後輩
結局この日に図書館に訪れた人は俺と後輩のこの子を含めて約数人だった。図書委員の仕事は一週間同じ人とやることになるため、出だしから後輩の子には印象最悪になってしまっただろう。明日の昼休みが憂鬱だ。今日はすぐに帰ってアニメでも見よう。
翌日は時間通りに図書室に向かう。去年も図書委員だったため昼食を済ませるタイミングは把握しているので特に困らない。昨日よりも早く、しかし遅刻ギリギリの時間に図書室に向かう。図書室に着いたのが登板開始のだいたい2分前。そこにはすでに昨日顔を合わせた後輩の子がいた。
「……お疲れ様です」
「あ、はい。お疲れ様です」
一瞬、本からこちらに視線をよこしそう告げるとすぐに本に戻す。そこからは前回と同じように彼女の座るカウンターの隣に腰掛ける。世間話をする間柄でもない上に昨日遅刻してきた先輩かつ異性という事も会って話しかけることはしない。というかそんな簡単にほぼ初対面の人間に話しかけることができるならば教室でももう少し多い友人がいる。残念ながら自分はそういう事は得手ではないのだ。そう思えば少しは気持ちが楽になるものだ。
別に、昔からそうだったわけではないがなんとなく煩わしくなってきたのだ。中学くらいはもう少しお友達がいたはずなのだが、今の自分にはその空気感が合わないと感じているからだろう。そういえばと隣の少女を見る。この少女には友人がいるのだろうか?失礼だとは思うが友達付き合いが得意そうには見えないし……いや、人は見かけによらないとも言うし案外多かったりして。
チラチラと隣を見ながらそんなことを考えていればカウンター前に貸し出しを頼んでくる人が来る。貸出期間が何日までなのか、もしそれを過ぎれば担任から連絡があることなどを説明し機械に貸し出し処理を行う。
「それじゃあ、期間以内に返却お願いしますね~」
「分かりました」
そんなやり取りをしていればなんだか珍しいものを見たような目が二つ、こちらを見ているのに気づく。いや、そんな見られたら恥ずかしいんですけど……。
「えっと、俺、なんかした?」
「いえ……ただ、先輩って案外仕事できるんだなって」
「一応、去年も図書委員だったので……」
「去年も図書委員だったのに遅れてきたんですね……?」
「いや、はい。申し訳ないです」
確かに去年もやっていたなら遅刻なんてせず、仕事ができるというのがほとんどだろうが……正直忘れるときは忘れるのだ。迷惑かけたのはそうなのでここで開き直ることはしないのだが。
「意外でした。先輩は頼りなさそうなので」
「まあ、初日遅刻してきた先輩に対して頼りがいがある‼とはならないですよね」
「……それもそうですけど、先輩はなんとなくヘタレそうな雰囲気があるので」
「それ、チクチク言葉だよ?」
「あ、ごめんなさい。悪い意味で言ったわけじゃなく」
「ヘタレって悪い意味以外にあるんだ……」
「なんというか、押しが弱いというか後輩にさんざん言われてふにゃふにゃしてるので、ヘタレなのかなって思ってました」
「いや、確かに昨日はそうだったけどそれは俺が遅刻してきたせいだし、怒られるのは当然かなと思って」
「……………………」
「え、固まってるけど俺なんかおかしいこと言った?」
「……いえ、今まで私の周りにいた人たちはそういうことを言う人がいなかったので、少し、驚きました」
「普通のことじゃないか……?」
いや、まあご家庭によって普通とは何かなんて変わるし自分の普通を人に押し付けるつもりはないのだが、自分に非があると思うならしおらしくするものではないのだろうか?そうじゃない人もいるにはいるがそういう人間と関わるのは面倒で避けてるし。
「先輩にとってはそれが普通なんですね」
「あ~、うん。まあ、俺の普通はそうだと思う」
「なんか、見直しました」
「え……ありがとうございます?」
「まあ、遅刻したのはないなって思いましたけど」
「いや、本当にそれに関しては申し訳ないとしか……」
「嘘です。正直、いない方が楽でした」
「え、あ~……それはごめんなさい?」
「でも、今はちょっとだけ居てもらえてよかったです」
「はあ……?」
そう言うとふふと笑い、本に視線を移す。なんだこの子、分からん。
それからというもの最初の頃よりかは話すことが多くなった。基本的に後輩からくる質問を俺が打ち返すだけだが、学校で困っている事、面倒な先生、一人になれる場所や静かな場所などを利用者が来ない間に話すだけ。こちらとしても段々と打ち解けてきて質問だけでなく普通の雑談程度なら会話できるようになった。
そんなこんなで第一印象が最悪な二人はそこそこいい雰囲気な学校の先輩後輩という関係に落ち着いた。
「あ、そろそろ終わりだ」
「そうですね。最初は遅刻してきた先輩も次の日からは真面目に来てましたし」
「うっ……それは本当にすみませんでした……」
「でも、それなりに楽しかったですよ。先輩とのこの時間」
お昼に図書室で話すだけの空間だったが、それでも少しだけ心地いいと感じていたのはこの後輩との掛け合いというものがちょうどいいと思えていたからだろう。最初こそ相手からの印象が悪いと思っていたから縮こまっていたかもしれないが案外、趣味や好きな本の話を聞けばなんとなく馬が合い結局話すことが増えた。
「俺も楽しかった。ありがとう」
時間が進み終了の時間になる。後輩のかけているメガネの奥の瞳はなにを映しているのかは分からないが、少なくともそれほど悪印象という事はないだろう。そう思えば目の前の少女は笑って挨拶を返すのだった。




