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最後の夜

 ヴィクトリアは手錠をかけられた両手をじっと見つめた。

 あの火事で負った手のひらのやけどは、気が付いたら完治していた。レティスが回復魔法をかけてくれたのかもしれないし、そもそもそんなにひどくはなかったのかもしれない。

 手錠は特殊なもので、魔法を封じる効果がある。王妃教育が功を奏したのか、ヴィクトリアの魔法力は国の最高レベルにまで到達していた。

 この手錠がなければ、この部屋からは簡単に抜け出せる。自分がここから消えれば、レティスもこれ以上罪を重ねずに済むのに。ヴィクトリアは、両手で顔を覆った。


 その時、廊下から靴音が響いてきた。ヴィクトリアはとっさに体を震わせた。また、朝まで苛まれるのだろうか。ヴィクトリアにとって、自我を失うにはまだ時間が足りなかった。


 かちゃりと、扉が開く。


「レティス……」


 もうあきらめたのか、レティスはヴィクトリアが名を呼んでも声を荒げることはなくなった。レティスは無言で近づき、靴のままベッドの上にのし上がる。


「レティス、お願い。もうやめて」

「お前に指図する権利はない」


 レティスは噛みつくようにヴィクトリアに口づけた。


「んん…! いや!」


 ヴィクトリアは顔をそむけるが、顎をつかまれてまた唇を奪われる。ぬるりとした厚い舌が、唇の隙間から侵入し、我が物顔に暴れまわって口内を蹂躙する。両手を頭上で拘束され、薄い夜着は簡単にはぎとられて、手首のあたりで溜まっていった。


 こんな無為な行為を何度繰り返せば、解放されるのだろう。ヴィクトリアは、レティスに無言で揺さぶられ続けられる間ずっと、涙を止めることができなかった。


 明け方、レティスが服を着ながら告げた。


「安心しろ。明日からしばらくはここへは来ない」

「え?」


 ヴィクトリアは体を起こすことができず、顔だけをレティスの方に向ける。レティスはヴィクトリアを一瞥し、すぐに視線を外した。


「やらなければならないことがある。俺は、この国の支配者になって、この国に復讐をすると決めた」

「しはい、しゃ?」

「ああ。その準備が整った。だが、お前は開放しない。ここで、死ぬまで俺に飼われるんだ」

「レティ、ス。お願い。昔のあなたに、もどって。まだ、やりな、おせる」


 ヴィクトリアは、散々啼かされたあとのひりつくのどの痛みを抑え、必死にレティスに語り掛けた。


「昔の俺とはどんな俺だ? お前らは俺の愛する人を奪ったのに、俺が手を下すまでお前らには何のお咎めもなかった。ひいては国が、お前らを正当化してかばったということだろう? だから俺がこの国の支配者になって、お前らが俺から奪ったものの大きさを思い知らせてやる」

「あれは、事故だったのよ。だれも、わるくない。私たちは、あなたの本当の家族を見殺しにしたわけじゃない」

「もう何を言っても遅い。ではな」


 レティスは静かに出ていった。ヴィクトリアは必死に体を動かし、ベッドから滑り落ちた。


「うう。レティ、ス、待って」


 ヴィクトリアの声は、レティスには届かない。


 レティスの本当の家族の最期。それを、ヴィクトリアはレティスにはっきりと伝えることはできないでいた。

 彼らを失った当時のレティスの悲しみ様は、見ていて痛々しいほどで、とても話せる雰囲気ではなかったし、彼らの最期を話すことでこれ以上悲しませたくなかったという気持ちはもちろんあった。だが、レティスの家族は自分たちなんだという変なエゴや嫉妬心があったのも、今なら気づいている。


 そして、今、この期に及んでも真実を伝えることを逡巡してしまうのは、逆恨みからヴィクトリアの両親を手にかけてしまった、レティスの心が心配だったから。こんなにひどいことをされているのに、自分でもどうかしていると思うけれど、やはり、ヴィクトリアはレティスのことが好きなのだ。


 ヴィクトリアが身じろぎをすると、先ほどまでレティスとつながっていた場所から、どろりと何かがあふれる感触がする。レティスは事が終わると、毎回魔法で身を清めてくれるけれど、なぜかそこだけは、そのままだった。


 ヴィクトリアには、レティスの気持ちがわからなかった。


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