はんぶんこ
窓際の席のアンは、授業が始まるまで読書をして過ごすのが楽しみだった。
優雅な時間のひと時は、嵐の来訪によって終わりを告げる。
「ねえねえ何読んでるの? アンちゃん」
同じクラスのドゥは、教室に入るや否やアンの姿を認め、一直線にやってくる。
アンのやることなすことに興味を持ち、一挙一動を見張り、全てを知りたがる。
「ドゥ、今いいところなんだから静かにしてなさい」
この騒々しい友人のことをアンは嫌いではなかったが、毎日のようにカルガモの子の如くに付きまとって来るのはさすがに辟易する。
冷たく突き放すが、のれんに腕押し、ドゥは動じない。
「いーじゃん。おせーておせーて!」
少しいら立ちを覚える。
静かに本の世界に没頭できる時間が取れず、ここのところ虫の居所がよろしくない。
いま読んでいるのは、大好きな恋愛小説の文庫。つかず離れずだった男女が大きな災厄に巻き込まれて命がけの冒険を繰り広げ、次第に恋心に気付いていく。そんな二人の進展が、最新刊では怒涛の展開を見せていく。
「後でね」
そんな内容を短くまとめて伝えるのは骨が折れるし、つたない即興の説明よりもきちんと文面を整えた上で手ほどきした方が、彼女も好きになってくれるに違いない。
そう思い、会話を断ち切って本に戻ろうとする。
「おせーておせーて!」
本の内容が知りたいというよりも、アンとおしゃべりがしたいドゥは、興味を引き戻そうと本に手を掛ける。
「あ、そんな強く引っ張っちゃ……」
大事な本が奪われると思ったアンは、強く抵抗する。二つの力が拮抗し、勢いは本に深刻なダメージを与える。
「あ……」
びりり、と音を立ててページが破れた。
無残にも、本が半ばほどを境にして分けられてしまった。
「…………」
それぞれ本の残骸を手にし、茫然と立ち尽くす。
先に口を開いたのはドゥだった。
「半分の文庫本……半文庫だねっ!」
大きな災厄に巻き込まれたアンは、小説のように乗り越えられるだろうか。続きは文庫には描かれない。