チョコ柿の種の木
ミーコは柿の種が好きです。
中でも、冬だけの『チョコ&アーモンド柿の種』が大好きでした。
この冬も、お小遣い三百円を握りしめて、一パックを買いました。
おうちに着くと、早速柿の種を口に放ります。
がりがりかじると、柿の種とチョコが口の中でこなごなに混じり合って、辛しょっぱさと甘さの小惑星帯が広がります。
ゆっくり歯を立てると、チョコがじわりと欠けて、舌先に柿の種が触れて、じんわりとした甘辛さの太陽が燃えます。
そこに素焼きアーモンドを口に含めば、隕石のようにごりごりした食感と香ばしさが、ともすればビッグバンを起こしかねない甘辛塩味の宇宙に調和をもたらすのでした。
一袋、もう一袋、さらに一袋……。気づけば残り一袋しか残っていません。
普通の柿の種は六袋詰ですが、チョコ柿の種は四袋詰なのです。
「もうおしまい。あーあ、一年中食べられたらいいのに」
ぼやくミーコに、お兄ちゃんが笑いながら言いました。
「それなら、種を植えてごらんよ。木が生えたら、チョコ柿の種の実が採れるよ」
お兄ちゃんがベランダの空いた植木鉢を指さしました。
「うん。やってみる!」
ミーコは早速最後の一袋を開けると、指で土に穴を開けて、種を一粒そっと入れました。
「肥料もやらないと」
お兄ちゃんが茶色の粒々をまいてくれました。それから水をたっぷりあげました。
翌日、小さな芽が出ていました。
ミーコは大喜び。
でも、それからいくら水をあげても、ほっそりした芽が上に伸びるばかりで、木とは程遠い姿です。
気を落とすミーコを見かねて、お兄ちゃんが声をかけました。
「桃栗三年柿八年って言ってね、柿が育つのはとっても時間がかかるんだよ。」
それにチョコの原料になるカカオの木は、暖かいところでしか育たないんだ」
「なあんだ、そうなの」
納得すると、植木鉢を庭に持ち出して、日当たりの良いところに植え直しました。
一年間、ミーコは毎日水をあげ続けました。
でも、雪が積もって、また『チョコ&アーモンド柿の種』を食べているうちに、春にはチョコ柿の種の木のことをすっかり忘れてしまいました。
十年後、ミーコもお兄ちゃんも就職のため家を離れました。
それからずっとずっと長い時間が経って、日本が一年中暖かい国になった頃、ミーコとお兄ちゃんがいた庭には一本の不思議な木が立っていました。
一年中アーモンドの実を付けて、しかも小さな茶色い葉っぱは甘くて食べられる、不思議な木です。
後世の人々は、『チョコ柿の種の木』と名前を付けて、恵みをおいしく頂きました。