2話
悪魔の姿は物語で聞くような醜悪な姿ではなかった。
今までに見た事がないほど
いや、本来常人の人生では見ることは絶対に叶わないほどに
その姿は神秘的で美しいものだった。
誰だ悪魔が醜く、暗く、恐ろしいものだ
と言った奴は!この悪魔のどこを見てそんな言葉が出てくるんだ!
そう叫びたくなるほど"悪魔"はこの世界のどれにも形容しがたいものだったのだ。
その悪魔は白い靄で西洋の騎士のような姿を形作り、鹿のような角と、鷹のそれのような形状でクローバーくらいの大きさの葉がぎっしり並んでいる羽を生やしていた。
俺は驚いてしばらく言葉を失った。
俺に迎えが来たのだと思った。
父は俺が生まれる前に死んだ。
父が始めた事業が成功し、その事業を拡大している時に根をつめた結果過労で亡くなったそうだ。
父が残した財産は莫大でお金に困ることはなかったのは幸いだった。
母は俺が中学に入ると同時に死んだ。
交通事故だった。
唯一生きていた親戚である祖父が裁判で賠償金を相当ふんだくったおかげで、俺は今後一生お金に困ることはないであろう量の財産を手に入れた。
そしてその祖父も半年前に死んだ。
もう俺には親戚はいなかった。
だから俺も迎えが来てくれたのだと信じた。
だがその"悪魔"は予想内であり希望外であることを
話しかけてきた。
「あなたの希望を叶えます。」
やはり違った。
"悪魔"は続けた。
「対価はあなたの希望によって変わります。
そして対価はあなたの希望が達成された時に
請求されます。」
"悪魔"は事務的にそう言った。
違ったが、それもいいと思った。
俺はしばらく考えた。
こんなチャンスはもう二度とない。
俺が有利で俺が求めているものに確実に応えることができ、さらにそれが長く続けることができる願いを。
そして脳をフル回転させて
希望を絞り出した。
「地球にはない美しい世界に充実が欲しい!異世界に転生したい!」
感情的にはなったが、それでも俺の頭は冷静だった。
俺がしたAIの話を覚えているだろうか。
俺は、AIがイレギュラーな存在を利用して我々に接触してこない限りはAIに、AIの世界に干渉することはないだろうと言った。
では何故接触をして来たら干渉するのか。
それは
"観察対象が発達することを望んでいるから"
観察対象が観察者の存在に気づくことは難しい上に、接触するのはそれよりも遥かに難しい。
だからもし観察対象が接触をしてきたら、それは観察対象が発達したことを示す。
それは今現在地球を観察しているかもしれない神も同じことだろう。
そしてこの"悪魔"は事務的な話し方から考えて我々で言うプログラムと同じような存在なのであろう。
であれば、この"悪魔"を介して神とやらに接触し、最大限の特典と恩恵を貰ってから異世界に転生をしようと考えた。
我ながら酷く打算的だ。
それでも「充実」が得られるのであればそれでいい。
悪魔は言った。
「了解しました。
その希望を叶えるには少々手続きが必要です。
今からあなたにはある存在に会って頂きます。
準備は構いませんか?」
俺に残すものは無い。
だから迷わず答えた。
「問題ないです。」
その瞬間、俺は白く青い空間にいた。
少し混乱していたがそれもすぐに収まった。
「やあやあ!よく来てくれたよ!
ここに来たのは地球に生命が作られて以来君が初めてだよ!おめでとう!」
姿の見えない陽気な声が聞こえてきた。
「何億年も前から"あれ"を送ってたんだけど、僕に会えるような願いを口にするものは今までにはいなかったみたいなんだよ!」
「"あれ"というのは"悪魔"のことですか?」
「そうそう!君たちの世界ではそう呼ぶんだったね!あ、そうだ!自己紹介を忘れていたよ。
私は君たちの世界で言う"神"だよ。
今は君たちの知能レベルに合わせて話してるんだけど違和感ないかな?」
「はい。問題ありません。」
「そっかそっか!それは良かったよ〜。
それで、君の願いはなんだっけ?」
「充実した人生が送れる美しい異世界に転生したい
です。」
「うん!いいよいいよ!
僕まで辿り着いたんだからそれくらいのご褒美はあげなくちゃね!ちなみにどんな世界だったら充実するかな?」
「それでは...
所謂剣と魔法のファンタジー世界がいいですね。」
「わかったよ!
じゃあおまけで色んな能力つけちゃうよ!
何か希望はあるかな?」
俺は悩んだ。
どんな能力がいいのか。
どんな能力なら効率的に充実できるだろうか。
いや、効率的に考えるのはやめよう。
素直に、自分の心の中の声を聞いて...
「今の自分よりも高いレベルで万能にしてください。勉学も剣と魔法も記憶力も思考力も。
それと亡くなった母は花が好きでした。僕が使う魔法に花を混ぜられたら嬉しいです。」
すると神は少し悩んだ
「んー。花かー。
そうだ!花魔法という魔法を作って君に固有能力として付与しよう!
君が転生する先は文明水準が低いから、綺麗好きな君が困らないように花魔法に生活魔法という体で色々役に立つ魔法を組み込もう!
あとは色々能力入れとくね〜」
俺は驚いた。これは目立ちすぎる。
「固有能力というものは目立たないでしょうか?
あまり目立ちたくは無いのですが...」
「大丈夫だよ!
能力の強さに幅はあれど固有能力自体は一定数が持ってるから、そこまで珍しいものでもないからね!
それと目立ちたくないならあまり身分が高すぎるのもあれだから、お金持ちの子爵家の次男くらいにしておこうか?」
「配慮して頂きありがとうございます。
それでよろしくお願いします。」
「はいはーい!
じゃあもう転生させるね!
ちなみに"悪魔"は君が希望を叶えたと判断したらその時点で対価を取り立てるようプログラムしてるからね!僕は干渉しないけど、観察しやすいように能力としてサポートするように新たにプログラムするから、そこら辺はよろしくね!」
俺は正直嫌だったが、サポートしてくれるならまあ悪くは無いだろう。
そんなこんなで俺は待ちに待った異世界に転生することになった。