食卓
「温かい」
皿に乗った、スクランブルエッグとキャベツとトマト。あと、どうやら保冷庫から漁ったらしい具材を使ったスープ。ローザモンドにとって、こんなに温かい朝ごはん、いや、食事は久しぶりだった。
「普段は料理とかしないの?」
「・・・一昨日はトマトを食べた。昨日はきゅうり」
「それ、料理じゃないから。ていうか、それだけ?他に食べてないの?」
「お腹空かないから。あ、昨日は寝る前にキャベツも食べた」
「だめだよ。ちゃんと食べないと」
「あんた、大人しそうに見えて意外と口うるさいのね」
食事中も、ローザモンドはフードを取らない。クールベアトも、何か事情があると感じたのか、踏み込んでこない。
ふーふー、とスープを冷ます口元は、微かに口角が上がって見える。それを盗み見たクールベアトは、満足そうにトマトを食べる。
「にしても、ここ凄いね。畑あったし、鶏もいたし。全部ローザモンドが育ててるの?」
「一応、私が食べる分だけね。だからそこまで広くなかったでしょう。足りない分は買えるし」
「買うって、森の外で?」
「ううん。定期的に商人さんが来てくれるの」
「商人?」
「そう。私が買うのは勿論、作った薬を売ったりとか」
食事で気分を良くしたのだろうか、明らかに口調がやわらかくなり、おしゃべりになった。
「ご飯、気に入ってくれて良かった」
「別に、普段まともな食事じゃないから美味しく感じてるだけじゃないの?」
明らかな照れ隠しである。
「僕は食べ終わったら帰るよ。2晩も面倒を見てくれてありがとう」
「だから、お礼は鹿に言いなさいって」
「そういえば、その鹿はどこに行ったんだろう。昨日蝋燭に火がついたときにはいたけど、その後見てない気がする」
「あの後部屋から出て森に帰ってった」
「そっか。帰りに会えるかな」
「どうだろう。動物って、気まぐれだから」
身支度を整えたクールベアトは、ローザモンドに手を振りながら帰っていった。クールベアトが見えなくなるまで外に出ていたローザモンドはゆっくりフードを取って家の中に入っていく。茶色のウェーブは、太陽の光を反射することなく、消えていった。