表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/48

2 可愛くて




 パーティーが終わってちらほらと人が帰りだす。サンドラたちもエントランスに向かって歩き出した。


 隣にはアントンがおり、彼は今日のパーティーがよほど楽しかったのか、満足げだ。


 そんな彼の気分に水を差すのはいい気がしないが、今回のことをわざわざ次に会った時に話題に出して気分を悪くするのもそれはそれで面倒くさい。


 それに何より、今、サンドラが憤っている気持ちを伝えたかったのだ。


「アントン、少しよろしくて?」

「ん? なんだ、そんな不機嫌な声を出して」


 サンドラの言葉に少し視線をこちらに向けて、彼は聞いてくる。


 彼はまったくサンドラを怒らせたことに心当たりがないらしい。話したら話しっぱなしでもう忘れているような態度もひどいものだと思う。


 なんせサンドラは毎回、アントンがサンドラの過去の失敗談を話すたびに苦言を呈している。


 そのはずなのに毎回毎回、性懲りもなく……。


 そういう気持ちを込めてサンドラは普段から鋭い猫のような瞳をさらに鋭くしてアントンに言った。


「ああいう話……つまりはわたくしの失敗談ですが、それを話題にすることをやめてくださいませ。非常に不愉快ですわ」

「……」

「たしかに、わたくしは奔放な子供だったかもしれませんわ。けれど、皆そういう話の一つや二つはあるでしょう。それをわざわざ話すのなんて、話題のない親戚集まりぐらいなものですのよ」


 この説明も毎回している。そんなに面白い失敗談を話したいのなら自分の話をすればいい。他人をダシに使って笑いを取るのは、自分は面白くない人間だと叫んでいるのに等しい。


 恥を知れ、と口にしたい。


 しかし実際、彼らは楽しんで聞いていた様子だったし、そこまでのことを言われたかというとまだ判断が難しい。


 だからこそあまり強い言葉を使わないように心掛けた。


「それにわたくしはそういう話をされることが嫌いです。何度も言っているでしょう。羞恥心を感じます。だから━━━━」


 だからもう二度とそういう話をしないと約束してほしい。

 

 そう言おうとした。


 しかし、突然腕を引かれて、ぐっと抱き寄せられてサンドラは身の毛がよだつ思いだった。


「すまない! サンドラ、俺はまたつい、お前の可愛く幼い失敗談をつい皆に知ってほしくて、口にしてしまった。そうだった、お前はそういう話が嫌いだったのに!」

「っ、離してくださいませ、こんな公共の場でっ」

「いいや放さないっ、俺はただお前が愛おしくて話さずにはいられないんだ、ごめんな、サンドラ」


 耳元で大きな声で言われて、周りを歩いていた貴族たちは、若い二人が抱き合っているのを見て、あらあらと微笑ましいような表情を浮かべている。


 ……こういう行為も常々、きらいだと言っていますのに。


 そう思うが、愛おしくて愛情から口にしたくなってしまうと言われると、今のサンドラには反論するすべがない。


 婚約者であり、将来を約束された仲で、二人でお互いを尊重し合って生きていかなければならないのだから。

 

 それに否定的なことを言っていても放してくれそうもない。


 とにかく今は、すぐにでも離れたくなって、サンドラは渋々「わかりました」と言う。


「わかったから……そういう事なら、わかりました。ただ離してくださいませ」

「ああ……わかってくれたか、サンドラ。嫌な思いをさせてすまなかった」

 

 謝罪も口にされて、これ以上責めることは出来ない。


 しかしまた、数日後にはサンドラの別の失敗談が広まっていてサンドラはどうしようもない気持ちになったのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ランキングで見つけて、前に読んだ短編版の続きが読めるかも…と読みに来ました。 短編でもそうだったのですが、サンドラに感情移入してしまって、アントンにヘイト蓄積中です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ