同級生
「部活での歌奈ってどんな感じ?」
むくれる春井先輩を必死になだめていると上坂先輩からそんな質問が飛んでくる。
どんな、と言われても……割合で言えば来ない時の方が多かったりするからな。
それこそ、こういう関係になる以前は二人で話すなんてことも多くなかったし、連絡を取ることも極めて少なかった。
……まあ、こういう時は無難に返すのがいいか。
「どんな、と言われると良い先輩ですとしか返せないですね……。優しくて、いつも笑顔な良い先輩ですよ。人付き合いの苦手な僕にも優しくしてくれますしね」
「……そっか。なんだ。良い先輩してるんだね、歌奈」
「なんか照れるなぁ〜」
先程の事など忘れたかのようにえへへと照れ笑いする春井先輩。
さっきの質問の意図がなんだったのだろうか。普段の春井先輩とは違って見えたから聞いたとか?
……まあ、なんでもいいか。
その後、お互いの部活の話だったり、休日何をするか、おすすめの映画はないかなど注文した品が来るまで雑談に華を咲かせた。
「なるほど、確かにその映画は気になるね……今度久しぶりに行ってみようかな」
上坂先輩は思っていたよりもよく笑う人だった。最初はクールビューティで取っ付きにくいタイプの人かと思ったが話をしてみれば漫画やアニメを見たり様々なことに興味を持つ人だった。ゲームもその一環らしい。
「大切な人が色々なことに目を向けるといいって言ってくれたから」と大事そうに話すものだから、春井先輩がそれに深掘りしようとしていた。
止めるのはとても大変だった。
「それで、今日はその映画を2人で見る予定だったの?」
「いえ、今日は映画を見に来たわけじゃ――」
ん?
ふと違和感を感じた。
いつ、2人で見るなんて話をしただろうか。
そこまで考えてやっぱりと言ったように上坂先輩が意地の悪い笑みを向けてきた。
「そっか、デートだったんだ?」
「……え」
「やっぱバレちゃうかぁ〜」
ありゃ〜と言うように背もたれに背を預け、いつから気づいていたのかを視線で問いかける。
なんとなくバレている気はしていたけど……陽ちゃん、そういうの察し良いからなぁ。
「最初から疑ってたわけじゃないけどね。雪峯から少し話聞いてたし、歌奈が休みに1人で出かけるとも思えなかったから……カマかけた」
「うーん……まあ陽ちゃんならバレても仕方ないかなとは思ってたけど」
「ふふ、宏人が素直だったからね。歌奈との関係性の話をする時ちょっと目が逸れてた」
「それで付き合ってると思うのも察しが良すぎる気がするけどなぁ……」
「じゃあやっぱり2人は付き合ってるんだ」
「まぁ、そうかもしれないかな〜?」
「ここまできてとぼけようとしても無駄だと思うよ? 特に宏人が分かりやすいし」
「え、あ…………え?」
2人の会話についていけず、ただ目の前の情報を右から左へ受け流すしかできない。
関係性がバレた。
それは春井先輩との約束を破ってしまったことを意味する。古川さんのように俺と彼女のみの話ではなく、春井先輩のお友達に知れ渡る可能性があるということだ。
上手く言葉を発することの出来ない宏人に優しく歌奈が笑いかけた。
「ふふ新崎くん、ロボットみたい」
「え、いや……」
からかい混じりの言葉にはどこか優しさが滲んでいた。
気にしていないのか? いや、それとも単に上坂先輩がいるから普段通りにいるだけなのか?
心の中でこの関係が間違ったものであると理解しているが故にいつか終わりの訪れるものだとは分かっていた。同級生にバレないこと。これは絶対条件だったはずだ。
あくまでも自分はこの人の言い訳でしかないのだから。
どうしよう、どうすれば。
自分の失態だ、自分の失敗だ。
取り返しのつかない現実が宏人を襲う。
グルグルと思考はネガティブで埋め尽くされ顔から感情が抜け落ちるような気がした。
「――大丈夫」
「大丈夫だよ、新崎くん」
酷く、優しい顔をしていた。
まるで体の芯をじんわりと温めるかのように温度の籠った声は宏人の狂いを溶かし、ゆっくりと、普段を思い出させた。
「……何を考えてるのか分からないけど、秘密にしたいこと?」
「うーん……できれば、かなぁ」
「ん、了解」
簡素なやり取り。
だが、春井先輩と上坂先輩にはそれで十分なようだった。
「宏人も、安心してくれていいよ。私これでも、口は固い方だから」
「私、この前サキにポテチ食べたのバラしたこと忘れてないからね?」
なんのことかと上坂先輩がとそっぽを向く。
上手に吹けてない口笛がヒューヒューと漏れていた。
注文した品物が届きコーヒーを飲んでやっとの思いで落ち着く。
舌の上に残る苦味で気分が落ち着くような気がした。
「落ち着いた?」
「なんとか、ですかね」
心配そうな表情を向けてくる春井先輩になんとか笑いかける。
そんな2人をみてやっぱりと言ったふうに陽が笑みを浮かべた。
「仲、良いんだね」
「ん〜まあね! じゃなきゃデートなんてしないでしょ?」
「じゃあ歌奈に謝らないとかも」
「え、どうして?」
「もう桜が――」
タイミング良くベルがなる。
扉に付けられたその音は嫌に鮮明に聞こえた。
「あ、いた〜!」
扉を開いてキョロキョロと辺りを見渡したポニーテールの少女は上坂先輩と春井先輩を見つけると一目散にこちらへ向かってきた。
バチリと目が合い、そして春井先輩と上坂先輩に順番に視線が移る。
なんとなく、言いようのない圧を感じる。
なんだろう……すっごい嫌な感じだ。
「………………どなた?」
笑顔を張りつけた底冷えするほどの冷たい声は、思わず身震いをしてしまいそうだった。
そしてそんな少女になんの怯みも淀みもなくスラスラと上坂先輩が答えた。
「歌奈の彼氏。新崎宏人って言うんだって」
既にこの人の口の固さには信頼が無くなった。多分適当に発言してるこの人。
そんな上坂先輩をフォローするかのようにこちらを睨み続ける推定先輩に春井先輩が言葉を続けた。
「部活の後輩くんだよ。今日はたまたま会ったからデートしてたんだ〜」
「デ、デデデッ――デート!?!?」
一瞬大王かと思っちゃったよ。
あたふたと真っ赤になりながら慌てる様子を見て、1周まわって落ち着いてきた。
あ、上坂先輩なんか悪い顔してる。
「ふふ、そうらしい。私もさっきイチャイチャしてたの見せられた」
「イチャイチャァァァァァ!!??」
ああ、せっかく落ち着いてきてたのに……。
上坂先輩の爆弾の投下で再度顔を真っ赤にしてしまったポニーテール先輩は、それから落ち着くまでに10分ほど時間を要した。




