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春は彼方  作者:
24/25

許さないから!

 先程の先輩たちの話を聞いて興奮していたポニーテール先輩は頼んだオレンジジュースをチマチマと飲んでいた。

 小柄な体格もあってかどこか幼さを感じるが先程の烈火の如き怒り様を見ればそんな風には思えなかった。


「それで、本当に春ちゃんと……その、付き合ってる、の?」

 

「まぁ、はい……一応、そういうことになりますかね」


「ふーん……」


 すっごい。この人分かりやすすぎる。

 表情から読み取れるいかにも納得いってませんという感情は包み隠さず、というよりも隠すことの出来ないように見えた。

 眉間に皺が寄ってるし、すげえ嫌そう。

 朝とか無理に起こしたらこんな顔になる自信がある。


「あ、桜ちゃんと新崎くんで自己紹介しようよ!」


「「えっ」」


「……まぁ、2人ともお互いのこと知らないしいいんじゃないかな」


 明らかに嫌そうな顔を浮かべられてる。

 いや、まあ確かにこの先輩からしてみれば急に現れたぽっと出の彼氏に自己紹介なんてって思うだろうけど。

 ダメかな?という視線が向かい側から飛んでくるし、上坂先輩に関しては表情こそ変わらないものの楽しんでるような雰囲気が伝わってくる。

 上坂先輩、確実に楽しんでるだろ。


「じゃあ、はい。とりあえず俺から、でも大丈夫ですか……?」


「…………オネガイシマス」


 すっげぇ嫌そうなんですけど、本当に大丈夫ですか?

 思わず心の声が漏れそうになるが、そんな事をすれば燃料を投下するのと同義だ。努めて普段通りに先程も行った自己紹介を繰り返した。


「……ゲーム、するんだ?」


「え、まあ、はい。ほとんど1人用のゲームですけど」


「どんなの?」


「えーっと……基本的にはRPGモノですけどたまに建築するやつとか、どうぶつの村を発展させるやつとかしますね」


「え、どう村やってるの?」


 声がワントーン上がる。

 その様子は興味津々といったもので、2人であのキャラがいいとか蜂に追いかけられた時は驚いたとかしばしの間ゲームの話題で盛り上がる。

 話の途中でハッと気がついたかのようにこちらを威嚇される。


「共通の話題で絆そうとするなんて卑怯な……」


 まんまとのせられたなんて言いながら顔を真っ赤にしてガルルッと威嚇されるがさっきまで楽しそうに話していたのを見ているとあまり怖くない。

 なんというか、小型犬みたいな人だな。


「いや、そんなつもりは全くないですけど……」


「いいから、桜も自己紹介しちゃいな」


「……二宮桜」


「ごめん、宏人。悪い子じゃないんだけど、歌奈のこと、ちょっと好きすぎるみたいで」


「――なっ! 陽ちゃん!」


「間違ってないでしょ。というかバレバレだから」


 確かに初めは友人が取られると思って威嚇されているのかと思っていたが、話をしているとそうは思えない。

 というか、どこかで見覚えがあるような……。


「あ」


 思い出した。

 なにかに気づいたような声を上げた宏人にビクリと方をはね上げた桜。

 もしかして――


「前――「わぁぁぁぁぁ!」」


「ダメ!」


「何も言っふぇないでふ」


「言おうとしたでしょ!?」


 確信した。この人、俺の事覚えてる。

 以前、それも少し前に学食前の自動販売機でギリギリ届かないボタンを押そうと懸命に背伸びをしていたのを覚えている。

 あの時は1年生だと思っていたけど、まさか3年生だったとは……。


『あの、良ければ押しましょうか?』


『……ありがとうこざいます』


 一瞬、届かないって言いたいのか! なんて視線を向けられたが、実際届かない事実は変わらなくて渋々お礼を言ってもらった。

 あの時の人か〜。

 頭の奥で引っかかっていたモノが解けて解放されたような感覚だ。


「ね、ねぇ……新崎君?」


「はい」


「もしかしなくても、あの時の人って、君?」


「……恐らく」


「〜〜ッッ!」


 声にならない叫びが聞こえる。

 先程まで真っ白だった肌は瞬時に赤く染まり、睨まれる。まるでバラしたら許さないからと言っているようだ。

 届かないのにずっと背伸びしてたからな、この人。いや、この場で言うつもりなんてないけどさ。


「本当に歌奈ちゃんと付き合ってるの!?」


 話を無理やり切り替えられる。

 未だに顔は少し赤いが、多分聞きたかったことの本題だろう。


「まぁ……一応、ですかね」


「ハッキリ答えて!!」


「お付き合いしてます!」


「………………」


 無言がいちばん怖い。

 あとさっきから顔が赤くなったり元に戻ったりと忙しい人だ。

 テンションの落差についていけない宏人をよそに歌奈は苦笑いを浮かべ、陽は仕方ないとでも言うように額に手を当てている。

 そうして沈黙が場を支配してから、1分……?

 いや、10分は経っただろうか。


「泣かせたら、許さないから」


 呟くように、それでいて脅すように。

 真っ直ぐにこちらを見つめ沙汰が下される。


「そうならないように努めさせていただきます……」


 絞り出した言葉に満足とは行かない迄も納得したような頷きを返した。

 認められた訳では無いのかもしれないけれど、一旦は様子見ってことなんだろうか?

 そんな2人のやり取りを見て嘆息しながら陽が桜の鼻をつく。


「そんな怖い顔しなくても、宏人は悪いやつじゃないよ」


「陽ちゃんはいつも適当だからでしょ!」


「そうでもないでしょ。それに私はいつもみたいに笑う桜の方が好きかな」


「そうやってまた誤魔化す!」


「まあまあ、2人とも落ち着いて」


 いつもこんな感じなんだろうか。

 教室での春井先輩は知らないが、きっといつも通りなのだろう。

 自然に会話する3人に比例するように体を縮こませる宏人。

 我慢の限界がきたのか、あ〜もう!と桜が半ばヤケクソ気味になった。


「歌奈ちゃんも! 変なことされたら言ってね!?」


 約束!と小指をつきだす。

 一瞬驚いた顔をしつつも優しい笑顔で指切りをしている。

 それにしても、二宮先輩の手が小さくて……なんかお姉さんに指切りねだってるみたいで微笑ましいな。


「新崎くん?」


「はい?」


「今、なにか失礼なことを考えたかな?」


「……いえそんなことは」


 ジトーっとこちらを見つめる2つの大きな目にタラリと冷や汗が流れた。

 いや、別にそんなまさか! 手がちっちゃくて年上のお姉さんと言うよりか年下みたいだななんてそんな、ねぇ……?


「……まあ、今は見逃してあげる」


 なんとか難は逃れたらしい。

 結局その後は春井先輩を泣かせたら許さないことと認めてないから!とだけ告げて上坂先輩と元々の予定に向かっていった。

 なんと言うか、今までにないタイプの先輩だった……。

 疲労感を感じながら、気付かれないように深呼吸をした。


「デートだったのにごめんね?」


「いえ、全然大丈夫ですけどむしろ良かったんですか?」


「なにが?」


「このままデート続けちゃって」


 さっきの上坂先輩が言うには休日に外に出るなんてことは春井先輩は珍しい。普段はもしかしたら別の何か用事があって忙しいのかもしれない。

 それなのにあくまでも役である自分と一緒でいいのかと暗に聞いていた。


「心配してくれるんだ?」


「いや、まぁ……」


 ここで「これでも彼氏ですから」なんて言えればいいのかもしれないが、生憎とそんな度胸も度量も持ち合わせていない。

 どう伝えたらいいのだろうかと口をまごつかせる。


「大丈夫だよ」


「だって2人とは学校で会えるからね!」


 笑顔を浮かべ、残っていたケーキを一口ずつ食べていく。

 なんとなく、これは春井先輩の本心であるがそれが本音だとは思えなかった。

 だって今の春井先輩の笑顔は変だ。

 どこか作り物めいた笑顔にしか見えない。

 何を思ってそんな笑顔を浮かべているのかは気になる。なにか理由があるのか、どんな理由なのか、それはどうしようも無いものなのか、なんでそんな顔で笑えるのか。





 だけど俺はあくまでも彼氏役で、そこまで踏み込むべきじゃない。





「ん、やっぱり美味しいよ! このケーキ!」


 ケーキを頬張る春井先輩にそれは良かったですね、なんてありきたりな答えしか返せなかった。

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