日記0
ワーステルより 昇る太陽は 我らを照らし 幸与え
ルイミデアスの 眠る海 我らを支え 国護らん
ナリルの空に 浮かぶ雲 我らを救う 知恵授け
コルテア奥の 深い森 我らは恐れ 闇祓わん
-フリティア王国国歌より-
この国の国家には、周知の通り、国家の繁栄とそれぞれの場所に住む”魔女”の存在を重ねている。
1つ目のワーステルは、勿論ワーステル城のあるこの地のことであるが、城の敷地の東端にある離れの塔に住む祈りの魔女を指している。毎朝、国の東に位置するこの地から太陽が登ることと、王家の権威、そして塔の魔女をかけて歌詞になったと聞いた。
2つ目のルイミデアスは、この国の西側に面しているミデアス海の古い呼び方、”神の治める海”のことである。この海は我が国の貿易の要である一方、貿易航路を外れれば変化しやすい海上の風と複雑な海流でフリティアを数々の海上戦で勝利に導いてきた。また、ミデアス海に浮かぶイリア島に住む魔女は代々、一族の特色である千里眼を用い、王家と政治を支えてきた。
3つ目のナリルは北の商業地域だが、山の麓ということもあってか自然災害が昔から多く、人々を悩ませてきた。そこで強力な浮遊魔法を心得る魔女が雲の様子から天候の予想などをし、災害が起こす影響を最小限に抑えるようになったと言われている。実際、当代の魔女まで天候予想を定期的に行っているとのこと。徐々に栄えてきたナリルは今日、世界有数の発展都市であることと普段空に浮いた家に住む魔女になぞらえて”天空に最も近い地上”と呼ばれている。
4つ目のコルテアは南に位置する小さな町である。コルテアの奥にある森の更に奥に魔女が住んでおり、様々な形で人と関わっている他の魔女と異なり、この地の魔女は人前にあまり出ないと言われている。森の様子と相まってあまりに不気味だと人々に恐れられ、次第に「フリティア繁栄の光の影は全てこの森に集められているのだ」と人々は口々に言うようになった。
けれども、私は知っている。
森の豊かさは、きっとどの森より優れている。
住んでいる動物もとても親切だ。
流れる川が太陽を反射してキラキラ光る様子は、この世にあるどの宝石よりも綺麗だった。
そして、私が出会ったこの森の主は、思わず眩しいと思うほど美しい女性であった。容姿だけでなく、心の清らかさや純粋さ、意外と芯があって頑固なところは、私の胸を焦がした。
けれども、これは予感ではあるがもう彼女とも会えないであろう。
どうか、彼女が私がいなくなっても幸せであることを望む。
もし、これを読んだ者がいたなら、どうか、私の代わりに彼女の幸せを祈り続けて貰えないだろうか。
間違っても、彼女の平穏を壊さないでほしい。
彼女を、この醜い争いに巻き込まないでほしい。
これは、願いと言うよりむしろ−−