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理不尽
宝石屋の前を通りがかった男に、店の中から女が声をかける。
「あなた、わたくしのためにこの指輪の代金を支払ってもいいわよ」
けばけばしい服、派手で厚い化粧をした妙齢の女で、裕福であることを隠そうとせず、むしろ誇るように堂々とした態度だった。
「それを買うためには私給料を一年分ふいにしなければなりません」
裕福ではない男は、質素な暮らしを続けるのに精いっぱいだった。女が欲しがっている指輪を買う余裕なんてありはしなかった。
「まあ、それは大変ね。でも安心しなさって。そんなあなたに、このわたくしの役に立てる幸福を授けましょう。とても名誉なことよ。それはもう、お金に替えられないくらい尊いことなのよ」
胸を張り、高らかに告げる。
そんな女の態度を不思議に想い、男は言った。
「そもそもあなたは誰でしょうか? 私はあなたのことを知らないし、あなたも私のことを知らないでしょう。なぜ私があなたの買い物にお金を出さなきゃならないのでしょうか?」
女はあたりまえのことのように言う。
「私は神よ。民草が神に供物をささげるのは当然のことでしょう?」