幕間01
思わず鼻を覆いたくなる酷い匂い。
何処からか聞こえるすすり泣く声と苦痛が入り混じる声。
薄暗い狭い空間。所狭しと並ぶ鉄格子の嵌まった部屋。
その一つの部屋に少女はボロボロの服に手枷を嵌められ、更に首には頑丈な首輪を嵌められていた。
少女は何をするわけでもなく、ただ茫然とした様子で虚空を見ていた。
その眼には何も映さず、何の感情も浮かんでいない、まるで人形のような眼をしていた。
どれだけの時間そうしていただろうか?
気が付けば鉄格子越しにこちらを見る複数の人間が少女を見下ろしている。
「貴族の娘も、こうなったら見る影もないな」
手に持つランタンの明かりに浮かぶ男の顔は、蔑んだ顔で少女を見ていた。それは他の男達も同じだった。
「そう言ってやるなよ、どこで生まれるかなんて決められないんだ。こいつも、ある意味では不幸な生まれって事さ」
「スラムで生まれた方が幸せってか?」
「俺は普通の田舎にでも生まれた方がマシだと思うがな」
ゲラゲラと笑いながら男達は話す。そこには少女の境遇に哀れみなどは一切含まれない。
あるのは自分が上の立場だと言う優越感。
貴族の娘がこれからどうなるかを知っているからこそ、余計に男達はその感情が大きくなる。
「いつも上から俺達を見下してるからこうなるんだ。これは罰だ、ペッ!」
男の一人がそう言って少女に唾を吐き捨てる。
「・・・・・・・・・」
頬にべちゃりと唾をつけられた少女は、怒ることも無く、悲しむことも無く、虚ろな瞳で男達を見ていた。
「ケッ、つまんねえ奴だな」
「もういいだろ?他の檻も見て回らないと、またボスに叱られるぞ?」
その言葉を合図に男達は少女の前から遠ざかっていく。
「・・・・・・・・」
ランタンの光が遠くなり、再び少女は薄暗い中に戻る。
「・・・・・・・・・どう、して」
薄暗い中、消え入りそうなほどの小さな声が洩れる。
「・・・・・・・・どうして、なの?」
掠れた声が、少女の乾燥した唇から洩れる。
「・・・・・・・・私は、何も、悪い事なんてしていないのに」
どうして?なんで?そんな自問の声は、しかし、誰にも聞こえず、暗闇の中に消えていった。




