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【本編完結】笑い話に悪意を込めて  作者: ぽんぽこ狸


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31 違い


 厳しい顔をした騎士が、ライネの元へとやってきて、社交の場で問題を起こし秩序を乱したことについての責任を取らせるために「其方も共に来てもらおう」と手を伸ばす。


 その間にサンドラは入り、騎士を見つめて口を開く。


「あら、彼は被害者ですのよ。そんなに威圧的に連れていこうとするなんて非道ですわ」

「国王陛下主催の夜会で問題を起こしたことに変わりはないだろう! 共に来てもらう!」

「いいえ、ライネは参りません。責任はあの二人が取るべきですのよ。カルティア公爵であるお父さまもそうおっしゃるわ」


 父の名前を出し、サンドラはどんなに高圧的に言われたとしても引く気はない。


 彼らが暴走し捕らえられたことは素晴らしいことであるし、王族主催の夜会での問題は、国王陛下の権威に逆らったとして不敬罪が適用される場合もある。


 それが罰金で済む程度のものであっても、一度捕らえられているのならば、簡単な告発によって様々な取り調べが行われ、ライネの件でも傷害罪を適応させることも出来るだろう。


 ただ、王族に忠義を尽くしている騎士はそんなことは関係もなく、ライネもトラブルを起こした一因であると連れて行こうとする。

 

 ここで彼を連れて行かれるわけにはいかない。


 きつくにらみを聞かせると騎士はしばらく逡巡しそれから、父の権威にかそれとも、ライネに対してそれほど時間を割くつもりがなかったのか身を翻して、野次馬たちに散るように指示しつつ去っていく。


「……申し訳ありません。こんなに大事にするつもりは無かったのですが……」


 すると背後からライネがとても心細そうな声で言う。


 視線を向けると彼は騎士たちの後姿を見つめつつも、サンドラに言った。


「サンドラ様に宣言したように、何も気にせず過去のことにしたと言うだけのつもりだったのですが、驚きました。……ただ、これで自分は満足です。サンドラ様」


 そう言ってライネは薄い唇で小さく笑みを浮かべて、スッキリとした様子だ。


 そのライネの言葉にサンドラはしばらく考えた。


「……ライネ」

「はい」

「あなたは……」


 ……本当にその程度でいいんですの?  本当にそれでつり合いが取れているのかしら。


 サンドラはどうしてもそれが腑に落ちない。


 彼はマルガリータに対する文句も何も言わなかったし、仕返しなどしていないに等しい、マルガリータはただ自爆したに過ぎないのだ。


 やりすぎて、隠れきれなくなって、彼女を陥れようという気などまったくないライネのたった一つの行動で取り返しがつかなくなった。


 けれども本当にそれでいいのか。


 彼は相当に傷つけられたはずで苦しい思いをしていたはずなのに、ただ嘘を嘘だと言って、過去にして忘れるだけ、むしろ許すとまで口にしていた。


 それはあまりにも軽すぎる仕返しだ。


 ……もっと残酷に、もっと恥をかかせて、一生、やったことを後悔するぐらい、してやるべきだと思いますのに。


 けれどもサンドラが言い淀むと彼は、心配そうな顔をして問いかける。


「お気に召しませんでしたでしょうか」


 不安そうに自分はうまくやれていなかったのかと、サンドラに問いかける彼の声は震えていて、いや、と思い直す。


「いいえ、わたくしのお願いをかなえてくださってありがとう。ライネ。これであんな人たちのことをくだらない笑い話にできますわ」


 サンドラは安心させたい一心で笑みを浮かべた。貴族たちはこちらに注意を払いながらも自分たちの元居た場所へとも戻っていく。


 もとより、サンドラとライネでは性質が違うのだ。サンドラは自分の為でも人のためでも怒って、対抗して変えていこうとする。


 けれども彼は寛容で優しく許して忘れる。どちらがいい悪いではない。


 良い時も悪い時もあって、彼はサンドラの願いに忠実に答えてくれた。


 真実はそれだけだ。それにお礼を言うと彼は、少し寂しそうに笑って小さく返事をする。


「では、きちんと目的も果たせましたし、自分は━━━━」

「あら、わたくしにもあなたを忘れろというおつもり? そんなこと了承していませんわ。ライネ、一緒に来なさい、話がありますわ。あなたの今後についてよ」

「……いけません。自分は……しばらくお会いすることもできないかと」

「四の五の言わないでくださる? あなたはわたくしから逃げられませんのよ」


 言い淀みつつも、最後の別れとばかりに笑みを浮かべる彼に、サンドラは少し腹が立ちつつも、その手を取った。


 サンドラは決めたのだ。彼を愛しているし、もう誰にも傷つけられたくない。


 サンドラが守りたい。だから自分のものにする。欲張りだけれどそれ以外に道はない。


 ぐっと手を引いて彼の言い分を聞かずに、歩き出した。


「ほ、本当にもう自分とは」


 しかし、未だに抵抗しようとする彼にサンドラは振り返って、少し背伸びをして腕に手をかけて唇を重ねる。


 こうすれば、後戻りもできないしサンドラがどこまでも彼に付き合うつもりでいることが示せるだろう。


 多くの人に目撃されて、サンドラは無関係ではなくなる。


「っ、…………え??」


 彼は突然、唇を重ねられてパチパチと瞬きをする。


 そして頬を赤くして混乱しているような声をあげるが、先ほどよりも幾分静かに後を付いてくるのだった。




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