ブーケドール族
新しいお客さんが入って来ました。
?「お邪魔します、やってるかしら?」
?「おじゃましまーす!」
大人な女性の声と無邪気な子供の声がドアベルの後に響く。
途端に振り返った希糸が喜び跳ねた。
希糸「ふぎゃ!?キュート&ビューティーボイス!!そして遂に来た、ブーケドール族ゥゥゥゥ!!」
入り口にはティラミスをイメージしたワンピースを着たビターチョコカラーのロングストレートの美女と、プリンをイメージした服を纏ったカラメルカラーなショートカットの美少女が立っている。
ブーケドール族とは人型の人形達の事。
種族名の由来は【花束が似合う】と言う意味で付けられたらしい。
希糸が興奮するのは無理もない、直りが早いブーケドール族がここ(病院)に来る事など滅多に無いからだ。
葵「希糸」
希糸「す、すまん、ついつい」
葵「(コホン!)ようこそお客様、勿論、営業してますよどうぞこちらへ」
案内された席に座る。
葵「先ずはお名前を教えて下さい」
ティラミス「私はティラミスよ」
プリン「プリンです」
希糸「お菓子ドールシリーズの人形達だね」
ティラミス「えぇそうよ、詳しいのね」
プリン「私達、シリーズ出たのは20年前なのに」
希糸「おほほ!おもちゃマニアをナメないで下さいな」
葵「けーいーと」
希糸「うぐ、め、面目ない…」
葵「さて本日はどうされましたか?」
プリン「私は、服がほつれてしまったので直してほしくて…」
ティラミス「アタシは、髪が汚れちゃって上手く取れなくて…」
葵「なるほど、服のほつれ直しと髪の手入れですね」
希糸「服の直しは任せてくれ!」
葵「なら私が髪の手入れだね?了解」
葵&希糸「どうぞこちらへお客様」
笑顔の2人にティラミスとプリンはかつて自分達を大事にしてくれた人間の面影が重なる。
ティラミス&プリン「……」
葵「あ、あの?大丈夫ですか?」
プリン「だ、大丈夫です!!」
ティラミス「ご、ごめんなさい」
葵「謝ることないですよ、さてティラミスさんこちらへどうぞ」
ティラミス「あ…、はい」
希糸「プリンちゃんはこちらへ」
プリン「はーい!」
それぞれが作業に入る。
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~ソーイングルーム~
《希糸とプリン》
プリンを姿見(鏡)の前に立たせる。
希糸「ほつれも酷くないしこれならすぐに直る」
テキパキと前を直し、最後に後ろのほつれを直して行く。
プリン「わぁ、はやーい!希糸さん凄いよ!」
希糸の手際の良さにプリンは感心した声を上げる
希糸「エヘヘ、ありがと♪それにしても可愛い服だね」
プリン「本当!嬉しいな♪お気に入りなの」
希糸「まさに君にしか着こなせない服だ、名前と相余って輝いてるよ」
プリン「え……」
一瞬、プリンは小さな姿を思い出す。
大好きなあの子が喜んでいる。
プリン「……」
希糸「よし!終わり!プリンちゃん、終わったよ!」
プリン「ぁ、はい!ありがとうございます!」
希糸「(糸崩れは無し、と♪)、…それにしても葵達はまだ終わらないみたいだね?」
プリン「ねぇ希糸さん、葵さんとティラミスが戻るまでお喋りしませんか?」
希糸「良いね!そうしよう」
2人がお喋りを始めた一方。
◇
◆
~クリーンルーム~
《葵とティラミス》
葵「よっし、準備完了!始めるよティラミスさん」
ティラミス「ええ、お願いするわドクター」
☆★
ここで!
【着せ替え人形の髪の手入れについて説明!】
まず、深さのある容器にぬるま湯と柔軟剤を合わせ、人形の頭皮にある毛穴に入ってしまわないよう気を付けながら、髪の毛を漬けて洗います。
この時に手ぐしで髪をとかしながら洗うと、まんべんなく柔軟剤が行き渡ります。
終わったら優~しくタオルドライして、櫛で綺麗に髪をとかして自然乾燥をしましょう。
以上、着せ替え人形の髪の手入れ、でした!
★☆
ちなみに、このおもちゃの世界の子達は『生きている』子達なので普通のシャンプー&コンディショナーで大丈夫なのです。
葵「こう言う時にはこれが便利、じゃーん!お試し用品!」
ティラミス「お試し??」
葵「早い話、丁度良い分量が入ってるって事♪」
葵はティラミスの髪をわしゃわしゃ洗う。
葵「そんなに酷い汚れじゃなくて良かった、すぐに取れたよ」
ティラミス「ほ…本当!」
葵「うん」
ティラミス「あぁ…良かったぁ」
葵「次はコンディショナーをやるよ、ここまでで痒かったり痛いとことか無い?」
ティラミス「それなら大丈夫よドクター、アタシ達はこの世界では生きているとは言え人形であるのは変わらないから、実際は痒みとかはないから」
葵「そっか良かった良かった♪」
ティラミス「ぁ…で、でも」
葵「でも?」
ティラミス「せ、せっかくならもう少しだけお願いして良いからしら…なぜかね?この瞬間がとても嬉しい、気分が良いの」
葵「誰かにやってもらった記憶があるとか?」
ティラミス「…そう、かも…?」
葵はティラミスの髪を洗い終わると、タオルで拭き、席を移動、椅子に座らせ次はドライヤーと櫛を使う。
葵「いや~、実に洗いごたえのある髪だったよ!」
ティラミス「…大変だったんじゃい?アタシ、髪長いから…」
葵「ううん、楽しかったよ♪私はショートだから羨ましいよ」
ティラミス「そ、そう…?」
葵「長い髪が似合うって私の中ではレアだよレア、綺麗な髪だから大事にするんだよ」
ティラミス「え……」
一瞬、ティラミスは自分とプリンの髪を手入れする大好きなあの子を思い出す。
ティラミスとプリンの髪に触れながら少女は『大事にするんだよ?』と言うと微笑む。
ビジョンは霞に消える。
ティラミス「……」
葵「はい!終わり!ティラミスさん、お疲れ様でした!」
ティラミス「ぇ、ぁ、あり、がとう…」
葵「いえいえ♪」
隣の部屋から楽しげな笑い声が聞こえてくる。
葵「おや?あの2人終わったみたいだね」
ティラミス「ふふ、プリン楽しそう」
葵「私達も行こうか」
葵の言葉にティラミスは頷き2人はクリーンルームを出る。
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夕方。
プリン「ありがとう葵先生ー!希糸さーん!」
手を振るプリンの隣でティラミスがお辞儀をする。
帰る2人の背を葵達は見送る。
希糸「ふぃー!今日も働いた♪」
葵「プリンさんにティラミスさん、また会えるかな?」
希糸「おそらくまたすぐに会えると思うよ」
葵「何故そう思う?」
希糸「私の勘☆」
葵「やっぱりか…」
遠くの空でぬいぐるみのカラスが2羽、雑談しながら帰って行く。
◇
◆
◇
一方。
プリンとティラミスは思い出していた。
少女と共に過ごした日々を、その最後までの生涯を。
プリン「ねぇ、ティラミス…あの日から時間が止まってる、コレはどうやれば動かせるの?」
ティラミス「…わからない」
プリン「ティラミス…あの子は無事に生まれ変われたのかな…?生まれ変われたよね?」
ティラミス「…」
プリン「きっと幸せって信じたい…」
ティラミス「…うん」
ポピー「また、会えないのかな…」
ティラミス「…………………会いたい、あの子に、もう一度………」
プリン「……うん……っ」
少女が大好きだった2人。
別れた事を思い出し悲しくなる。
会いたいと焦がれながら。
繋げない手が虚しく下を見詰めていた。
ー続くー