1965年、夏。 とある戦地にて。
1965年の夏、とある戦地にて。
暑い、ジリジリとした太陽が、私の頭を照らしている。
延々と続く一本道は、まるでどこまでも続いているように私を錯覚させる。
しかし、それは私の杞憂だった。
道の途切れた先に、小さな湖がきらきらと、まるで大聖堂のステンドグラスの様にきらめいていたからだ。
ふと、太鼓のような、【M102 105mm榴弾砲】の砲声が木霊すと、湖の水面からパシャパシャと、面白いように魚が跳び上がって来た。
彼らはこの音を、祭り太鼓の音とでも思っているのだろうか?
この人を殺す道具を、戦争をする人間を、彼らはどう思っているのだろうか? 実に不思議である。
魚を尻目に、私は木の梢が作り出す日陰に寝転び、そのまま暫くの昼寝を取る。
今は正午、さっきまで喧しく鳴り響いていた砲声も、称賛の拍手のような銃声も聞こえない。
ただそこにあるのは、流れていくぬるい風に、魚が作り出した水面の輪だけだった。
敵も味方も、前線の兵も後方の指揮官も、正午だけは休戦……詰まるところ、ただの昼寝……に、入る。
正午から数時間だけは、どこの戦線でも、否応なく休戦になるのだ。
さっきまで激しい銃撃戦が繰り広げられた川原も、味方が敵をあぶり出すために焼いた森林も、いつの間にか静まり返っている。
うとうとと、水の中を泳ぐ魚を数えていると、また砲声が鳴り出した。
“ああ……、今日の休戦も、終わってしまったな……。” 誰もがそう考えているだろう。
私も、少し伸びてから立ち上がる。前線からは、また、銃声が聞こえてきた。
小銃を手に取ると、一本道を歩いて帰る。
ジリジリと太陽に照らされながら。
ぬるい風に頬をくすぐられながら。
そして、魚のことを考えながら。
私は前線に向かう。
ここはベトナム。