07 ド田舎に教会?
闘気法をマスター・・・・・ではなく、使うことが出来た。
これは、もうテンションアゲアゲですわ。
と、思ったら。
「あ・・・れ・・・・・?」
視界がグニャりと歪む。そうかと思えば今度は全身から力が抜けていく。
「くっ」
立っていることが出来ず、思わずその場で膝をついてしまう。
「どうしたソウジ!大丈夫か!」
「あ、ああ、何とか、な。けど、力が入らん・・・・・」
突然膝をついた俺の元に駆け寄ってきたテムロに応えるも、正直声を出すのも億劫だ。
「無理もないな。何せ初めて闘気法を使ったんだからな。俺も最初はそうだった」
懐かしき思い出に浸っているようにクロードがうんうん頷いている。
つか、こうなるってわかってたなクロード。
「そう言えば、レッグボアを倒した時もソウジは闘気法を使った後気絶したな」
「あぁ・・・・そうか。そう言えばそうだな」
あの時もそうだが、闘気法ってこんなに疲れるものなのか。
そう言えばクロードも岩を砕いた時も肩で息してたもんな。
「力の加減が分からずに全力でやればそうなるさ。まあ、それも最初だけだ。慣れればちゃんと使えるようになる」
「そんなものか?」
「そんなものだ。実際俺がそうだったからな」
事も無げに言ってくれるが、俺とクロードでは実績も経験も開きがあり過ぎて参考にならん。
「しかし、これは目出度い事だぞ?俺が傍でアドバイスしていたとは言え、短時間で使えるようになったんだからな」
俺を称える様に満面の笑顔で肩を叩く。
なんか、ストレートに褒められると体がむず痒いな。
「なあ、一旦店に戻らないか?ソウジもこんな状態だし」
「ああ、そうだな。一度戻って休もう。なに、心配しなくても少し休めばちゃんと回復するさ」
「分かった」
「ほら、掴まれ」
テムロが俺の腰に手を回して立ち上がらせてくれる。
「サンキュ」
テムロに肩を貸してもらいながら、俺たちは一度コークさんの店に戻るのだった。
*
店に戻るなりクロードがコークさんに、俺が闘気法を使えたことを報告すると、「それは目出度いな!」と言って料理を振舞ってくれたのだ。
しかもタダで。
気前が良すぎだろ。いや、起きてから何も食ってなかったから有難いけど。
並べられた料理はどれも見たことのない料理ばかりだった。
鳥?いや、ブタか?の香草焼きみたいな物、枝豆みたいな物が浮かんだスープに、新鮮な野菜のサラダ、それとこれは・・・・ピラフ?
料理名も分からなければ、どんな味なのかも分からないが、空っぽの胃袋を刺激する美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。
「三人とも、遠慮せずに食べてくれ」
「それじゃ、お言葉に甘えて・・・・・」
「じゃあ、俺も」
「俺も」
三人揃って料理に手を伸ばす。
何から食べようか、どれも美味そうだけど、まずはスープからいただこうかな。
「ッ!!」
うまっ!
なんだこれ。口に入れた瞬間枝豆?から溢れる僅かな甘みと、野菜が溶けるまで煮込んだのか、スープの味と見事にマッチしてとても美味い。
次に香草焼きに手を伸ばす。
「ッ!!!」
こちらもヤバイぐらい美味い!
噛むたびに肉汁が溢れる。肉から出る油も香草のおかげでくどくなく、口の中で見事に調和してくれている。
「美味い!美味いですよこれ!!」
「ははっ!喜んでくれてなによりだよ」
マジで美味いぞ!これが異世界の料理か!
「まあ、コークさんの料理が美味いのは当然だな。なんたってコークさんは都で店を出してたぐらいだからな」
テムロがまるで自分の事のように自慢げに語ってくる。
「昔の話だよ」
都がどれほど凄いのか知らないが、感覚的には東京の一等地に店を構えてたって感じか?それならこの味も納得だ。
俺は料理を次々に口の中に入れていく。
気が付けばそこそこの量があった料理は綺麗に胃袋の中に納まっていた。
「ふぅ~食った食った」
「やっぱコークさんの飯は美味いな」
「ご馳走様でした~」
俺含め三人揃って大満足。
「こっちもおいしそうに食べてくれて嬉しいよ」
コークさんはニコニコと笑顔で食器を片付けて調理場へと消えていった。
「どうだソウジ、もう体は平気か?」
「ああ、体も休めたし、何より美味い飯も食えたからな」
「ならソウジ、少しいいか?」
「うん?何だクロード」
口には笑みが浮かんでいるが、クロードの目は何処か真剣な眼差しをしていた。
「ソウジ、闘気法の修行をしてみる気はないか?」
「え?」
修行?闘気法の?
「さっきも説明したが、闘気法や魔術を使うにはある種の才能がいる。そしてお前は今しがた闘気法を使って見せた。つまり、お前には才能がある」
確かにクロードの話なら、闘気法を使えた時点で、いや、マナを感知出来た時点でその『才能』とやらがあるのだろう。
しかし・・・・・
「なんでまたそんな話に?」
「実は、俺はハンター組合で指導係をやっているんだ。まあ、手が空いている時だけだがな」
ハンター組合。つまりゲームとかで言うとこのギルドってやつか。
「でだ、指導係をやっている俺の目から見て、お前の才能がこのまま野に埋もれちまうのはもったいないと思っている・・・・・だからな、ソウジ。その才能を伸ばして、強くなってみないか?」
ドクンッ
「強く?」
「そう、強く」
ドクンッドクンッ
何だ?胸が熱い。
鼓動が早鐘のように鳴る。
強く?俺が?闘気法で?
そう思った瞬間、脳裏に嫌な顔が浮かぶ。
それは俺がこの異世界に来る少し前の記憶。
俺の愛した女を奪い取り、下卑た笑みを浮かべた『アイツ』の顔。
傷は無いはずなのに、『アイツ』に殴られ、蹴られた体が、まるで忘れるなと言う様に疼く。
俺が弱くて、『アイツ』の方が強かった。
ただ、それだけだ。
それだけなのに・・・・・それが、酷く、イラつく。
それを意識した瞬間、体が、脳が、沸騰したように熱くなる。
「・・・・・・頼むクロード。俺を、強くしてくれ」
俺はその熱を力に変えるように、クロードの目を見返し、言った。
「・・・・・ああっ!任せときな!」
そんな俺にクロードは力ずよく答えてくれたのだった。
*
「そう言えば、お前らこれからどうするんだ?」
あれからクロードと今後の闘気法の鍛錬について話し合い、明日この時間にコークさんの店で待ち合わせることを約束し、話がひと段落した時だった。
「ああ、そう言えば村の案内の途中だったんだ」
ハンターの事や闘気法の事ですかっり忘れていた。
「まだ全部案内したわけじゃないし、ソウジの体力が戻ったんなら案内を再開するか?シェスタにもこいつを届けないといけないし」
そう言ってテムロは足元に置いておいた古びたランプを手に取る。
「そうだな。俺の方はもう大丈夫だし、案内の続きを頼もうかな」
「あいよ。じゃあ、クロード・・・・・」
「おう、俺はまだここでゆっくりしていくつもりだから気にせず行ってきな」
テムロと二人で席を立ち、店の入り口へ。
去り際にコークさんに食事をご馳走になったことを改めてお礼を言っておく。
するとコークさんは笑顔で「いつでも来るといいよ」と言って手を振ってくれた。
本当にいい人だ。
店を出る直前にクロードが「明日のこの時間だぞ」と声を掛けてきた。
俺はそれに「分かった」と答え、テムロと二人で店を出て村の案内に戻ったのだった。
*
店を出ると陽は傾き始めていた。
感覚的に三時、四時ってところか?
もう少しすれば夕暮れ時と言える時間になるだろう。
そう思えば結構な時間を店で過ごしていたのだと思う。
テムロに案内されるがまま村を歩く。
案内されるのは畑や家畜小屋等、そう言った農作物関連の場所を案内される。
まあ、テムロも言っていたがこのノザル村には店が三軒しかないのだから仕方がない。
別にこの村が観光名所でもないのだから見所などあるはずもなく、今も田園畑が目の前に広がっているばかりだ。
「それで?次は何処を案内してくれるんだ?」
田園畑の脇を通り過ぎると、その先には森が広がっていた。
テムロに案内されるがまま、俺たちは森の入り口まで差し掛かった。
どうやら次の目的地は森の中らしい。
「教会。そこが今日のラストだ」
「へぇ~教会か・・・・・」
そう言えば、ランプの届け先は教会のシェスタって人宛てだったな。
てか、こんな田舎村に教会なんてあるんだ・・・・・・口には出さないけど。
「・・・・・・お前今、『こんな田舎に教会なんてあるんだ~』とか考えてたろ」
「い、いやそんな事考えてないよ!」
「本当かぁ~?」
やべっ、顔に出てたかな?
「まあいいけど。実際こんな田舎に教会がある方が珍しいし」
「そうなのか?」
「ああ。まあ、教会って言っても木造作りのこじんまりとした古い教会だけどな・・・・・・・と、見えてきたぞ」
テムロが指を示す方に目を向けると、木々の隙間から建物が見受けられる。
近づくにつれ、その全容が明らかになる。
木造作りのこじんまりとしていて、所々補修したような跡が残る古びた建物。
「ここが本日のラスト、ノザル村唯一の教会だ」
そう言ってテムロは教会の扉に手を掛けた。
男女の比率が男に偏り過ぎてる・・・・・そろそろ女性側にも傾けないと(汗