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異世界リベンジ! ~前世の借りをヤリ返す~  作者: 神ノ味噌カツ
第三章
74/74

09 祝いの席

村を発って二日、俺達はデムローデに到着した。


時刻は既に夕方となり、あと少しすれば太陽も隠れて夜を迎える時間帯、俺達は組合を訪れていた。


「ただいま戻りました」


「ソウジさん、お疲れ様です」


出迎えてくれたのは受付嬢のレミアさん。丁度手が空いていたのか、棚の整理をしているところに俺達は鉢合わせた。


「これ、受け取りのサインが入った書類です」


村長のサインが入った羊皮紙を差し出すと、レミアさんは笑顔で受け取る。


「お預かりします。村の様子はどうでしたか?」


「特に問題はなかったな。村の連中も健康そうに見えた」


ライラが村の様子を報告すると、レミアさんは安堵の息を吐いた。


「あの村がどうかしたんですか?」


「いえ、大したことは無いんです。ここ最近あそこの土地周辺で作物の育ちが悪いと聞いたので、少し心配していたんです」


「作物が?」


「はい。と言っても一部の土地ですから、そこまで心配するほどの事ではないとは思いますけど。もし仮に不作が続いてしまうと物価が高騰してしまいますし・・・・・・そうなると食費とかが・・・・・・あ、いえっ!な、何でもありません!」


あはは、と上擦った笑いを上げるレミアさん。


(もしかして見た目と違ってレミアさんは結構な大食いなのかな?)


服で隠されているが実はお腹のお肉とか気にしているのだろうか?パッと見そんな風には見えない。むしろ程よい肉付きの体だと思う。顔だって男受けしそうな(眼鏡と言うのもポイント高い)愛嬌のある顔をしている。


などと失礼な事を考えていると、組合の扉が開いた。入ってきたのはフィリシアだ。


「あら、久しぶりレミア」


「フィリシアさん、戻られたんですね!」


「ええ、今しがた戻ったわ」


柔和な笑みを浮かべながらこちらに歩み寄り、懐から何かの羊皮紙を取り出すとレミアさんに差し出す。


「はいこれ、報告書よ」


「・・・・・・確かに。お預かりします」


サッと書面に目を走らせ内容を確認すると、レミアさんは「少々お待ちください」と言い残してカウンターの奥に引っ込んだ。しばらくするとレミアさんは数枚の書類と袋を持って戻ってきた。


「お待たせしました。こちらにサインをお願いします」


言われた通りに渡された書類にサインをする。フィリシアも同じく渡された書類にサインをする。


「確認しました。それではこちらが今回の報酬になります」


続いてレミアさんから金が入った袋を渡される。中を確認すると銀貨が数枚入っていた。中身を確認した俺は懐にそれをしまう。


「はい、確かに」


「こっちも確認したわ」


フィリシアの声に釣られて顔を向けると思わずギョッとしてしまう。フィリシアの手に持つ袋は明らかに俺が渡された袋よりも膨らんでいたからだ。


「そ、そんなに貰えるのか?」


「え?ああ、今回は少しばかり面倒な依頼だったからね」


「そうですね。それにBランクのハンターの報酬としてはむしろ少ない方だと思いますよ?」


「そ、そうなのか?」


フィリシアとレミアさんは当然の様な顔をしていたので、思わず傍にいたライラに聞いてしまう。


「そうだな、クロードもこれくらいは稼いでたな」


「マジか・・・・・すげぇなBランク」


「ま、依頼の内容にもよるがな」


受ける依頼でこんなにも差が出るなんて、改めてランクの違いに驚いてしまう。


「あ、そうだ!ランクで思い出しました。ライラちゃん、Cランクの昇格が決まりましたよ。おめでとうございます!」


「マジか!やったなライラ!」


「おめでとうライラ!」


ランクアップの知らせに俺と美里は賞賛を送ると、ライラは照れているのか、少し顔を赤くしながら頬を掻く。


「別に、ソウジと出会ったころには殆ど決まってたようなもんだから、そこまでの事じゃねえよ」


「何言ってんだよ、すげえじゃねえか。やっぱ姉弟子様だな。これからも頼りにしてるぜ、ライラ」


「っ、おう・・・・・・」


そう言ってライラの肩を叩くと、ライラはそっぽを向いて小さく答えた。照れているのか、耳が赤いのがチラリと見える。


そんなおめでたい空気の中、フィリシアが声を掛けてきた。


「良かったわねライラ。そうだわ、せっかくのランクアップなんだし、今晩は私が夕食を奢るわ」


「・・・・・・気持ちわりいな、なに企んでんだ?」


ライラのジト目にフィリシアはため息を一つ吐いて肩を竦める。


「失礼ね、何もないわよ。報酬も手に入った事だし、一人で食事も味気ないでしょ?」


「仲間と行けばいいだろうが」


「嫌よ、あんなむさっ苦しい連中と食事だなんてせっかくの料理が不味くなるわよ。それよりもあなた達と食事をした方が面白そうだと思わない?」


「アタシは思わねえよ」


「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


ライラとフィリシアとの間に再び不穏な空気が流れ始めたので、俺は慌てて間に割って入る。


「ま、まあまあ落ち着け二人共。ライラ、せっかく奢ってくれるって言うんだし、ここは厚意に甘えようぜ?な?」


「・・・・・・・はあ、好きにしろ」


溜息を洩らしたライラは渋々と言った感じで了承してくれた。


(よかった、今度はちゃんと止められたな)


村の時は美里が機転を利かせて落ち着くことが出来たが、俺は何も出来ないで事の成り行きを見ていただけ。それをオグマにいじられた事を地味に気にしていた俺はこの結果に胸を撫で下す。


安堵していると、フィリシアは一度手をパンッと叩いて空気を換える様に明るい声を出す。


「決まりね。それじゃあ一時間後に組合前に集合でどうかしら?」


「ああ、それでいいよ」


「なら一時間後に」


こうして約束を交わした俺達は、一旦荷物を置くなどする為にその場で解散。俺達三人は家に帰ることになった。



         *



荷物を置いた俺達は軽く休憩を挟んだ後、約束通り組合前に向かった。向かった先には既にフィリシアが組合の壁に背を預ける様にして待っていた。


「来たわね」


俺達の存在を確認したフィリシアは背を預けていた壁から離れて俺達に歩み寄る。


「わざわざ着替えたのかよ」


「汗臭かったから着替えたのよ。どう?似合う?」


そう言ってスカートの裾を軽くつまんで持ち上げる。持ち上げたスカートからスラリと伸びる艶やかな脚が覗いて思わずゴクリと喉を鳴らしてしまった。


「総司・・・・・」


「え?い、いや何でもないぞ?」


そんな姿を美里に見られていたらしく、冷たい視線を向けられ慌てて弁解をする。


(いやだって、男ならこれは流石に目を引くだろう)


胸元がガッツリ空いたシャツに、スリットが深く入ったスカート、胸元から覗く谷間は深く、美里よりも豊満な果実が零れそうなほど主張し、スリットからチラチラと見える白くて艶めかしい脚はまるで男を誘うように姿を晒している。


初めてあった時も体のシルエットがはっきりと分かる様な服を着ていたが、これは明らかに男を意識している服にしか思えない。


(これが眼福、いや、目の毒と言うやつなのか?)


などと考えていると、フィリアが俺達を先導するように前に立った。


「行きましょう?」


「どこに行くんだ?」


「バヤール亭」


フィリシアを先頭に俺達は通りを歩き、ついた先はお馴染みバヤール亭。フィリシアはそのまま扉を開いて店内に。俺達も続いて中に入る。


相変わらず繁盛しているのか、人が埋め尽くし、騒々しい声が溢れている。


「いらっしゃいませ!ってフィリシアさん!?」


俺達に気付いたミーシャが声を掛けてくると、フィリシアを見つけて驚いたように声を上げる。


「あら、久しぶりね」


「ご無沙汰しています!戻ってたんですね」


「ええ、今日戻ったばかりよ」


「そうだったんですね。今回はどこまで?」


「北にあるダグラム山脈まで」


「ダグラム山脈!?ずいぶん遠くまで行っていたんですね」


「まあね」


フィリシアとミーシャはそれからも会話を続ける。二人の様子は実に楽し気で、友人と話すような気軽さがあった。


「ミーシャ、何サボってんだ!さっさと仕事に戻れ!!」


「あ、やばっ、ごめんなさい!直ぐにお席にご案内します!!」


「ふふっ、相変わらずね」


そう言って微笑むフィリシアの眼は微笑ましいものを見るような温かい目をしていて、とても印象に残った。


ミーシャに先導されるように席に案内してもらうと、その途中で声を掛けられた。


「あれ?ソウジさん?」


「ん?ってファム、それにミタリーも」


そこにはファムとミタリーがいた。二人は丁度食事をしようとしていたのか、手つかずの料理がテーブルの上に並べられていた。


「お久しぶりです。と言ってもそこまで日は空いてないですけど」


「そうだな・・・・・その、もう、いいのか?」


「はい」


何がいいのか?それは兄であるベヤドルの事だ。


あの日、俺とライラが仕方がないとはいえベヤドルと戦い、結果死なせてしまった。いや、殺してしまった。


その兄の最後の瞬間をファムは目の前で見ていた。


それからファムはしばらくふさぎ込んでいると聞いていたが、どうやらもう大丈夫そうだ。その事に安堵していると、ファムは立ち上がって俺達に頭を下げた。


「ファム?」


「ありがとうございました、ソウジさん、ライラちゃん」


突然頭を下げるファムに、俺は戸惑う。いったい何に対してのありがとうなのかと。


「・・・・・・・礼を言われるようなことはしてないぞ?むしろ恨み言を言う権利が、お前には有る。特に、アタシに対してはな」


ライラの言葉でハッとなる。あの時、ベヤドルに決定的なとどめを刺したのは他ならないライラだ。だからライラは『アタシに対しては』と言ったのだ。


「兄さんの事は、正直、今も悲しいです。ライラちゃんを恨んでいるかと問われれば、そんなことは無いとは言い切れません」


「・・・・・・・・」


「けど、あの時兄さんを止めなかったら、きっと取り返しがつかないことになっていたとも思ってます・・・・それに、あの時の兄さんは正気じゃなかった。何かに取り憑かれている様でした」


あの時のベヤドルは確かに正気ではなかった。原因は不明。ただオグマ曰く、アレは呪いだ、と言っていた。


その事について一度オグマに尋ねたのだが、答えるつもりが無いのか、はぐらかされた。


(結局、アレは何だったんだ?)


ベヤドルからあふれ出した禍々しい黒い闘気。そしてどこから手に入れたのか、あのアーティファクトの存在。


ベヤドルは死に、それと一緒にアーティファクトも塵となって消滅した。どうしてああなったのか原因を探ろうにも、既に手掛かりは失ってしまって探りようがない。


「兄さんは罪を犯しました。遅かれ早かれ、いつかは報いを受ける時が来ていたと思います。あのままだと、いつか決定的に道を外していました。その前に二人は兄さんを止めてくれた・・・・・・・だから、ありがとうございます」


そう言ってもう一度、今度はさっきよりも深々と頭を下げる。そして、再び顔を上げた時、ファムは微笑んでいた。


「ファム・・・・・・」


その顔を見て、胸が締め付けられるような気持になった。


だって、その笑みは今にも泣きそうな、それでも、懸命に前を向こうとする、そんな笑みだったからだ。


「何だ?やけに騒がしいと思ったらお前達だったのか」


「ビジャル!?」


会話が一段落を見せたタイミングで俺達に声を掛けてきたのは眼帯をつけた偉丈夫の男、ビジャルだった。


「用を足しに行って戻ってこれば、また人数が増えてるじゃねえか。しかもフィリシアまでいるとはな」


「あらビジャル、久しぶりね」


「相変わらずいい女だな。どうだ?今晩俺と酒でも――――」


「お断りするわ。タイプじゃないの」


「ハハッ!相変わらず手厳しいな。まあ、そこがいいんだが!」


ビジャルの誘いを一刀両断したフィリシアは薄く微笑み、断られたビジャルは落ち込むわけでも怒るわけでもなく笑って頭を叩くだけ。そこには昔から知っている者同士の気安い空気があった。


(同じBランク同士、やっぱ気が合うのか?)


振られたビジャルは今度はライラに近づくと、ライラの肩に手を置いてなぜか決め顔を作る。


「お前も相変わらず可愛いなライラ。どうだ?俺と――――」


「うるせぇ、空気読めぶっ飛ばすぞボケ」


そう言いながらビジャルの手を冷たく叩き落とす。


「ビジャルさん・・・・・」


更に追い打ちと言う様にファムから冷たい視線が飛んでくる。


「・・・・・お前も相変わらずで何よりだよ」


流石に流れが悪いと察したビジャルは肩を落として引っ込む。しかし、そこは慣れているのか、直ぐに気持ちを切り替えて今度は俺に顔を向ける。


「それで?ソウジ達はこんなところで何やってるんだ?」


「俺達、依頼を終わらせて今日帰ってきたんだ。そしたら組合でライラがDランクに昇格したって知らせがあってさ。それでお祝いを兼ねてみんなで飯でもって話になったんだ」


「Dランクに!?凄いライラちゃん、おめでとう!」


「遂にライラもDランクか。これはうかうかしていると追い抜かれてしまうな。それは置いておいて、おめでとうライラ」


「・・・・・おう」


ファムとミタリーが我がことの様に喜んで賞賛を送る。二人にそう言われてライラは顔を赤くしている。きっと恥ずかしいのだろう。


因みに以前聞いた話だが、ファムはランクC、ミタリーはD+ランクだ。


ミタリーが追い抜かれると言ったのは、自分と一個違いのランクまでライラが迫ってきたことからこその発言だ。


「何にしても目出度い事だ。そうだ、お前らまだ席が決まってないならここで一緒にどうだ?」


「一緒にか・・・・どうする?」


「アタシはどっちでもいい」


「私も良いよ」


二人は同席に問題ないと頷く。


「フィリシアは?」


「私も問題ないわ」


「それじゃあ、お言葉に甘えて」


「決まりだな。おいミーシャ!追加の椅子と、後酒を頼む!」


「は~い!ただいま!」


こうして俺達はビジャルの提案で卓を共にすることとなった。



        *



「それでじゃ、ライラのDランク昇格に、乾杯!」


『乾杯!』


追加の椅子を用意してもらい、料理と酒を注文した俺達は、ビジャルの音頭と共に酒の入った木製のジョッキを掲げた。


並べられた料理を摘まみつつ、酒を飲んで他愛もない話で盛り上がる。


「そう言えばまだちゃんと自己紹介していませんでしたね。ファムです。ミサトさんの事はソウジさんから窺ってます」


「美里だよ。私もファムちゃんの事は総司から聞いてるよ。腕の良い魔術師だって」


「いえ、そんな・・・・・」


「謙遜することは無い。実際ファムの腕は私から見ても大したものだ」


「ミタリーまで」


「おっと、すまない。私も自己紹介しておこう。ミタリーだ、よろしく頼む」


「こちらこそ」


女子三人が互いに自己紹介をしつつ和気藹々と会話をしているのを横に、残りの俺達は別の話をしていた。


「それでフィリシア、今度は何をしてきたんだ?」


「ちょっと魔物退治と魔物の生息地の調査でダグラム山脈まで」


「ダグラム山脈か、随分遠くまで行ってきたんだな」


「ええ、まあその分報酬もそれなりだったからね」


「ライラの方は何をしていたんだ?」


「アタシらは配達だ」


「配達って・・・・・またショボいのを受けたな」


「うるせえな、こっちは新人抱えてんだよ」


などとビジャルに絡まれている。


俺達が来る前から酒を飲んでいたのか、俺達よりも顔を赤くしたビジャルが美里に目を向ける。


「新人ってのは、あの美人か」


「ああ」


「ふ~ん・・・・・」


ビジャルの目が三人で楽しく談笑している美里を舐める様に見る。


「中々俺好みの良い女だ。ライラにはフラれちまったし、ここはひとつ今夜の相手を・・・・・ってそんなに睨むなよソウジ」


このオッサンは・・・・隙あらばすぐに女に手を出そうとする。これでBランクと言う高位のハンターなんだから世も末だ。


「ビジャルの方は何をしてるんだ?怪我は治ったんだろ?」


話題を変える様にライラが聞くと、ビジャルは笑いながらファムとミタリーに目を向ける。


「今はあいつらのクランで相談役の真似事をやってる」


「相談役?」


「ああ、バカ弟子がいなくなったうえに半数以上の人員が馬鹿について行ったおかげで、今疾風は本来の力の半分以下まで落ちちまった」


バカ弟子、ベヤドルの事だ。


「それで、二人に頼まれてな。少しの間あいつらの面倒を見ることになった。といっても別に俺がリーダーになってどうこうって訳じゃない。抜けた穴をどうするか相談に乗ってやったりしているだけだ。後はたまに稽古をつけてやるぐらいだな」


「へえ」


あのビジャルがそんなことをしていたなんて意外だ。面倒がって断りそうなものだし。


(でもまあ、ファムを溺愛してるからそうでもないか)


「今はリーダーをミタリーにしてクランを立て直してるってとこだな」


「ミタリーを?」


「ああ、最初は私も断ることも考えたんだがな。他の皆からも頼まれて引き受けたんだ」


話が聞こえていたのだろう、そう言ってミタリーが答えた。


「私ではなくファムをリーダーにしようかと言う話もあったのだが・・・・・」


「む、無理だよリーダーなんてっ!」


突然話を振られて慌てて否定するファム。それを見てミタリーは苦笑を浮かべる。


「といった感じで、ファムが嫌がるものだから、最終的に私が勤めることになった」


「なるほどね」


確かにリーダーとしてならミタリーが適任だろう。元々前リーダーだったベヤドルの妹とは言え、それだけではクランの頭を務めるには荷が重すぎるからな。


「私よりもビジャルさんの方が向いてるって私は思ってるんだけど・・・・・」


「私も本当ならビジャルに頼みたかったのだが・・・・」


「馬鹿言え、俺はクランなんて面倒ごとは御免だ」


二人の訴えにビジャルは肩を竦めて応える。確かにビジャルの性格上、上に立つのを嫌がりそうだ。


とは言え、Bランクのビジャルの実力を捨ておくわけにはいかないと、二人は頼み込んで今の関係に落ち着いたそうだ。


「そんな事より、フィリシア。しばらくは街に居るんだろ?」


「ええ、そのつもりよ」


「そうか。つまり今は暇してるってことだな?」


「まあ、そうね」


フィリシアのその答えにビジャルはニヤっと気色の悪い笑みを浮かべる。


「ならよ、この後どうだ?積もる話もあるだろうし、店を変えないか?勿論二人で。そうだ、この間開店したばかりのバーがある―――――」


「残念だけど、貴方と二人なんて御免だわ。何をされるか分かったものじゃないもの」


「まあまあ、そう言わずに少しだけでも・・・・・・」


フィリシアの拒絶にしつこく食い下がろうとするビジャルの眼前に突如炎の球がバッと現れる。


「熱っ!!」


「それ以上しつこい様なら、燃やすわよ?」


見ればフィリシアの手の平から炎の球がメラメラと燃え盛っていた。


「じょ、冗談だって、は、はは・・・・・」


顔中に脂汗を流しながらスッと距離を取るビジャル。流石にこの至近距離であんなの食らったらどうなるかは分かっているようだ。


「まったく、冗談は顔だけにしてもらいたいわね」


「・・・・・・酷くねえか?」


辛辣な言葉に肩を落とすビジャルの事を無視して炎を消すと、再び酒に口をつける。


「仕方ねえ・・・・・・こうなればミサトちゃんに――――」


「ああ?」


「・・・・・冗談だ、そんな顔するなよソウジ。闘気洩れてるぞ?」


複雑な関係とは言え、美里が男にナンパされる姿に胸の奥がモヤモヤしてしまい、つい口が出てしまった。ついでに闘気も出てしまったみたいだが、それはご愛敬。


「ま、まあなんだ、今夜は楽しく飲もうじゃないか!」


先ほどまでの失態を取り戻すためか、殊更に明るい声を出してジョッキを掲げるビジャルに、呆れながらも俺達はジョッキを掲げた。

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