表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

1965年、夏。 とある戦地にて。

作者: 座頭

 1965年の夏、とある戦地にて。


暑い、ジリジリとした太陽が、私の頭を照らしている。

延々と続く一本道は、まるでどこまでも続いているように私を錯覚させる。

しかし、それは私の杞憂だった。

道の途切れた先に、小さな湖がきらきらと、まるで大聖堂のステンドグラスの様にきらめいていたからだ。

ふと、太鼓のような、【M102 105mm榴弾砲】の砲声が木霊すと、湖の水面からパシャパシャと、面白いように魚が跳び上がって来た。

彼ら()はこの音を、祭り太鼓の音とでも思っているのだろうか? 

この人を殺す道具(兵器)を、戦争をする人間を、彼らはどう思っているのだろうか? 実に不思議である。


 魚を尻目に、私は木の梢が作り出す日陰に寝転び、そのまま暫くの昼寝を取る。

今は正午、さっきまで喧しく鳴り響いていた砲声も、称賛の拍手のような銃声も聞こえない。

ただそこにあるのは、流れていくぬるい風に、魚が作り出した水面の輪だけだった。

敵も味方も、前線の兵も後方の指揮官も、正午だけは休戦……詰まるところ、ただの昼寝……に、入る。

正午から数時間だけは、どこの戦線でも、否応なく休戦になるのだ。

さっきまで激しい銃撃戦が繰り広げられた川原も、味方が敵をあぶり出すために焼いた森林も、いつの間にか静まり返っている。


 うとうとと、水の中を泳ぐ魚を数えていると、また砲声が鳴り出した。

“ああ……、今日の休戦も、終わってしまったな……。” 誰もがそう考えているだろう。

私も、少し伸びてから立ち上がる。前線からは、また、銃声が聞こえてきた。

小銃を手に取ると、一本道を歩いて帰る。

ジリジリと太陽に照らされながら。

ぬるい風に頬をくすぐられながら。

そして、魚のことを考えながら。

私は前線に向かう。

ここはベトナム。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ