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とある男の視点(3)

夢から覚めたカゲロウは・・・

 白い世界が視界に飛び込んでくる。

 それが電灯に映えた白い天井だと気付くのに数拍の間を要した。

 俺の育った国では電灯とは違うもので灯りを取っていたからこの作り物の光には今だ慣れない。

「ようやく目が覚めたか」

 右から声が聞こえる。

 少し低いめのハスキーな声だ。

 俺は、首を声の方に向ける。

 天井が視界の左側に映り、磨かれた床が視界の右側に映ったのを見て自分がベッドに横たわっていることにようやく気づく。

「まるまる2週間寝ていたぞ」

 赤い鬣のような髪の麗人が同色の双眸で俺を見る。

 彫りの深い顔立ち、褐色の肌、白衣越しにも筋肉質であることが分かる身体つき、丸い椅子の上で組んだ足も長く、身長も立てば俺よりも高いだろう。

 異性でも同性でもこの姿を見たら誰もが熱に浮かれたように蕩けてしまうだろう。

 俺以外は・・。

 俺は、ベッドから上半身を起こす。

 病衣の重ね部分からガッチリと縛られた包帯が見える。

 しかし、痛みはない。

「お前が治癒してくれたのか」

 俺の質問に麗人は膝の上に乗せた手の人差し指をくいっと立てる。

「お陰で医師と勘違いされて手伝わされた」

 その似合わない白衣はそう言うことか、と俺は苦笑すると麗人はむすっと口を歪める。

「お披露目会は?」

「もう始まってる」

 麗人は、顎で俺の後ろにある大きな窓を指す。

 俺は、ベッドから立ち上がると少しふらつきながら窓に近寄る。

 やれやれ、少し寝てただけで随分と筋力と体力が落ちている。

 恐らく3階か4階の高さの窓の下は喧騒に包まれていた。

 路地を埋め尽くす食品や雑貨の露店、笑いながら歩く老若男女、多種多様な種族の人々。

 建物と建物間には紐で吊るされた旗がぶら下げられ、1組の見目麗しい男女が描かれていた。

 俺は、男女のうちの黒髪の女性の絵をじっと見て顎に皺を寄せる。

「もうすぐ大通りから王宮に向かってのパレードが始まる」

 麗人がいつの間にか俺の横に立っていた。

「奴らが事を起こすとしたらそこだろう」

「そうか・・」

 俺は、もう無精髭とは呼べなくなくなるまで伸びた髭を摩る。

「急がないとな」

 俺は、窓から離れ、病衣を脱ぎ捨てる。

 そして鳥の巣のように膨れ上がった髪の下に隠れた目に触れようとした時だ。

「ちょっと待て」

 麗人の言葉に俺は手を止める。

「その前に伝えないといけないことがある」

 麗人は、赤い双眸を細め、ある事を俺に告げる。

 それは俺を驚かせるには十分な内容だ。

「それは本当か」

「ああっ私も手伝わさせれたからな」

 麗人は、ふんっと鼻息を立てる。

 昔からの癖だがその姿の時はあまりやらないほうがいいぞと忠告する。

「あいつは本当に」

 大人しくて可憐な見た目に反して思い立ったら止まらない。

 そんなところも妹にそっくりだ、と苦笑する。

「それで」

 麗人は、腕を組む。

「お前はどっちに行くんだ?」

 赤い双眸が俺を見据える。

 俺は、包帯越しに胸を触る。

 見えないがこの下にはあいつに斬られた傷がある。

 これは判断を見誤まってあいつに不安と後悔を与えてしまった俺の懺悔の傷だ。

 きっと今も不安の中にいるあいつの姿が浮かぶ。

 しかし・・・。

 俺は、麗人を見る。

「あいつのこと・・頼んでもいいか?」

 麗人は、赤い双眸を鋭く細める。

「事が終わったら必ず行く。だから頼む」

 俺は、小さく頭を下げる。

「・・・不器用な奴」

 麗人は、小さく呟く。

 そして窓に近寄り、全開に開いた。

 冷たい風が素肌を裂く。

「あの子によろしくな」

 麗人は、そう言い残して窓の外に飛び出した。

 俺は、窓に向かい外を覗く。

 綺麗に石畳の敷かれた地面に麗人の姿はなかった。

 その変わりにいたのは巨大な六本脚の赤い鬣を優雅に靡かせた軍馬、スレイプニルであった。

 軍馬は、逞しい首を上げて赤い双眸で俺を見る。

 そして六本の脚で石畳を蹴り上げ、疾風と化して走り去っていく。

「頼むぜスーやん」

 俺は、走り去っていく相棒を見送る。

 それにしても馬の時は雌で人の姿の時は雄って不思議な生態だよな。

 俺は、そんな事を呟きながら髪に隠れた目に触れる。

「まってろよ・・」

 それはどちらに対して言ったのか、俺にも分からなかった。

カゲロウはどこに向かう?

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