていた。


「つ、つい上げちゃった。シャワー浴びさせちゃった。俺の服貸しちゃった」


海堂がシャワーを浴びてる。

それだけで中学生みたいな妄想をしてしまい、慌てて頭を振って吹き飛ばした。


(にしても、海堂が泣いたところ初めて見た…)


いつもニコニコしてた海堂。

俺が笑うとのほほんとつられて笑っていた。


「一体何が…」



ガチャッ。


その時、扉が開く。

振り向くと俺のTシャツとスウェットパンツを着た海堂が頭を拭きながら

入ってきた。


「藤森シャワーありがとう…。あと、服も…」


その姿に思わず見とれる。

白い肌、男にしては細い体。

しっとりと濡れた髪。

俺の服はオーバーサイズだったようで、鎖骨が広く見えていた。


やべぇ。

どきどきする…。






「って、だからちがあぁぁぁぁぁぁぁう!!!」


頭を抱えてつい叫んでしまった。

びくっとする海堂。

はっとして、軽く咳ばらいをする。


「え。あ。い、いや、全然…」


俺の馬鹿!!今は海堂の話聞かねぇと!!


「?」


海堂にベッドに腰掛けてと促す。

普段来るのは男友達ばっかりだからクッションなんてかわいいもの用意してないんだよなぁ…。


ちょこんと座ったのを確認したら、俺から切り出した。


「で、いったいどうしたんだ?あんな泣くなんてよっぽど辛いことがあったんだろ」

「…」


心配しながらそう聞く。

でも、海堂はしばらく黙ったままだった。

ずっと下を向いたまま。動かない。


時計の針の音がやけに響く。

俺も一瞬目線をはずす。




「ふ、藤森…おれ、」


海堂がぽつりと声を発した。

また掻き消えそうな、本当に小さな声。

俺は聞き逃さないように集中した。


「俺、見ちゃったんだ」

「何を?」

「…ぁ……」


なんて言ったんだ?

肝心なところが聞き取れない。


「ごめんな海堂。もうちょっとだけ、ボリューム上げること、できるか…?」

「………っ」


そう伝えると、海堂の目が一瞬大きく見開いた。

でも次の瞬間にはぎゅっと瞑って。

そして、力任せに声を出した。



「あずさが…あずさが…!」


ぱたぱたとまた涙が落ちた。

膝に水たまりを作り、すっと染み込んでいく…。













「あずさが!浮気してた…!」

「…………えっ」












い、今、なんて、言った…?


海堂の彼女が、浮気…した…?



どくんと、心臓が鳴る音がはっきり聞こえた。


「そ…それ、見間違いじゃねぇのか?だって、あんな仲良かったじゃん…」


恐る恐る聞き直す。

でも口元は笑いそうだ。


「見間違いじゃない!顔、明かりではっきり見えたし、ホ、ホテルの前…あ、あぁ…」


そこまで叫ぶと、がっくりと項垂れて大声で泣いた。

手の甲で拭いても拭いてもあふれ出す。


俺はその様子を、自分でも驚くほど、冷静に見つめていた。



今まで叶うことはないと思ってた恋心。

それは海堂には好きな人がいたから。

そんな中気持ちを告げても届くわけがなかったから。


「なんで…どうして…そんな人じゃないと思ってたのに…!

俺が頼りないから?でも、だからって…」


だけどその彼女が浮気した。

海堂はショックで心が揺らいでいる。




今なら。









今なら、届くかもしれない。












「こんなの女々しいのはわかってるんだけど…っ!でも、俺、どうしたらいいか、もうわからな………………」


ぴたりと海堂から音が消えた。

そしてゆっくりと見上げる。

なぜなら、


「藤森…?」


俺は海堂の目の前に立っていたから。

手を伸ばしてまだ乾ききっていない、しっとりした髪をゆっくりと撫でた。


「……???」


海堂はうるんだ瞳で俺を見た。


「あ、あの…な…に…?」


きっとその時の俺はただただ無表情だったと思う。

海堂に全意識が持っていかれていて。

ただただ触れることしか頭になかった。


少し体をこわばらせる海堂の隣にゆっくり座る。


(なんで、そんな女と付き合ってんだよ。

浮気する最低な女なんてやめちまえ。)


「え、えぇと…」


両頬に手を伸ばす。

触れると海堂は動揺した。


(俺は)


「ふじ…っ!」






俺は誰よりもお前のことが好きなんだ!




そう心の中で叫ぶと同時に海堂の唇を奪った。


「んぅッ」


海堂は抵抗する間もなく押し倒される。

ベッドが2人分の重みできしむ。

その間も何度も何度も口づけた。


「んー…!んぅ…っ」


海堂は息の仕方がわからないのだろうか。

苦しそうに声にならない声を出している。


数秒、口を塞いでから離れると、


「けほっけほっ」


思いっきり息を吸って、せき込む。

でも、俺はそんなのお構いなしに今度は首筋に舌をゆっくりと這わせた。


「あっ」


びくっと華奢な体が跳ねる。

両手を掴んで動かせないようにする。

海堂の力なんて、俺なんかにずっと敵わないのは十分わかっていた。


首から鎖骨に移動する。

移動する度に海堂の体は跳ねた。


「やっ」


鎖骨の中心を舐めたとき、海堂が叫んだ。


「やだやだやだやだ!!なんで、なんでこんなひどいことするんだよ!!」


声を発したことで我に返ったのか、じたばたと暴れ始める。

でも、俺が被さっていて、足しか動かせない。

それでも、泣き叫ぶ。


「おい、藤森!答え…」

「好き」

「…え?」








知らない。


「好き」


嫌がってるとか、


「好き」


泣いてるとか、


「好き」


なんでひどいと言われてるのか、


「好き」


もう戻れないとか。

全部知らない。



「修司のことが、好き…っ」


ただ、俺はお前に気持ちを伝えたかったんだ。

わかってほしかったんだ。


それだけ…なんだ。






海堂が静かになった。

暴れるのをやめて、涙も止まって。

目を大きく見開いてただただ天井を見ていた。



「…ぅ」


そして時が動き出したかのように、また、


「うぅ…っ」


涙を流した。





その後、抵抗しなくなった海堂の服を脱がせて、俺も抜いで。

ただただ泣きじゃくる海堂をきつく抱きしめた。


何度も好きだと言って。

何度もキスをして…。





その後のことは正直あまり思い出せない。


ただ覚えてるのは、




柔らかな肌のぬくもりと、今までで一番赤く染まった顔と、

より一層激しく打ち付ける雨の音だけだった。





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