今宵は心もどしゃぶり警報
好きな人には彼女がいた。
その事実を知ったあの日から、俺はショックから頭痛が止まらない。
「藤森先生、なんか顔色悪くないですか?」
他の先生に心配される。
「へ、へーきっすよー!ちょっと夜遅くまで起きてたせいですかねぇ、はは…!」
そのたびにそんな言い訳をしてやり過ごしていた。
「藤森君、これ飲んで早く帰りなさい」
玉井先生だけはお見通しとばかりに、栄養ドリンクをそっと机に置いて詮索なしにそう言ってくれた。
(わかってる、わかってるよ市ノ宮!
お前が言ったことは全部あってる。あってるんだよ…!)
それでも、俺は自分で思ってた以上にあきらめが悪い人間みたいで…。
『あ、もしもし藤森?』
「よ、よう海堂!あのさ、今から飯いかねぇか!?
今仕事が終わって帰ってきたんだけど!」
1週間前の夜のこと。
学校から帰宅してベランダに出て海堂に電話する。
海堂の声を聞いて少し安心した。
『えっすごく行きたい!あ、でも、行きたいけど…』
『修司!ちょっと貸して!』
『あずさ?』
『あ、藤森くん?ごめんね、私が今から修司とご飯行くんだ』
「え、ひ、東山さん!?」
突然女性の声に変ってびっくりする。
しまった、今一緒にいたのか…!
『先に誘ったのは私なんだから問題ないよね?それじゃ!』
「ちょっ、待っ…!」
ブッ
一方的に切られてボーゼンとする。
こんなことがもう何度目だったか。
どうやら東山さんは俺の気持ちに気が付いたかはわからないが、先手を打って海堂を会わせようとしない。
海堂に約束を取り付けようとしても、
「ごめん、今日はあずさと遊ぶ日で…」
「その日はショッピングに付き合う約束で…」
「今日の約束だけど、あずさがどうしても今会いたいっていうからまたの機会でもいい…?」
どんなに頑張っても彼女の存在が大きい。
大きすぎる。
『藤森、ごめんね
あずさと先に約束してたから…
またの機会に行こう』
今回も電話の後、少しして海堂からごめんね。と謝っているモルモットスタンプとともにそう送られてきた。
(俺だって、男を好きになってる時点でどうかしてると思ってるし。
そんなこと、そんなこと自分でもわかってるし…!)
疲れ果ててベッドにゴロンと横たわる。
最近じゃ断られるのが怖くて連絡もしなくなってしまった。
窓がガタガタと揺れている。バタバタと雨が打ち付けられる音もする。
「そういや今日の夜大荒れだって天気予報で言ってたっけ…」
なんてぼーっとした頭で思った。
(でも、もうしょーがねーじゃん…。
頭から離れないんだから。制御できないんだから。
抱きしめたいし、頭撫でたいし、キスしたいし、できればそれ以上のことだって…)
うとうとし始める。瞼が重い。
(…。市ノ宮に言った通り、後悔はしたくないけど、
東山さんがいる限り、俺の気持ちは海堂には…)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……
ざあああああ…。
深夜。
俺は熟睡していた。寝つきがいいのは本当に幸いだった。
と、スマホが鳴る。
ピリリリリリッ
「う、うぅ~ん…」
突然の大きな音にさすがに起きる。
画面が光ってすごくまぶしい。
ピリリリリリッ
目を擦りながら体を起こす。
時計を見ると0時になろうとしていたところだった。
「…んだよ。電話?こんな時間にだれが…」
ぼやけたままの頭でぼーっと誰からの電話か確認する。
「!!」
が、確認できた瞬間、今までの眠気が全部吹っ飛ぶ。
そして、すぐに電話に出た。
「もしもし!?なんだよ、こんな時間にどうしたんだ?」
嬉しすぎて声のトーンが上がる。
だって、電話の相手は…
「海堂!」
『…ふじ、もり…』
こんな時間にどうしたんだろうか。
寝付けなかったのだろうか!
雨も風もすごいから!?
「やだなぁ、そんな情けない声だして!
あ、わかった!さては怖い夢でも見たんだろ」
『おれ、俺…』
「お前怖がりだもんな!しゃーないなぁ、じゃあ、とっておきの面白い話を聞かせて…」
どの話を聞かせてあげようか、なんて考えながら意気揚々と話す。
だけど、すぐ気が付いた。
『うっ…ぐす…』
なんだ?様子が変だぞ。
「…ってお前、今どこにいるんだ?」
冷静になると、ぐずり声に交じって音が聞こえる。
ざああああああああああああっという、大雨の音。
それも、すぐそこで。
「……」
冷や汗が垂れる。
なに、何があったんだ…?
「か、海堂!今から俺、そっち行くわ!」
バッと立ち上がる。
スマホを耳に当てつつ、パーカーを羽織る。
あとは鍵だけ持って玄関に向かった。
「住所とか、目印になる建物とか」
靴を急いで履く。
傘を2本探して、引っこ抜く。
「あれば言って…」
そして玄関を開け…………。
「…!」
すぐそこに人が経っていた。
全身ずぶ濡れ。髪からぽたぽたと雫が垂れていく。
そして耳にはスマホを当てていた。
「か」
「かい…どう…?」
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