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異世界リベンジ! ~前世の借りをヤリ返す~  作者: 神ノ味噌カツ
第三章
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04 日常品、懐かしき味

 あれから妙な空気の中、とりあえず昼食をしようと言う事で、ライラが簡単に飯を用意してくれたのでそれを食べ、これから俺達の部屋になる二階に上がり各部屋に荷物を一旦置き、必要な物を買うべく街に繰り出した。


「とりあえず、美里の服と、後は必要な小物なんかも買わないとな」


「えっと、いいのかな?私の服なんて」


「気にするなよ。どうせこいつの金だし」


 走り回る子供を避けながら買い物についてきたライラはぶっきら棒に言う。


「まあ、服を買うぐらいの金はあるし。それにそれ一着だけじゃ不便だろ?」


 現在美里が着ているのは簡素な白いワンピース。組合から美里を引き取る時にとりあえずと着せられたものだ。それ以外の荷物など美里は持ち合わせていない。


 ここに奴隷として連れてこられたときは、着の身着のままの状態だったからだ。


「それじゃあ、お言葉に甘えて・・・・・あ、でも安いものでいいから」


「はは、そこまで心配しなくてもいいよ」


 俺は謙虚(けんきょ)な事を言う美里に笑ってしまう。


(一緒に暮らしていた時も、美里はこんなこと言ってたな・・・・・)


 同棲していた時は生活の負担にならない様に、なるべく贅沢はしない様に美里は心がけていたのだ。だから服などには余りこだわらなかった。


「ライラ、服とかってどこに売ってるんだ?」


 俺はこの街に来て日も浅い。なのでこの街に詳しいライラに尋ねると、ライラは少し思案した後、街の西側を指さす。


「向こうに商業地区がある。そこの通りにいくつか服を扱ってる店がある。そこなら古着を扱ってる店もあるからそこがいいだろう」


「そうか。なら行ってみよう」


 ライラの案内で俺達はデムローデ西にある商業地区に足を踏み入れる。そこは活気にあふれ、昼を少し過ぎた時間帯もあってか、中々の込み合いだ。


「へえ、ここには初めて来たけど、結構人がいるんだな」


「ああ。ここにはアタシらハンターも依頼で必要な物を買いに来たりするからな。ほら、あそこなんかはハンター専門の道具なんかを扱ってる店だ」


 言われて見れば、丁度店に入って行く数人のハンター達が見えた。他にも同じ同業者が俺達の脇を通り抜けていく。


「お前もここら辺の店は覚えておいた方が良いぜ。何かと世話になることも多くなるだろうからな」


「ああ、そうするよ。それで、店はどの辺だ?」


 軽く見渡してみるが本題の服を扱う店が見えない。


「ここからもう少し先にあるわき道に入って直ぐだ。ついてこい」


 俺達は再びライラに案内されて通りを進む。少し進むとわき道があり、そこに入って直ぐ目の前に少し古ぼけた一軒の店が出迎えてくれる。


「ここだ」


 そう言ってライラは扉を開いて中へ。俺と美里も続いて中に入ると、こじんまりとした店内に所狭しと服が置かれていた。


「へえ、まるでデパートのバーゲンセールだな」


「でぱー?よくわからんが、ここは古着を扱ってる店だから価格も安いし、見ての通り色々あるから選びやすいだろう。アイツは癖があるけど」


「何て?」


「何でもない」


 最後の部分がよく聞き取れなかったが、ライラは気にするなと言わんばかりに手をヒラヒラとさせる。


「ライラもよく来るのか?」


「たまにな。ついでだし、アタシも適当に何着か買っていくか。丁度前に着てたのがボロボロだし。お前も何着か買っていったらどうだ?お前着替えなんて何着も持ってないだろ?」


 ライラの言う通り、俺もそこまで服はもってない。ノザル村でテムロから貰ったお下がりと、今着ているガヤルさんが作ってくれた物しかない。


「そうだな、俺も何着か買っていくか。美里、お前もこの中から選んでくれ。会計は俺が出すから」


「うん。でも、この中から選ぶのは結構大変そうだね」


「まあ、確かに」


 店内には棚や籠なんかに乱雑に服が積まれている。どこに何があるかは一目見ただけでは分からない。それが店のそこら中にあるのだ。まるで砂場の中からダイヤを見つけろと言われているみたいだ。


「とにかく探してみよう。決まったら声を掛けてくれ。俺も色々見て回るから」


「分かった」


「じゃあアタシは向こうを見てるから」


「おう」


 そうして俺達は店の中に各々散っていき服を選んでいくが、これが中々想像していたよりも大変で、とにかく量が多いから気に入ったものが中々見つからない。


 美里も同じようでチラリと姿を窺うと、キョロキョロとあっちを見たりそっちを見たりと迷っている。


 ライラはここには何度か来ていると言うだけあって既に何着か手に持っている。


「これ見つかるのか?」


 適当に籠に入った服を取ってみると、それは女性用の服だったりするからカオス具合が半端ない。せめて男物と女物で分けてもらいたいものだ。


「何かお探しですか~?」


 手に取った服を戻して、さてどうしたものかと思っていると、間の抜けた様な声で話しかけられた。


 見ればそこにはボサボサの髪に野暮ったい服を着た、眠そうな顔をした女性が立っていた。


「ああ、その、服を買いに来たんですが、どれにしようか悩んでいて・・・・・・・あなたは?」


「私はここの店主で~、ヘルダ。よろしく~」


 ヘルダと名乗った女性は眠たげな眼をこすりながらそう自己紹介をする。


「ど、ども、総司です」


 とりあえず俺も名乗り返すと、ヘルダはその眠たげな眼で俺の頭からつま先まで何かを観察するように見てくる。


「えっと、何か?」


「服~、探してるんだよね~?どんな服をお求めで~?」


「え~と・・・・・・普段着に使えそうなやつと、後は寝間着にでも使えそうなやつを探してるんだけど」


 俺が希望する服を述べる。するとヘルダはもう一度俺の身体を上から下まで見ると呆気なく答える。


「お客さんなら~、こっちの服なんかがお似合いですよ~」


 そう言って傍にあった籠をごそごそと漁ると、一着のシャツを手に取り見せる。


 ラフな感じの黒いシャツは、俺が考えていた普段着のイメージにぴったりだった。


「おお、いいね」


「後~、こっちのこれなんかもお客さんにはお似合いかと~」


 そう言って更に棚からズボンを取り出して見せてくる。


「ほうほう・・・・・コレも良いな」


 出されたズボンを手に取って見て見ると、肌触りも悪くない。最初に見せてくれたシャツと合わせるといい感じの組み合わせではないだろうか?


「そっちに試着室があるから~、試着してみる~?」


 促されるまま試着室に案内され、試しに渡された服に袖を通すと、なんとサイズもぴったり。試着室にある鏡で軽く見て見るが、違和感なくきれていると思う。


 ヘルダのセンスに感心していると試着室のカーテンが無遠慮に開けられ、顔を見せたヘルダに全身をチェックされる。


「うんうん、いい感じだね~」


 満足げに言うとサムズアップを決めてくる。


「ありがとう。それにしても凄いなヘルダは。この店の服全部覚えてるのか?」


「まあね~、私店主だし~」


 そう言う問題なのか?何にせよ助かるからいいけれど。


「あ、そうだ!ヘルダ、悪いんだけど連れにも同じように服を選んでくれないか?」


「連れ~?別にいいよ~」


「すまん、助かるよ」


 店の服をすべて把握し、尚且つこのセンスがあれば服を選ぶのも簡単だろう。そう思い美里の服選びも頼めば快く引き受けてくれた。


「お~い、美里!」


 少し大きな声で呼ぶと美里は直ぐに気付いて俺の下に来てくれた。


「どうしたの総司?」


「ああ、実はこの人に―――――」


 服を選んでもらおう、と言おうとした矢先、俺と美里の間に突然ヘルダが割り込む。


「え、えっと?」


「へ、ヘルダ?」


 突然のことに目を白黒させていると、ヘルダはまたも突然美里の肩をガシッと掴む。


「ひっ!」


 急な事に驚いて美里の口から短い悲鳴が洩れる。が、そんなのお構いなくヘルダが美里の全身を上から下までくまなく見る。


 一通り美里の全身をチェックすると、今度は俯いて肩をプルプルと震わす。その姿にただならぬ気配を感じて思わず構えてしまう。


 するとヘルダは勢いよく顔を上げる。その眼は先ほどの眠たげな眼ではなく、目がカッと見開き血走っていた。


「良い・・・・あなた、凄く良いっ!」


「あ、あの?」


「貴方異国出身ね?ああいいわ答えなくてもそれにしてもこの黒髪凄く綺麗ね肌も艶々で綺麗だしそれにこのスタイル最近ではお目にかかれないほどのスタイルを持っているわね素晴らしいあなたの様にスタイルが良いと何を着せた方が良いかしらまずは大胆なものから攻めてみる?」


 突然豹変したかのように捲し立てるヘルダ。口調も先程の様に間の抜けた喋り方ではなく、どこか鬼気迫る様な喋りになっている。


「お~い、ヘルダ、さん?」


 試しに呼んでみるが、固まる美里に何かよく分からない事を捲し立て続けていて気付いてもらえない。


「どうなってるんだ?」


 この事態は一体どういうことかと首を捻っていると、俺達とは離れて服を選んでいたライラが騒ぎを聞きつけてこちらに来た。


「ああ~・・・・・ヘルダに捕まったか」


「ライラ?これ、一体どういう状況なんだ?」


 何か知っているような素振りを見せるライラに問うと、ライラはため息交じりに説明してくれる。


「こいつは女好きでな。特に気に入った女の服選びが何よりも好きなんだよ」


「・・・・・それは、何とも」


「そのせいか、服を選ぶセンスは抜群なんだが、これだろ?客は怖がって余り店には寄り付かないんだよ」


「なるほどね」


「そ、総司~!」


 俺とライラがそんな話をしている中、美里が助けを求める様に声を上げる。


「こうなったらヘルダが気が済むまで収まらん。丁度いいし、ヘルダに服を選んでもらえ」


 無慈悲とも取れるライラの言葉に涙目になる美里は、ヘルダに腕を掴まれ店の奥へと連れていかれた。


 ヘルダに連れていかれて約三十分。


「お待たせ~」


 どこか艶々な肌をしたヘルダがにこやかな笑顔で戻ってきた。


「それでは~お披露目タイム~」


 一歩横にずれたヘルダの脇から美里がスっと前に出る。


「おおっ!」


「へぇ~」


 俺は驚きの、ライラは感心の声を上げる。


「ど、どうかな?」


 そう言って恥ずかしそうに頬を赤く染める美里の姿は見違えるような姿だった。


 黒いシャツの上に白い長袖の上着、上着には赤いラインがアクセントとして描かれて、華やかさがあり、下はスカート丈がやや短い赤いスカートにはフリルがあしらわれて可愛らしさが窺える。足は黒いニーソックスに覆われ、革製のブーツできめている。


 組合から貰った簡素なワンピースに比べてヘルダが選んだものは実に華やかで、美里の魅力を見事に引き立てていた。


「いいじゃん、似合ってるよ!」


「まあ、いいんじゃねえか」


「あ、ありがとう」


 俺とライラの感想に何処か照れたように、しかしはにかんでくれた。


「しかし、ヘルダは凄いな。自分で言うのもなんだが、俺は服のセンス何てないからな。素直に羨ましいよ」


「照れるな~」


 と、言う割には表情が出会った時と変わらない眠たげな顔なんだが。


「こう言っちゃあ何だが・・・・・・ヘルダはオシャレとかしないのか?これだけセンスがあるなら大変身できそうな感じなんだが」


「ああ~それはね~、自分に興味が無いんだよ~」


「興味ない?」


 そう聞くと自分を指さしておどけてみせる。


「私~こんな顔だし~、性格も御覧の通りの有様だから~。いくら着飾っても意味がないって言うか~」


 そんな自分を卑下せんでも・・・・・・


「そうは思わないけどな。性格は・・・・まあ、俺は面白いからありだと思うぞ。それにこんな顔って言うけど、俺は綺麗だと思うし」


「っ~~!!」


 俺の言葉に驚いたのか、ヘルダは下を向いてオロオロし始める。


 ヘルダは自分に自信が無いのかもしれない。今はボサボサな髪が邪魔をして見えずらいが、チラリと見えた顔は決してブスとは言えない。むしろ美人の部類に入る。


 顔をチラリと見えたから断言できる。これは化けると。


「そ、そんなことは~・・・・・・」


「いや、実際悪いとは思ないけどなぁ。二人はどうだ?」


「私は、ヘルダさんは十分魅力的だと思うけど」


「元がいいんだから、少しは身なりを整えろよ。そうすれば少しはここの客足も増えるだろうよ。主に男共が」


「・・・・・・そう言ってもらえるのは~、何だか嬉しいよ~」


 そう言って顔を上げて笑ったヘルダは、実に嬉しそうだった。


 こうして美里の服も無事購入出来た。上から下まで揃えてもお値段はリーズナブル。他にも数着服を見繕って貰ったが、こちらも値段としては安い。


 会計を済ませて服の入った籠を美里が受け取る。俺も自分の服の会計も美里の分と一緒に済ませる。


 続いてライラが選んだ服の会計を済まそうとカウンターに持っていた服を置いたのだが―――――


「ライラちゃんは~その服でいいの~?」


 と、首を傾げるヘルダに対し、ライラは眼光鋭く答える。


「ああ?何だよ文句あるのかよ?」


 何で喧嘩腰なんだよ。


 どこか警戒するような態度のライラに疑問を持つと、その答えは直ぐに分かった。


「ライラちゃんには~、これが似合うと思うんだ~!」


 カウンターの下でゴソゴソとすると、出てきたのは黒いドレスのような服だった。


(いや、ドレスって言うか、ゴスロリってやつだな)


 ヘルダが取り出したのは随所にフリルとレースがあしらわれたまさにザ・ゴスロリともいうべき可愛らしい服だった。


「わあ~可愛い!」


「でしょ~?ライラちゃんにピッタリだと思うんだ~」


 美里の感想にヘルダは何所か得意げに胸を張るが、ライラは拒絶反応を示す。


「ふ、ふざけるなっ!誰がこんなもん着るか!?」


 ライラは血の気が引いたように真っ青になって吠える。


「ダメ~?じゃ~これなんかどうかな~?」


 そう言って次に取り出したのは清楚な感じの白いワンピース。胸元と袖口にレースがあしらわれているが、主張し過ぎずアクセントとしては丁度いい感じに調和している。


「へえ~、どこかのお嬢様が着ていそうな服だな」


「これ~ライラちゃんの綺麗な赤い髪にも映えると思うんだ~」


 自分が着ている姿でも想像したのか、今度は顔を赤くするライラ。


「他にも~これとか~これなんかも良いと思うんだ~」


 更に取り出した物はどれもこれも普段ライラが着ている服とは対照的な、いわゆる女の子な服を取り出していく。


「だから、着るかバカっ!!」


 次々に出てくる煌びやかで可愛らしい服たちに、ライラはカウンターに銀貨を叩き付ける様に投げると、勢いよく店から逃げ出していく。


「ちょ、おい!ライラっ!?」


「わわっ!待って~!」


 俺と美里は出て行ったライラを追いかける様に店を慌てて出て行く。


 店を出る間際、ヘルダの「またのお越しを~」と言う声に背中を押されるように店を出るのだった。



            *



 総司と美里が店から出て少ししたところで立ち止まるライラに追いつくと、ライラは振り返ってため息を吐いた。


「ったく、行く度に服を買わせようとするなよな」


「なんだ?いつもなのか?」


「ああ、どうしてもアタシにああいった服を着せたいみたいでな、初めてクロードと一緒に行った時なんてまるで着せ替え人形になった気分だったよ」


 げんなりした様子のライラの姿に総司は苦笑いを浮かべる。


「別にああいう服も良いんじゃないか?似合うと思うし」


「っ!ば、バカ言ってんじゃねえ!?」


 総司の言葉に顔を赤くして抗議するライラ。その二人の姿を美里は何所か寂しそうに微笑みながら見守っていた。


「とりあえず、目的の服は買ったんだ。次に行くぞ」


「そうだな。じゃあ次は小物を買っていこう」


「なら、ひとまず表通りに戻るか」


 そうして三人は連れだって歩き出す。表通りに出た三人は適当な店を覗きつつ、必要な生活用品などを購入していく。そうして時間は過ぎ、気が付けば夕暮れ時になっていた。


「大体揃ったか?よし、帰るぞ」


 ライラの帰宅宣言に二人は頷き帰路に着く。


「そう言えば晩飯はどうする?」


「そうだな・・・・・・家に材料はあるが、今から作るのも面倒だし、外で食うか?」


「う~ん・・・・・」


「どうした?」


 ライラの提案に総司が渋い顔になる。


「いや、別に問題は無いんだが、懐がちょっと心持たないと言うか・・・・」


 そう言って肩を落とす総司に呆れた顔を向けるライラ。それを見た美里が小さく手を上げる。


「あの、材料があるなら私が作ろうか?」


 美里の提案に二人はキョトンとするが、総司が何かを思い出したのかその顔に喜色が浮かぶ。


「そうだ!その手があったか!」


「何だ?どう言う事だ?」


 状況が飲み込めないライラは総司に尋ねると、総司は嬉しそうに口を開く。


「美里は料理が得意なんだよ。そこらの店よりも美味い飯が食えるぞ!」


「へぇ、そうなのか・・・・・」


 総司の喜びようにライラはどこか影が差した様に俯くが、総司は気付かない。


「そうと決まれば家に帰ろう」


 そう言って総司は歩き出し、美里もそれについていく。ライラは少し遅れて二人の後を追った。


 家に着くと荷物をリビングの隅に一旦置くと、ライラは美里と一緒に台所へと向かった。


「野菜はここに在る。肉はここにあるのを使え」


「ありがとう、ライラちゃん」


「・・・・・・ちゃんは要らねえ、ライラでいい。お前にちゃん付けで呼ばれると背中が痒くなる」


「う、うん。分かったライラ」


「フンっ」


 不機嫌そうに鼻を鳴らすライラに困惑していると、ライラはリビングに戻ると言って台所から出て行く。


 一人残された美里は出て行くライラの後ろ姿を見送った。


(嫌われてる、のかな・・・・・そうだったら、寂しいな)


 買い物の最中は総司もいたおかげか、それほど険悪な空気にはならなかったが、美里は気付いていた。ライラが美里に話しかけることがないと言う事を。


(何とかしないと、だよね。ここに置いてもらうんだから。それに、ライラともっと仲良くなりたいし)


 そう願うが、どうすればいいか具体的な事は思い浮かばない。


「とりあえず、美味しいご飯を作ろうっ!」


 今できることはそれしかないと思い、美里は具材に手を伸ばす。


 調理を始めて約三十分、料理がリビングのテーブルに並べられた。


「おお、美味そう!」


 テーブルに並べられた料理はどれも美味しそうな香りと共に総司とライラの鼻腔をくすぐる。


「知らない調味料とかあったから苦戦したけど、味見もしたから大丈夫だよ」


 この世界にある調味料は美里にとってどれも馴染みのないものだった。それに加えて見たことがない野菜などもあり、調理に手間取ったが何とか形になった。


「それじゃ早速、いただきます!」


 そう言っていの一番に総司が料理に手を伸ばす。


「うん、美味い!」


 総司の舌に懐かしい元の世界で味わったうま味が広がる。


「・・・・・見たことない料理だな。ソウジの言う元いた世界の料理ってやつか?」


「そうだな。これなんか俺がいた世界ではメジャーな料理だな」


 そう言って指さした料理はキャベツロールだった。


「食ってみろよ、美味いぞ?」


 総司に促され、キャベツロールにフォークを突き刺して、恐る恐ると言った感じに口に含むライラ。


「っ!うま・・・・・・」


 口に含んで噛み締めると、しっとりしたキャベツから肉汁が溢れ、ライラの舌を喜ばせる。


「どうよ?俺達がいた世界の料理の味は」


 ライラの反応にニヤニヤと笑みを浮かべながら総司が聞くと、ライラは誤魔化す様に咳ばらいを一つして総司を睨む。


「別にお前が作った訳じゃないだろうが」


「まあ、そうなんだけどさ。で、味の程は?」


「・・・・・・・ま、まあまあだな」


 そう言って別の料理に手を伸ばす。本人は至って平静を装っているつもりでいたが、料理を口に入れる度にライラの表情が無意識に綻んでいることにライラ本人は気付かない。


 そんなライラの様子に総司は笑い、美里は安堵した。


「何だよ、こっちをじろじろ見やがって。食わないならアタシが全部食うぞ?」


「それは勘弁してくれ」


 そうして三人は昔懐かしき料理に舌鼓を打つのだった。

最近まともに料理してないなぁ・・・・・作るのが面倒だからコンビニ弁当とかになってるし、たまにはちゃんと料理しようかな

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― 新着の感想 ―
[良い点] あんな形で離れ離れになった恋人の懐かしい料理を異世界で食べる。その味はどんなものなのだろう?総司はただうれしそうだが、自分なら色々な感情が迫ってきて、胸がいっぱいになりそう。鈍感なところは…
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