想い出の千年桜
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千年桜の丘にやって来た。
だが…。
4人の前に広がっていたのは。
大きな枯れ木だった。
ショックが隠しきれず立ち尽くすティラミス達。
葵「10年前はまだ咲いていた、けど…、こうなったのはつい最近なんだよ…」
ティラミス「……病気、ですか?」
葵「うん…」
ブリキング「駄目だ………、駄目だ駄目だ駄目だ!!」
ブリキングは走り木の幹まで来るとポカポカと叩く。
ブリキング「おい!お前は咲いてろ!咲いてなきゃ駄目だ!!咲いてなきゃ、咲いてなきゃ……あいつがここに来れないじゃないか!!」
プリン「ブリキちゃん?」
ティラミス「あいつって言ったわね?…あの子も誰かを待ってるの?」
葵「『も』ってじゃあ、ティラミスさん達も?」
ティラミス「……」
プリン「……私達には小さな友達がいたの、大人になってもずーとずぅーと大事にしてくれた」
ティラミス「その子の友達としてアタシ達は誇らしかった、毎年お花見にも来たの、だからこの場所は一番記憶に残ってる」
プリン「あの子が凄くはしゃいで喜んでいた場所」
ティラミス「大人になったあの子が歌ったり本を読んでくれた、………でも、あの子は………」
プリン「やっぱり無理だよ、会えないのは……、辛いよぉ……」
ティラミス「……」
泣き出してしまうプリンとティラミス。
そこへ、ブリキングもトボトボやってくる。
ブリキング「俺たちはまた俺たちで産まれたのに、人間はなんで同じやつが産まれないんだ?…良いやつならもう一回そいつが産まれても良いじゃないか!記憶が残っても良いじゃないか!もう一度、もう一度…、一緒に暮らしたいって言うのは……、ワガママ、なのか……?」
見つめるのは地面、風が足を吹き抜ける。
その時だった。
葵「ねぇ、ブリキング達の友達はどんな感じだったの?」
3人が葵を見る。
彼女は優しく見詰めている。
3人「……」
葵「ブリキングの友達はどんな感じ?教えて!」
ブリキング「お、俺の友達……、いや!相棒はスッゲー元気な野郎だった!」
葵「男の子?」
ブリキング「おう!喧嘩弱い癖に負けず嫌いで勝つまで戦って泣きながら勝ってたぜ!」
葵「泣いて勝ったの!?凄いね!」
ブリキング「頭は悪いし、ヒョロヒョロだけど根性は天下一だからな、ガハハハ!」
ティラミス「それ、褒めてる…?」
プリン「……男の子って、ちょっと可愛いかも」
ブリキング「そんで、ある日ここに来て約束したんだ」
★☆
~回想~
少年「相棒、俺は必ずここに来る!どんなに月日が流れても生まれ変わっても必ず来る!だから、だからさ……、お前も会いに来てくれ、俺の事忘れてても良いから、思い出は忘れないでくれ話は以上!よーし、今日は洞窟探検だ!着いてこい相棒!!」
千年桜の花弁を掻き分け、少年はブリキのおもちゃの手を掴み風のように丘を駆け降りてゆく。
~回想・終~
☆★
思い出した事でブリキングは悟る。
ブリキング「あいつは何時も側にいる、思い出すと悲しいけどな、でも楽しい方が強い、あいつは最高に良いやつだきっとあいつはまたあいつとして生まれる、俺は信じてる」
葵「そっか」
葵を見るその目に、悲しい色は無い。
話を聞いてたプリンとティラミス、彼女達も思い出した。
大人になった少女と最後に交わした言葉を。
★☆
~回想~
老女「プリン、ティラミス、あなた達は私の宝物、あなた達はきっと他の誰かも幸せに出来る、幸せの力を分けてあげられる、私は十分幸せを貰ったわ、本当にありがとう」
両手に包む2人の人形を優しく優しく、胸に抱きしめる。
~回想・終~
☆★
ティラミス「思い出した」
プリン「…私も思い出した!」
2人は枯れ木の桜に向かい歩いてゆく。
プリン「楽しい気持ちは側にある」
ティラミス「嬉しい想いは側にある」
プリン「ならそれを分けてあげなきゃ」
ティラミス「幸せを注いであげましょう」
プリン「想いは永遠」
ティラミス「何時までも」
プリン「共に生き…」
ティラミス「寄り添い…」
プリン&ティラミス「心に生きる…っ!!」
2人は手取り合うと。
残る片方の手で枯れた千年桜の大きな幹に触れれば光が溢れ千年桜を包んでいく。
大地に風が吹き抜けて、曇天だった空が晴れ光が注ぐ。
2人の幸せの光が交差し溶け合った時、千年桜が光を帯びて甦る。
見上げる視線の先には千年桜が美しく咲き誇っていた。
花弁が舞う、木々を揺らす風の音は拍手喝采のように惜しみ無く鳴り響く。
圧巻の出来事にあんぐりとしていると、なにやら騒がしい声が後ろから聞こえてくる。
千年桜の香りが広がったのだろう。
人が集まりつつあった。
砂時計を見れば間も無くタイムリミットが近い。
葵「不味い!全員退却ー!!」
ブリキング「こ、こら!足を掴むなぁぁ!……あ」
ブリキングは一瞬、かつての自分の友達にそっくりな少年を見つけた。
見たのは一瞬だけで後は視界がぶれてもはや確認どころではなかった。
葵「ティラミスさん、プリンさん!!」
ティラミス「行きましょう、プリン」
プリン「うん!」
プリンとティラミスも手を繋ぎながら追い掛ける。
遠ざかりながら後ろを振り返る。
すると桜の傍であの子が立ち、こちらに向かい微笑み手を振る姿が見えた。
先を急ぐ2人もまた再度確認する余裕はなかった。
小さな少女は老女に代わり桜吹雪の中に消える。
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《おもちゃ病院》
ギリギリ帰って来れた葵達。
希糸が葵に冷たいスポーツドリンクを渡す。
希糸「お疲れさん!」
葵「ぜぇぜぇ、…け、希糸の方はどうだった?」
希糸「電話ちゃんの癒しボイスで幸せだった♡」
葵「そうか、そりゃ良かった…」
ブリキング「さて、俺達も帰るぞ野郎共」
手下達「合点!」
葵「ブリキング、仲間達もいつでもおいでメンテナンスしてあげるから」
手下達「はーい、先生!」
ブリキング「ふん!まぁ気まぐれに来てやるよ、気・ま・ぐ・れ・に・な!」
ゴロニャン「素直じゃないやつにゃ」
ブリキング「うう、うるさい!それより…」
葵「?」
ブリキング「…あー、ありがとうな………………、先生」
葵「!」
ブリキング「あばよ!」
ブリキングは慌てて病院を出れば手下達も追い掛ける。
希糸「なんだ結構可愛いじゃんあいつ」
プリン「葵先生、本当にありがとう、おかげで大切な事を思い出せた」
葵「良かった、これからもそれは大切にね」
ティラミス「ドクター、また貴女達に会いに来ても良い?」
葵「勿論だよ!」
希糸「何時でも遊びに来てね!なんなら明日でも……ふげ!」
希糸の頭にゴロニャンが乗り黙らせた。
ゴロニャン「調子に乗るなお前さんは」
楽しい笑い声が響く。
プリンとティラミスは夕陽の中に溶け込むように帰って行く。
プリン「夕陽が綺麗だね」
ティラミス「えぇ、本当ね」
プリン「次はお花見!また千年桜を見に行こう」
ティラミス「ふふ、そうね、見に行きましょう絶対」
自然と繋がれた手、再び結んだ絆はもう切れることは無い。
2人の着せ替え人は笑顔を紡ぐ。
想い出を大切に。
幸せを分けるために。
何時までも、ずっと…。
ー第1章・完ー