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王立図書館の振子《銀星✻③✻》  作者: YUQARI
序章 始まりの時
3/73

停止の魔方陣

 

 ──停止の魔方陣が、解除されている。




 背中に三日月型の紋様が現れ、兄さまが調べてくれた。

 その兄さまが、息を呑んでそう呟いた。


「解除されたの……?」


 俺がそう尋ねると、兄さまは苦しげに顔を歪め、必死になって微笑みをその顔に張り付けた。


「あ……あぁ、そうだ。私も解除したいと思っていたから、ちょうど良かった……」


 口ではそう言ったけれど、本当はそうは思っていないってこと、……俺は知っている。

 だって、兄さまがあの魔方陣を解除するのは、絶対に不可能だから。


 兄さまのお父上……猩緋国(しょうひこく)の現皇帝弓凪(ゆみなぎ)さま。その弓凪(ゆみなぎ)さまが力を行使し、無理やり付けさせた魔方陣。

 何時でも俺を死に至らしめることの出来る、俺の弱点。


 それは兄さまにとってもそうで、俺にその魔方陣を書いたあとからずっと、兄さまは俺の背後に立つようになった。俺を外敵から守るためだ。



 多分兄さまは、自分で望んでこの魔方陣をつけたんじゃない。

 そんな事は、直ぐに分かった。

 酷く悲しい顔をしていたから。


 だけど、同時に分かったことがある。




 兄さまは、皇帝には逆らえない──。




「……」

 別に逆らって欲しいなんて、思ったわけじゃない。

 でも、いつも《守ってやる》と抱きしめて、囁いてくれたあの言葉が、本当は真実ではなかったのだという事が、少し悲しかっただけだ。


 多分その思いは、兄さまも同じ……。

 唯一抗えなかった存在に、ラースは簡単に干渉し、消し去ってしまった。


 だから想いは複雑なのだと思う。




「……これも、何かの魔方陣のようだ」


 兄さまは、ぽつりと言った。


 停止の魔法陣は解除されたけれど、俺の背中には新たな魔法陣が現れた。三日月のような形の魔法陣と、花のような魔法陣。

 三日月型の魔法陣は、ラースに渡した魔法制御のピアスを思い起こさせた。あれはお月さまみたいだった。青みを帯びた綺麗な銀白色の丸いピアス。

 そのピアスは、小さく欠けてしまったようで、ラースの耳に輝くそれは、立待月(たちまちづき)のように少し細くなっていた。その欠片を俺の背に押し付けた。《返す》……と言って。

 だからこんな形の魔法陣があらわれたのだろうか……?


 俺はそんな不安を兄さまに見せたくなくて、口を開く。

「魔方陣?」

 俺の言葉に、困った顔で頷く。

「魔方陣である事は確かだ。でも、何の魔方陣なのか、よく分からない」

 言って俺を抱きしめる。




 ──だから、誰にも触らせてはいけないよ。




 そう言って。

「……」

 優しくて、懐かしいその香りに、俺は目をつぶる。



 兄さまは、あったかくて気持ちよくて、俺は正直ホッとした。

 やっと帰って来れた。

 ……そう思った。


 ずっと抱きしめて欲しかった。

 離して欲しくなかった。

 ……もう二度と。



 だから俺は、兄さまの背に自分の腕を回す。


 腕を回して、ギュッと握りしめた。

 もう二度と、離したくなかったから。


 けれど兄さまは、ハッとしたように肩を揺らして、俺から離れた。



「兄さま……!?」


 非難がましく叫んだけれど、兄さまはこっちを見てくれない。

 目を逸らして、小さく呟いた。




 ──もう、お前を守ってやれない。




 お前は、もう自由なのだからと……。



 意味が分からなかった。

 言われて酷く悲しくなった。

 それって、どういう意味なの? 兄さま……!


 言われた意味を必死になって考えた。

 けれど今も、その意味は分からない。



 もう、嫌いだという事なのだろうか?

 お前はいらないって?


 俺が逃げたから?

 ずっと傍にいなかったから?



 目の前がぐるぐる回った。

 ずっと逢いたかった。でも怖かったのも確かだ。

 俺が逢いたいと思っていても、兄さまはそうじゃないかも知れない。




 実際、()()()()()()()()んだ……。




 涙が頬を伝った。

 掴もうとする大切なものが、するりするりと逃げていく。


 俺はどうしたらいいの?

 何にすがればいい?



 ダリスもラースもいない。

 近くにいるはずの兄さまも、信じられないくらい遠くにいるみたい。

 何に頼ればいい?

 どうしたら、元に戻れるの?


 何が悪かった?


 俺があの時逃げたから?

 あの時逃げなかったのなら、兄さまは俺を抱きしめてくれた?

 ずっと傍にいてくれた?


 俺が全てを台無しにした。



 そう……だった。

 あの紅蛇(あかへび)の間も、俺が暴れたから崩れたんじゃないか。


 たくさんの人が避難したって言ってた。

 フィーリシュカの夢だった工房。

 やっと実現したのに、俺が壊した。


 全て、俺……。

 俺のせい……。




 そう。


 何もかも──




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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど! 回想で前のストーリーからを繋ぐのですね。謎の回収が少し続いてほしいところ。 [気になる点] やっぱ。「俺」は、早めに変えた方が……。
[良い点] 3/3 ・ほんわか、きゅうきゅう。いい感じです [気になる点] ひさやか! 最後に気づいてしまいました [一言] わお
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