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『思いがけない客』(ミハイル・ザゴスキン)の場合

大統領が執務室で仕事をしていると、

机の上の電話が鳴った。

受話器を取ると、

秘書からの内線だった。


「大統領。面会のお時間です。

予定の客様が、既にお見えです」


(あれ?この時間、

誰かからの訪問の予定など

入っていたかな?)


とっさには思い出せなかったが、

秘書が言うのであれば、

きっと自分が忘れているだけで、

来客予定があったのだろう、と、


「そうか。では

執務室にお通ししなさい」


と内線に応えた。


やがて執務室のドアが開き。


入ってきたのは、

伝統的なコサックの

格好をした男四人!


コサックの訪問?

あまりに思いがけない、

風変わりな来客に、

大統領は仰天した。


四人のコサックは

礼儀正しく帽子を脱ぎ、


「大統領閣下。

お元気そうで、

何よりでございます」


と、リーダー格らしい

中年の、赤ら顔の男が言った。


「ああ、うん・・・」


どうしてもこの男たちが

誰だかは思い出せない。


だが奇妙なことに、

どこかで、昔から、

馴染みな相手のような

気もするのだ。


これまでにも何度も

会っているような・・・?


「お仕事のほうは順調ですかな?」


「順調かだと?もちろんだ!」

大統領は、そう答えつつも、

なぜだろう、この四人のコサックの前では、

どこか、本当のことを

喋りたい誘惑に駆られた。

「もっとも、例の特別軍事作戦が

どうも進捗が悪くてね。

悩ましいところだ」


「しかし、あなたの命令のおかげで、

たくさんの人間が、死んでおります。

けっこうなことです!実にけっこう!

私たちの主人からも、

大統領の働きに心から尊敬の念をと、

コトヅテを授かっています」


「それは、ありがとう」

大統領はいちおう、そう言ってから。

「だが・・・失礼ながら、

君たちは、ええと、

誰だったかな?

それに、君たちの主人とは?」


「私たちの主人?おやおや、

大統領もよくご存知の、

あの方ですよ!お忘れですか?

ほら、かつては奴隷の身ながら、

かつての王に逆らい、

深いところに落とされた方。

しかし、地の深いところに落ちても、

悲しむこともなく、そこで、

ご自身の王国をつくられた、あの方を」


それでも大統領はまだ、

なんのことかわからなかった。


コサックの隊長は、

話を続けた。


「暗闇が大好きな方。

ソドムやゴモラ、そして

混乱している街なら大好きな方。

私たちの主人は、とてもよい主人ですよ。

お仕えするのもラクなもんだ。

食事の前に十字を切れとも言わない。

ベッドに入る前に祈れとも言わない。

飲んで、楽しくやって、

大文字で書かれた『あの本』など、

読むこともなくてよい。

どうです?あの方に仕えるのは

まったく気楽そうでしょう?

どうです?大統領。

今夜は私たちと一緒に出かけて、

飲んで、朝まで、踊りませんか?」


「踊る?君たちと?

あいにく、私にはそんな暇は・・・」

大統領が断ろうとすると、

四人のコサックは大笑いした。


「踊らないつもりですか?

そうはいきませんよ、大統領閣下!

気取るのもいい加減にしなさいな。

ロシアをかつて支配した、

あなたよりももっとオオモノも、

最後は私たちと一緒に踊ったのです。

どうです?

あなただって、とっくにもう、

私たちの仲間でしょう?」


「どうして私が

君たちの仲間なんだ?」


「あんたは、もう、

私たちのご主人のために、

たくさん働いて

くれているじゃないですか」


「だから、君たちの主人とは、

いったい、ナニモノなんだね?」


「おやおや、大統領閣下!

いまさら私たちを

厄介払いすることなんて、

できませんよ。

あんたはすっかり、

私どもの主人のお気に入りなんだ。

さあ、一緒に、

踊りに出かけましょうや」


「おお、、、主よ、、、」

突然、大統領は、

目の前の四人のコサックが、

ナニモノなのかを理解した。


四人の男たちの姿は

みるみる変化を始め、


ヤギの下半身や、

ヤリのような尻尾、

そして黒い翼が現れ、


彼らの背丈は、執務室の

天井に届くほど、大きくなった。

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