図書委員
春井先輩からの衝撃告白から早1週間。最初の方こそ何か特別な変化があるのではないのか、とか思っていたんだがそんなこともなく結局変わらない毎日を過ごすばかりだ。学校に来て授業を受けて課題を出されてほどほどに課題をしてまた学校に行く。
あんなことがあったんだから劇的ではないにしろ変化はあると思っていた。けど、そんなことはなく相も変わらずの平坦な日々が続いているだけだ。
「あ~~~~……」
「うぉっ、なに? なんかあったん?」
「あ? いや、別に……」
「なんもない人間の顔じゃねーって……話もできない感じなのか?」
「あー、まあ、そんなとこ」
いつも話す相手は決まってカズだし急に「俺、春井先輩と付き合い始めたんだよね」なんて言ったところで疲れているのを心配されるだけだ。結局なーんにも変わらないなと思いながら机に突っ伏す。刺激的なことや劇的な変化を自分から起こそうなんて気概はないし、ただ流れに身を任せて受け入れていく方が楽だし。あ~……考えんの面倒になってきた。
「……まあ、何を思い悩んでるのか知らんけど、あんま考えすぎんなよ」
「大丈夫、めんどくなったら思考放棄するし」
「いいけど、思考放棄というか今日の図書委員の当番ヒロじゃね?」
「…………あ」
なんか忘れてるなとは思ってたけど、そういえば今週の図書委員の当番は俺だった。基本的に放課後に行うような委員会というのは面倒で、部活以外で放課後に時間を縛られたくないからこその活動があるのが昼の図書委員を選んだのが先週。そのまま週明けの当番に選ばれたのをカズに愚痴ってたのを覚えていてくれたのかコイツ……そういうことはもう少し早く言ってくれ!
時刻は昼休みが始まって10分ほどたったころでそこまで遅刻という訳ではない……はず!幸いにも弁当は食べていたのでカズに言ってくるとだけ伝えすぐに図書室に向かう。図書室は本校舎の4階で二年生の教室があるのが2階だ。急いだとしても2、3分はかかる。階段を駆け上がり図書室の扉を開けるとそこに居たのはお団子で髪をまとめた小柄な女子生徒だった。
「間に合った……?」
「いえ、全然アウトだと思います。先輩」
「あ~っと、もしかしなくても図書委員の人……ですよね?」
「はい、そうですね。先輩が当番を忘れて一人で待たされていた後輩当番です」
「ごめんなさい……」
「いえ、別に気にしてません。正直、ここの図書室は盛況とは言えませんから」
「ああ、まあそうだけど、初当番で後輩を1人にさせたのは良くないだろうし、だからごめんなさい」
「……遅れてくる割には律儀なんですね」
「いや、ほんと……返す言葉もないです」
「本当に気にしてませんので、先輩も気にしないでください。貸し出しや返却のパソコンの操作も司書さんに教えていただきましたので特に問題はありませんでしたし」
「そう言ってもらえると助かります……」
「はい、では私は読書に戻るので」
「あ、はい」
そう言うと視線を手に持った小説に移す。なんとなく気まずくて一応貸し出しのカウンターに座るが特に話すこともなければやることもなく、手持ち無沙汰になってしまう。
遅れたから当然なんだけど俺も本の一冊くらい持ってくればよかったな。無意味に体を揺らしてみたり視線を図書室内に向けてみる。この学校の図書室はライトノベルが多く財布に余裕がない時にはよく利用している。並んでいるものから勝手にとってきて読み始めてもいいが遅刻した手前、それはなんとなくはばかられる。こういう時、根明な人間ならば横に座っている後輩に対して話しかけに行けるのだろうが俺にはそんなことは出来ない。そもそも遅刻したのにズケズケと話しかけに行ける程の胆力はない。
そんなそわそわとした様子に痺れを切らしたのか後輩の方から話しかけてくる。
「あの」
「あ、はい」
「さっきから何してるんですか」
「え、何もすることがなくて困ってる……?」
「図書室の中の本でも持ってきて読めばいいじゃないですか」
「遅刻した手前、そう言うのもどうなんだろうって思って」
そう言うと面倒そうな顔を隠そうともせず、ため息を吐く。眉間に寄ったしわを見ながら普通にしていれば愛嬌のある顔なのにこんな怖い顔もこの子は出来るのかと感心してしまった。
「別に先輩が罪悪感を感じて萎縮するのは勝手なんですが、だからといってわざわざ自分の行動を制限する必要はないですよね? というかそもそも私は気にしていないのに勝手に気にしてるのは先輩なわけですし、むしろ私としては横でせわしない状態になられている方が迷惑なので早く自分の読みたい本でも持ってきて読んでください……分かりましたか?」
「ハイ、ワカリマシタ」
「なら良かったです」
にっこりと微笑み、また本に視線を戻す。そこに先程の勢いはなく物静かな女の子が存在するだけだった。というか、怖かった。自分よりも絶対に小柄なのに言葉の勢いと心底面倒そうな顔をしているためなのか非常に怖かった。また怒られる前に早く本を取ってこよう。そう思ってカウンターから立ち、ライトノベルを一冊取ってくるのだった。




