つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
クラスの美少女が傘を忘れたので入れてくれないかイケメンに頼んでたけど、残念ながらイケメンも傘を忘れていた。でも安心してほしい。準備のいい僕が傘を二本持っているので、二人で仲良く一本を使いなさい。
突然の雨だった。
しかも下校時刻とバッチリ、もうそれは皆既日食のごとく重なっているので、みんなめっちゃ怒っていた。
だけど中にはドキドキしている人もいるだろう。
そう、古代から伝わるラブコメイベントの相合い傘の発生率が高まるからだ。
傘ってすごいよな。アナログなラブレターとか、遠距離恋愛の手紙とかって、今あんまりないかもしれないけど。
でも傘ってさ、ずっと大して進歩してないじゃん。
いや水を弾く材質が進化してたりはすると思うけどね、ほら、本質的にはでかい葉っぱを使う時代と変わらないわけでしょ。
それがいいんだなあ。
と僕はにやにや考えていた。
ちなみに僕は、常に折り畳み傘を二本持っている。
慎重な人なのだ僕は。
腕時計だって止まってもいいように常に二つ持ってるし、財布も落としてもいいようにお金を二つの財布に分けている。
というわけで、僕は優雅に下校できるわけだ。
下駄箱のところに行くと、クラスの美少女が出入り口のところに立っていた。
傘を持ってないみたいだ。
しかしまだ僕は傘を貸さない。
それはクラスの美少女に声をかけることができないコミュ障だからなのもあるしそれが主だけど、空気が読めるってのもある。
なぜならすぐ近くには、これまたクラスではイケメン扱いされてる人がいる。
そう、多分僕が何もしなければ……。
「ねえ、傘ないから、入れてくれたりする?」
ほらほら。こういうことが起こるわけですよ。
「ごめんな、俺も傘忘れたんだわ」
あ……そうなんかい。
なら僕の出番だ。
僕は二人のところにささっと行って、折りたたみ傘を差し出した。
「僕二本持ってるから、よかったらこれ二人で使ってよ」
はい、これが自己ベスト。
完璧すぎて天変地異が起きてまじで皆既日食が突然起きそうなくらいだぞ。
「お、いいのか……? ありがとな。明日か明後日くらいに乾いたら返すわ」
イケメンがそう言って僕の傘を受け取り、そしてクラスの美少女と二人でそれを使って帰って行った。
おおー。僕いいことしたのでは?
さて、僕も残りの一本を使って帰りますかね。
ちなみに僕は二本のうち、新しい方をイケメンと美少女に貸した。
ボロい傘だとムードが壊れちゃうかもしれないしね。
というわけで僕が今から使う傘は、結構古いやつだけど、まあまだまだ使えるはず……びりっ。
は?
広げたら真上にでかい穴が空いたんだけど。
なんでか、いきなり破れた。
出来上がった金環日食のような形の傘を眺めて呆然としていたら、
「お、先輩がめずらしく困ってますね」
と声をかけられた。
文芸部でいっしょの、後輩の千由だった。
「いや、傘が壊れちゃってね」
「でもあれですよね、先輩は二本持ってるから大丈夫ってオチですね」
「いや一本は貸しちゃったんだよ」
「あ、そうなんですか?」
「うん。やっぱり念には念を入れて三本用意しとけばよかったのかもな」
「そんなわけないじゃないですか」
千由はそう言うと自分の折り畳み傘を取り出した。
「はい先輩。これで一緒に帰りましょう」
「あ、ありがと」
「先輩はなんでも慎重ですからね、なかなか私が助けるのは珍しいですね。でも、あれですよ先輩。ちょっとくらい慎重じゃない方がかわいげがあります」
「かわいげって……それ僕に必要なのかな?」
僕と千由は一緒に傘に入って歩き始めた。割と狭いぞ。いつもは小柄な千由だけ濡れなければ、十分なんだろう。
僕と千由は少しくっついて、そしてその瞬間に、傘から垂れる水滴を見つめて、千由は言った。
「必要というか……私は、そういう先輩の方が、好きなので」
「そっか。なら、明日から全部一個だけしか持ってこないことにしようかな」
「はい。なんか困ったらいつでも言ってくださいね」
そう言って笑う千由がどんなに慎重でも二つ用意できないくらい可愛いかったから、なんだか僕は、困った感情を抱いてしまうのだった。
お読みいただきありがとうございます。
相合傘うほーーーーーい! 壊れてしまいましたごめんなさい。
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