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騒がしい夜(4)

番外編完結。


しばらくしたらまた、続編を上げます❗️

「エガオちゃん?」

 マダムが私の顔を心配そうに覗き込んでいる。

「ぼおっとしてどうしたの?」

「えっ?」

 私は、目を大きく瞬きして周りを見る。

 マナも、4人組も、スーちゃんも心配そうにこちらを見ている。

 カゲロウも無精髭に覆われた顎に皺を寄せている。

 私は、顔を上げる。

 月と星が煌びやかに光る澄んだ夜空が目に入る。

 そこには流星鳥(シルバード)の群れはいなかった。

「もう行っちゃったよ」

 ディナが三白眼を細めて言う。

「そんなに見惚れちゃったわけ?」

「い・・・いや・・・」

 私は、何が起きたか分からず言葉を困らせる。

「今、私たちのところに流星鳥(シルバード)が向かってきましたよね?」

 私が恐る恐る言うとその場にいた全員がきょとんっとした顔をし、そして大きな声で笑う。

「エガオちゃん、目を開けたまま寝てたにゃ?」

 チャコがモフモフの手でお腹を抱えて笑う。

「そんなネタ、漫画でも使わないよ」

 1番最初に見つけたはずのサヤも可笑しそうに笑う。

 私は、呆然とみんなを見る。

 みんな面白そうに、楽しそうに笑う。

 ただ、カゲロウだけが笑わず、顎に皺を寄せて私を見ていた。

「きっと初めての光景に感動して夢でも見ちゃったのね」

 マダムは、そっと唇を私の肩に当てる。

「エガオちゃんが楽しめたみたいで良かったわ」

 夢・・・あれは夢だったのだろうか?

 あまりにもリアルな感覚だったけど・・・。

「さあ、いい物見れたし・・・」

 マダムがカゲロウを見る。

「そろそろケーキを食べましょう」

 マダムが言うと4人組とマナが歓声を上げる。

 カゲロウは、なにも言わずに頷くと包丁を持ってケーキを切り分けようする。

 私は、何もない綺麗な夜空をじっと眺めた。


「サンタにゃ会えたか?」

 カゲロウの言葉に私は、テーブルを拭く手を止める。

 カゲロウは、みんなの食べた後の食器を丁寧に重ねている。

 ケーキを食べ終えると流石にもつ雪だるまのストーブでは寒くなってきたのでマダムの屋敷に入って二次会というものを始め出した。私も誘われたが執事のみなさんと一緒に片付けを始めているカゲロウを1人になんて出来ないので片付けを終えてから行きますと伝えて残った。

 マダムの屋敷で用意した食器は執事達が屋敷の中に持っていき、私達は自分達の用意したものを片付ける。

「なんで・・・」

 何でその事を?

 カゲロウは、そんな私の心の言葉が聞こえたように口の端を釣り上げる。

「いや、なんか夢見たみたいな顔してたからな。会えたのかと」

 私は、自分の顔を触る。

 私・・・どんな顔をしてたんだろう?

「でっ会えたのか?サンタに?」

 カゲロウが鳥の巣に隠れた髪の奥の目で私を見る。

 カゲロウに嘘を吐くことなんて出来ない。

「はいっ」

 私は、小さく頷く。

「それと・・・」

「それと?」

「子どもの頃の私に会いました」

 カゲロウは、小さく唇を紡ぐ。

「泣いてました・・・」

「・・・そうか」

「泣かなくていいよ。その涙は笑顔に変わるからと言いました」

「・・・そうか」

 カゲロウは、優しく微笑んだ。

「アレは・・・何だったんでしょう?」

 夢と呼ぶにはあまりにもはっきりし過ぎていた。

 あの部屋の寒さも匂いも幼い私の声も、そしてサンタクロースの気配もしっかり覚えている。

「うーんっ分からんけど・・・」

 カゲロウは、顎を摩りながら空を見上げる。

「ひょっとしたら本当に流星鳥(シルバード)の影響かもな?」

流星鳥(シルバード)の?」

 本当にサンタクロースの正体が流星鳥(シルバード)とでも?

「幻獣の類って未知の部分が多いんだよ。スーやんみたいに」

 今まで気持ちよさそうに寝ていたスーちゃんが急に振られて顔を上げ、赤い目で睨む。

「俺らが知らないだけでそう言ったこともあるのかも知れないな・・」

 私は、空を見上げる。

 確かにあの時、私に向かって飛んできた流星鳥(シルバード)とサンタクロースの目は似ていたような気がする。

 んっでも私が小さい頃に見たのはサンタクロースだけで大きくなった私はいなかったし、小さい私を撫でて声を掛けたのは今の私で・・・。

 あれっ?えっ?なんか訳が分からなくなってきた。

「まあ、でもいいんじゃねえか」

「えっ?」

 私は、混乱したまま思わず声を上ずる。

「謎は謎のままの方がロマンがあっていいだろう?」

 そう言ってカゲロウはにっと笑う。

 謎は謎のまま。

 それじゃあ何の答えにも解決にもなってない気がする。

 なってない気がするが・・・。

「はいっ」

 私は、小さく頷いた。

 きっとこれでいいのだ。

 大切なのは・・・今の私は確かに幸せと感じれていることなのだから。

 カゲロウは、重ねたお皿をキッチン馬車のカウンターに置いて夜空を見上げる。

「騒がしい聖夜だったな」

 カゲロウは、思い切り身体を伸ばす。

「聖夜?」

 聞き慣れない言葉に私は眉を顰める。

「クリスマスの夜のことを聖夜って言うんだよ」

 聖夜・・・。

 なんて綺麗な響きなんだろう。

「来年は・・もっと静かな聖夜にしような」

 カゲロウの言葉に私は驚いて大きく目を開く。

 カゲロウが顎に皺を寄せる。

「また、パーティーがいいのか?」

 私は、首を横に振る。

「来年も・・・一緒にいてくれるんですか?」

 私の言葉にカゲロウがきょとんっとした顔をする。

「当たり前だろ。来年も再来年も一緒にいるよ」

 そう言ってからカゲロウは困ったように頬を掻く。

「ひょっとして嫌なのか?」

 私は、答えるよりも早くカゲロウに駆け寄ってその胸の中に飛び込んだ。

 カゲロウは、びっくりして口を丸く開ける。

 どうしよう。

 幸せすぎて心臓が激しく鳴り過ぎてる。

「嬉しい・・・です」

 私は、カゲロウを見て口元を綻ばせて笑う。

 心から笑う。

 カゲロウの驚いた顔が優しく微笑む。

 そしてきゅっと私の身体を抱きしめる。

「本当、エガオが笑う時は幸せな気持ちになるな」

 私も・・・。

「カゲロウと一緒にいられて幸せです」

 本当に・・・本当に幸せ。

 私は、顔を上げる。

 カゲロウの顔がそっと近づいてくる。

 唇にちくっとした痛みと共に柔らかく、そしてほんのりとお酒の匂いが広がる。

 目を閉じた私の目の奥に幼い私の姿が浮かぶ。

 私は、幼い私に微笑んで言う。

 私・・・ちゃんと笑えてるよ。

 幼い私がそれを聞いて驚いた顔をして・・小さく微笑んだ。

 どこか遠くから鈴の音が聞こえた。

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