表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春は彼方  作者:
25/25

これからも

 注文した品を食べ、支払いをするタイミングで上坂先輩から春井先輩へ代金を置いてくるのを忘れたと連絡があったらしい。

 クールっぽいのに抜けてるんだよね。とは春井先輩の談。

 もしかしたら感情の出ない表情も何も考えてないだけなのかもしれない。


「さて、これからどうしようね?」


 一応映画の時間まではあと1時間と少し、時間通りに行っても映画のコマーシャルがあったりするからなぁ……。

 あとはポップコーンを買うかどうかだけど、個人的にはさっき軽食を食べたし必要性は感じない。これは春井先輩と相談するべきだろう。


「とりあえず、1時間は余裕ありますからね。他にしたいこととかありますか?」


「ん〜……」


 顎に手を当て首を傾げる。

 本当にこの人何をしても様になるというか。

 先程の二宮先輩を思い出す。釣り合わないことなんて分かっていたし、なんでお前がと言われるのも覚悟していたつもりだったけど……。

 まぁ、結局は彼氏役だ。いずれは「やっぱりね」なんて言われながら前のような距離感、とまではいかないにしても程々の距離に戻るはずだ。



「あ、新崎くんにはこれが似合いそうじゃない?」


「そうですか……?」


 春井先輩が指すのは緑のフレームの眼鏡。カフェを出て1時間程度ぶらつくことにした俺たちはモール内を歩きながら面白そうなものを見ていた。


「似合うよ!」


 試しにかけてみせてとせがまれ展示品をかけてみる。似合わない、とまではいかないにせよ似合うってほどでも無い気がする。

 いや、言われて嬉しいけどね。

 展示品を戻し私はどれにしようかな〜なんて言っている春井先輩の元へ行く。眼鏡を物色していが何かを思いついたかのようにこちらへ顔を向けた。


「新崎くんが選んで!」


「え、春井先輩の眼鏡をですか?」


 春井先輩がかける眼鏡。

 いや、想像もつかない。

 そもそも服を選ぶセンスすら皆無に等しいのに眼鏡なんていう直接顔に関わるようなアイテムでオシャレなものなんて選べる自信が無い。

 目の前では私、楽しみです!なんて言わんばかりに春井先輩は待ってる。

 むむと頭を悩ませていればふと先程置いた緑のフレームの眼鏡の近くに淡いピンクの眼鏡を見つけた。

 桜がワンポイントの眼鏡を取れば、はにかみながらも受け取ってくれる。


「私、メガネってかけたことないんだけど……どう? 似合ってる?」 


「すごくよく似合ってると思います」


「良かった〜!」


「でも春井先輩って目が悪い訳じゃないですよね?」


「最近はお洒落メガネっていうのが流行ってるんだって! ブルーライトカットとかだけで度の入ってないメガネもあるみたいだから」


「なるほど……僕もゲームしますしそういうのを考えるのもありか」


「その時は私も一緒に選ばせて! 新崎くんに似合うのを見つけてみせるから!」


「そういうことなら、是非」


「その時は、また私に似合うの選んでね?」


 次も、あるのか。

 ただのお礼のために出かけただけと今回きりなのだと思っていた。

 だって春井先輩にメリットがない。

 部活の後輩と休日にわざわざ出かける必要も、ましてやこうして本当の恋人のようにぶらつくことも。

 さっきのアクシデントもそうだ。

 彼氏なんだと伝える必要なんてなかった。

 ただの後輩だとそう告げれば少なくとも二宮先輩は納得してくれただろう。

 そもそも秘密だと言っていたのは春井先輩だったのに、上坂先輩と二宮先輩にはあっさりとバレてした。隠す気もあまりなかったようにも思う。

 何故なのかなんて考えても答えなんて出ないが、それでも考えてしまう。

 ……この関係は、歪だ。


「楽しかったね〜!」


 あの後、アクシデントもあったが無事に映画も見ることが出来てデート自体は問題らしい問題がなく終わりに近づいている。


「1回迷っちゃった子のお母さんを探すことになったのはびっくりだったけどね」


「正直、春井先輩がいなければ泣いたままだったと思います」


「そんなことないと思うけどなぁ?」


「だって新崎くん、優しい顔をしてたから」


従妹弟いとこが居るので、もしかしたらそのおかげかもしれないですね」


「きっと新崎くんはいいお兄ちゃんなんだろうね?」


「そんなことは無いですよ。従妹弟と言っても1年に1回会うかどうかですし」


「そんなことないと思うけどなぁ〜」


 着信音。

 自分のポケットに入っている携帯が振動してないのをみるに春井先輩の携帯だろう。

 カバンから取り出し画面を見てゲッと顔をしかめる。


「あ〜……ごめん。お母さんからだ」


「全然気にしないでください」


 着信音が鳴り続けるも一向に出ようとしない。どこか躊躇ってる?

 あ〜とかう〜んとか唸りながら電話に出るかどうかを決めあぐね、そして結局その着信は繋がることが無かった。

 出なくていいのだろうか。

 親からの着信なんて大事な要件だろうに。

 そんなふうに思っていれば春井先輩が苦笑する。


「後で、怒られちゃうね」


「じゃあ出ましょうよ……」


「出たくない、って言ったら?」


「怒られるってさっき言ってたじゃないですか」


「うん。怒られちゃうと思う」


「……一緒に、怒られてくれる?」


「………………」


「………………」


 最近、春井先輩への印象が変わった。

 前はただの先輩で、学校の人気者で、苦手な人の親友で、それでいて優しい人。

 自分が関われていることがなにかのバグなのではないかと思うほどに、遠く離れた距離にいる人だと思っていた。

 ただ、こうしてデートに来て同じ時間を過ごし、話をし、親睦を深め、少しだけわかったことがある。

 この人は周りが思っているよりも悪戯が好きだということ。

 こうして、断れないことを分かりながら狡い提案をしてくる。

 彼氏役ならばこういう時どうするのだろうか。

 いや、答えなんて決まってるんだけど。


「……1時間だけですよ」


「ふふ、新崎くんのそういう所、好きだよ」


「……褒め言葉として受け取っておきます」


「うん。褒めてる褒めてる」


 途端に上機嫌になる。

 彼女にとって、もしかしたら自分は都合のいい人間なのかもしれない。その他の一部で、いしきをむけられているのも偶然の産物で、いずれ変わってしまうのかもしれない。

 けれども、この人と一緒にいるこの雰囲気がどこか嫌いになれない。

 ああ……ちくしょう。

 好きと言われるだけで心臓が痛え。

 あくまでも役。俺は、あくまでも仮初の相手。

 落ち着け、と深呼吸をする。

 まあ、この人はそんなのお構いなくこちらに近寄ってくるのだが。


「よし! じゃあ行こっか〜」


「いや、ちょっと! 近いです!」


 左腕に当たる柔らかい感触を意識しないように必死だったことは伝えておこう。




 結局この日は1時間くらいお茶して帰った。

 自宅に着いたら春井先輩からは怒られちゃったなんて連絡が飛んできたし、自分の家族からはこの時間まで外に出ているなんてと物珍しい顔で見られた。

 訝しんだ両親にデートしてきたなんてついポロッとこぼしてしまったが最後、父からは遂に春が……!なんて男泣きされてしまったし母からも今日の夕食お赤飯の方が良かった?なんて聞かれた。

 実際、夕食は家で食べようと思ってたからこそ特に何も伝えてなかったのだ。

 まぁ、春井先輩と軽くつまんできたためかそこまで空腹という訳でもなかった。

 結局遠慮して翌日の弁当行きだ。


「あ〜〜〜〜……」


 風呂に入り、髪を乾かし、いつものベットへダイブイン。

 それだけで今日の疲労が抜けていく気がした。

 春井先輩からの連絡はもう既にない。

 多分今頃は怒られているのかもしれない。


「想像つかないな……」


 あの優等生が怒られている。

 最近になって知らない側面を知って、やっと納得できるかってレベルだ。


『……一緒に、怒られてくれる?』


「…………」


 別に、約束なんてしてないけれど。

 こういう時は彼氏も一緒に怒られるべきなのかもしれない。


『もしもし?』


「こんばんは、春井先輩」


『どうしたの? 新崎くんから電話なんて珍しいね?』


「あ〜……いや、えっと」


 電話をしてみたはいいものの、何も考えてなかった。

 一緒に怒られるために電話しました。なんて意味がわからん。

 

『もしかして、心配してくれてた?』


 図星をつかれて思わず黙る。

 いや、まあ一応共犯ではありますし。

 それに一緒にいた相手が怒られているのにこちらだけお咎めなしなんていうのも、後味悪いですし。


『なーんだ。心配してくれてたんだ〜?』


「……楽しそうですね」


『ん〜? まあね〜』


 悪戯が成功したみたいに笑う。

 もしかして、怒られたってのもからかうための冗談だったりする?


『あ、勘違いしないでね! ちゃんと怒られはしたよ』


『ただ、私のお母さんね。ちょっと、というかかなり心配性だからさ』


『今日のことも予定より帰るのが遅くなったから心配したって言われただけだよ』


「春井先輩は、そういう電話だって分かってたんですか?」


『凡そはね〜』


『でも、今日は初デートだよ? 新崎くんと、まだ一緒に居たかったんだよ』


「……役、ですけどね」


『つれないんだ〜』


 そんなこと微塵も思っていないようにケラケラ笑う。

 声を聞く限りは元気そうだ。

 怒られて落ち込んでいるなんてこともない。

 いや、もしかしたら気丈に振舞っているだけかもしれないけれど。

 少なくとも、今の春井先輩からネガティブな感情は感じれなかった。


『ね、今日の映画の感想会しよーよ』


 じゃあ大丈夫かと切ろうと思えば、春井先輩から待ったがかかる。


「感想会って……十分したでしょ」


『え〜! じゃあデートの感想会!』


「それこそ必要ですか……?」

 

『うん! 次は私の行きたいところだけじゃなくて、新崎くんの行きたいところも行こうよ』


「行きたいところ、ですか」


 まあ、いいか。

 明日も休みだし。


「眠くなったらちゃんと寝てくださいね?」


『もちろん!』


 それから1時間が経った頃に春井先輩の寝息が聞こえてきた。

 疲れていたんだろう。

 というかこれ、寝落ち電話ってやつか……?


『うぅん……』


 ま、いいか。

 少なくとも、この人にとっては遊び疲れて寝るくらい楽しかったのだろうから。

 欠伸をし、寝る準備を始める。

 まあ、歯磨きしてくるだけなんだけどね。

 あ、その前に。


「おやすみなさい、春井先輩」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ