友人
なんとか追っ手を撒ききり、無事教室に着いたと思ったら1年生からの見知った顔が話しかけてきた。
「お? 遅かったじゃん? 目の下の隈は寝不足ってとこか?」
「あ、おはよ。そんなとこ。つか、遅かったのは別の理由……いや、これは思い出さないでおこう」
「別の理由? 寝坊じゃないのか、珍しーね」
「いつも寝坊してるみたいに言うなよ。 俺はお前と違って優等生なんだ」
「ほーん……そんで、課題は?」
「進捗80%です!」
「どこが優等生だよ‼」
そうツッコミを入れてけらけらと笑うのは1年生の頃からの腐れ縁の上原一真である。元々、話をするような中ではなかったのだが授業でグループを作った時に妙に馬が合い、お互いの好きなものだったり好きな作品をお勧めしあう事でこういった仲に発展した。
「そういうカズはどうなんだよ」
「ん、ほいこれ」
しっかり自主採点までした課題を机の上に広げられる。普段は授業をサボることが多い割には課題をしっかり出していたり、テストでは上位10位に入るくらいには成績がいいのはこいつの器用なところだ。
ニヤニヤとしっかりと終わった課題を見せつけられてこいつの意地の悪さが透けて見える。うざい。ニヤニヤするな。目の前で課題を見せつけてくるな。完全にやってない俺が悪いのだが、それはそれとして煽ってくるような表情にはイラっとするので今度某レースゲームをするときにはボコボコにすることを心に決める。
「不良の癖に真面目がよォ……」
「別に不良じゃないっての。めんどくせーことはやらないだけなんだよ」
「それを不良だって言ってんだっての。 っと、そろそろ先生来る時間だし席に戻っとけよ」
「あ~……課題だけ出したら帰ってもいいんだよな~」
「ほら不良」
「うるせー」
仕方ねえかぁなんてぼやきながらもカズが席に戻る。それとほぼ同時に先生が扉を開け立っている生徒に対して席に着くことを促し始める。先ほどまでは同じクラスになれたことを喜んでいた女子生徒や、一年生の頃には同じクラスではなかったが今年同じクラスになったことを喜んでいた野球部と思わしき生徒たちがざわついていたが先生の登場により静かになる。
野球部の連中が複数人同じクラスになるのは面倒な気がするが、まあ基本的にこっちに絡んでくるような人間はいないだろう。クラスではひっそりと過ごしていたいんだ。そこからはきっとどのクラスでもあるだろう担任の先生の自己紹介とあいさつが始まる。この後は全校集会があるらしいし、きっとそれはカズは行かないんだろうななんて思いながらあいつの席の方を見るともう既に寝ている。
寝たいのは俺の方なんだが。
そういえばと思い出し、部長に連絡を取る。どのクラスもHRだろうが多分あの人のことだろうからそこまで気にしない。
『部長、今週の部活の当番の話なんですけど』
『変わるって俺が選んでくればいいんですか?』
最低限聞きたいことだけを聞く。別に雑談がしたいわけでもないし、そもそも連絡を取るために入れているのに雑談をする必要もないと思っているのだが、時折春井先輩からは連絡が来る。大抵部活関連なのだが、本当にごく稀に変なぬいぐるみのリンクを送られてくることがある。そこから少し話すことがあったりするがほとんどは0時を超えると連絡が帰ってくるので非常に健康的な生活を送っているのだろうなと思っている次第だ。
本当に頭が上がりません。夜更かしを控えることは出来ないけれど、尊敬だけさせてください。
物思いにふけっていると部長からの連絡が帰ってくる。今どこもHR中のはずだけど、この人も携帯見れるのね。
『おや、HR中にスマホいじりとは感心しないな』
『まるっきりブーメラン刺さってますよ』
『ブーメランは刺すものじゃないよ』
『間違ってないけど間違ってるんだよな……』
『ふふ、冗談さ。部活の当番の話だったかい?』
『そうですね。朝、春井先輩に教えてもらいました』
『ああ、歌奈か……朝、校門桜に呼び出されているなんて話を聞いていたが、そこで会ったのかい?』
『まあ、そうですね。いつも通りでしたよ』
『彼女は魅力的だからね?』
『そうですね。 ……で、結局当番変わってほしいって事は生徒会絡みですか?』
『そう、できれば君にお願いしたいんだが、いいだろうか?』
『分かりました。いつものとこで探しておきます』
『ああ、ありがとう。よろしくお願いするよ』
気が付けばそろそろ始業式のために移動してもらうと先生が言っていた。別に何か変わったことの無い始業式だ。いつも通り校長先生のありがた~いお話を聞いて、無事にここにいることを喜ばしいなんて伝えられて、そんな話を聞き流しながら体育館から見える空を見る。
「本当に、1年前と何も変わらねえなぁ……」
ため息と一緒に言葉を吐き出す。変わりたいとは思っているがそんな勇気も努力もしていない。自分は自分のままで外側からもたらされるような刺激的な出来事を心待ちにしているだけなのだ。
「あ~……どれにしようかな」
無事に始業式も終わり、出されていた課題の80%分を提出し朝通った道とは違う道で帰路につく。その途中にある普段、部活で使うDVDを選ぶビデオショップに寄った。俺が所属している映画研究部は週一回、映画を見て見にレポートを提出するだけの部活で、実質帰宅部のようなものだ。
高校には帰宅部が存在していると思っていたが、どうやらそういった部活があるのはある程度学力があるような学校で、自分たちが通うような大学に進学する人もいれば就職する人もいるような高校ではあまりそういったことはないらしい。この事実を知った時には愕然としたが、よく考えれば当然か。なんて思いもした。
そんなわけで、今週末に行う部活で鑑賞するDVDを選びに来ているという事だ。特に見たいものがあるわけでもない。だいたいの人はその時の話題作だったり、店員のおすすめだったりを持ってくるがたまに自分の趣味前回のものを持ってくる人もいる。内容がホラーだったりすると最悪だ。俺が怖いのダメなだけなんですけどね。
「んぁ~、ん~? どうすっかな~?」
あれでもないこれでもないと棚を眺めながら店内をぐるぐるぐるぐる。普通の店ならばそんなことをしていれば通報待ったなしかもしれないが、ここの店主はあまりそういったことを気にしない。おじいさんが店主だからというのもあるが映画研究部の顧問とは昔馴染みらしく、顧問の方から口添えをしてもらっているのだ。
とはいえこのまま何時間もここにいるっていうのも迷惑ではあるだろうし、なるべくササっと選びたいが……あ、これ前に小説で読んだやつだ。なんとなく手に取った恋愛映画。それが過去に読んでいた小説の映像化作品だった。パッケージ裏面を読み、なんとなくのストーリーを思い出す。あ~これでいいか。いいだろ。どうせ真面目に部活に来る人間なんて少数だし。適当な理由を浮かべ、そのパッケージを持ってレジに向かうのだった。




