サヨナラ
放課後はいつも、気になるあの子と言葉を交わす。
「サヨナラ!」
「サヨナラ!」
きっかけは単純な間違いだった。彼女が友人に向けて放った挨拶を、僕に向けたものだと勘違いした。
女子と会話する機会の少ない僕は思いっきりテンパって、「サヨナラ!」と上ずった声が出てしまった。
彼女はそれを、大笑いした。
つられて僕も大笑いした。
次の日の放課後、帰ろうとする僕に彼女は「サヨナラ!」と挨拶した。
毒を食わらば皿まで、負けじと僕も「サヨナラ!」と返す。
それ以来、帰る前にあいさつを交わすのが日課になった。
特に会話するわけではない。
仲がいいといっていいのかもわからない。
でも、こんな他愛もない遊びに付き合ってくれる彼女に段々と惹かれていった。
そんな日々が続き、もうすぐ一年が経とうとしている。
クラス替えで離れてしまったらこの関係もなくなってしまうのだろうか。
学校を卒業すると、もう挨拶を交わすことはなくなるのだろうか。
告白する勇気はなく、代わりに無難な言葉を紡ぐ。
だけど、今日は違った。
「さようなら」
次の日、あの子は学校に来なかった。
急な転校で彼女は僕の前からサヨナラしたのだった。