01 真実は何処に?
買い物客や街を訪れた旅人や商人が行きかい賑やかな空気に包まれる表通りに反して、その部屋の中は陰鬱とした空気に包まれていた。
「一体、何がどうなってるんだ・・・・・・」
ソファーに座り頭を抱えて呻く男、総司が何度目になるかも分からないため息を漏らす。
総司が美里を見つけた後、ハンター組合組合長のオベールが派遣した数名のハンター達により、奴隷達はこのデムローデの街まで移送されることになった。
奴隷達の今後の待遇などは現在街の領主と話し合いながら決めていくと言う事になっている。ひとまず奴隷達は保護され、今は怪我をしている者たちの治療や、身元の確認などで組合は大忙しとなっている。
そんな中、総司が求めていた思い人は現在組合の治療室で安静にしている。外傷は無いものの、衰弱していた為だ。
「覚えていないって、何があったらそんなことに・・・・・」
そして総司は問題の思い人、天霧美里の事で頭を悩ませていた。
「入るぞ」
美里に関して頭を悩ませていると、部屋の扉がノックされ、中に入ってきたのは手に木製のカップを二つ持った赤髪の少女、ライラだった。
「ほら」
「・・・・・・ありがとう」
総司に持ってきたカップを片方渡すと、ライラは総司の向かいにあるソファーに腰を下ろして中身に口をつける。
カップに口をつけながら総司の様子をチラリと窺うと、ライラはため息を漏らしてカップをテーブルに置く。
「確認だがソウジ、お前が探していた奴は見つかったんだよな?」
「ああ」
ライラは総司本人から聞いていた話を確認するように言葉を紡ぐ。
「けど、お前の事を覚えていない、と」
「・・・・・・・ああ」
そう、美里に会うことは出来たが、肝心の美里本人は自分の名前以外何も覚えていないと言うのだ。
「嘘をついてるって線は?」
「ない、と思う」
「思う、か。なら、まだ確定って訳じゃないな」
「そう、だけど・・・・・・」
何処か煮え切らない総司の答えにライラはイラつきながら頭を掻く。
「ああ~もうっ!辛気臭い奴だな、会えたんだからこれから問い詰めればいいだろうがっ!」
「それも、分かってはいるんだけど・・・・・」
総司自身ライラの言っていることは分かる。嘘か本当か分からないのなら直接本人に問い詰めればいいだけの話だ。
しかし、総司はどうしても考えてしまう。もしも嘘を言っていたら、それは自分を拒絶していると言う事ではないか?もしも本当なら、これから先一体どうすればいいのか?
「考えれば考えるほど、どうしていいかわからなくなるんだよ」
「ハァ~・・・・・・・こりゃ重症だな」
そう言って項垂れる総司に、ライラは特大のため息を吐くしかなかった。
*
翌朝、ライラの家の二階にある空き部屋を借りて泊まったベッドで目覚め、一階に降りると既にライラがソファーに座って何かの資料に目を通していた。
「おお、起きたか」
「・・・・・おはよう」
資料から顔を上げて総司を見ると、まだ陰をさした総司の顔にため息を漏らすと、ライラは資料をテーブルの上に放り投げると勢いよく立ち上がった。
「ライラ?」
その行動に目を白黒させていると、ライラは総司に近づくとその腕をグッと掴む。
「な、何だよ」
「行くぞ」
「行く?行くってどこに?」
「決まってんだろ」
ライラは何所かイラついた顔をしながらその場所を告げる。
「組合だ」
その一言でライラが総司に何をさせようとしているのかを察して総司は慌てる。
「組合って、そんないきなりッ!?」
「いきなりもクソもあるかっ、いつまでもうだうだ考えてるくらいならとっとと行って直接本人に聞けっ!!」
「だ、だからそれは―――――」
「ああっ!もう、うるせえ!つべこべ言わず行くぞ!!」
「ちょ、ら、ライラッ!?」
抵抗するも強引に腕を引かれて総司はライラに引きずられるように家を後にする。
ライラに引きずられながら組合に連れてこられた総司は、ライラにそのまま腕を引かれながら組合にある治療室の前まで連行された。
「ほら、さっさと入れ!」
「うわっ!?」
治療室の扉を開けるや、総司の背中を強引に押して扉を閉める。
「お、おい!開けろよ!」
閉められた扉を開けようとするが、外側からライラの手によって閉められ開けられない。それどころか呼びかけにすら応える気配もない。
「あ、あの・・・・・・」
「っ!」
閉められた扉の前で呆然としていると、部屋の奥に設置されているベッドから声がかかる。
恐る恐る振り返ると、ベッドの上に美里が上半身を起こした状態で総司を見つめていた。
「あ、いや、その・・・・・・」
美里の姿に、声に、どうしても一歩身を引いてしまいそうになる。だが、逃げることは出来ない。
不機嫌そうな顔をしながらここまで引っ張てきたライラの顔が脳裏に浮かぶ。
(ああ、もう!こうなったらヤケクソだ!)
意を決して総司は一歩二歩と美里の下に歩み寄る。
「貴方は、あの時の・・・・・」
総司の顔を見て、美里の顔が緊張の色を見せる。
(そりゃそうだよな。会っていきなりあんな事したら怖がられるよな)
再会してそうそう美里に詰め寄り大声を上げたのだ。本当に記憶が無いのなら知らない男にいきなりそんなことをされれば誰でも恐怖を抱くものだ。
加えて美里は奴隷として奴隷商ハイデルの下にいた。どんな扱いを受けていたかは総司は知らないが相当な不安があったことは総司でも容易に想像できる。
(とにかく、ここは謝っておく方が良いか)
話をする為にもまずは警戒心を解いてもらわなければ、そう思い総司はなるべく怖がられない様に柔らかい口調を意識しながら口を開く。
「えっと、あの時は急に詰め寄ったりしてゴメン。美里の姿を見て気が動転したって言うか・・・・・・とにかく、本当にゴメン」
そう言って総司は美里に頭を下げる。その姿を美里は何所か思い詰めたような瞳で見つめる。
「あの、聞いてもいいですか?」
「え?あ、ああ。俺で答えられることなら」
「貴方は・・・・・・私を知っているんですか?」
その言葉に総司の肩がビクリと震える。
「質問を質問で返すようで悪いんだけど、その・・・・本当に、何も覚えていないのか?」
総司の問いに、美里は小さく頷く。
「自分が天霧美里って言う名前以外、何も思い出せないんです」
「そう、か・・・・・」
嘘を言っている様には見えない。しかし、総司にはまだ確信を得られない。だから総司は質問を重ねてみることにする。
「なあ、日本にいたことは覚えてるか?」
「えっと、ごめんなさい分からない」
(どこに住んでいたかは分からない、か?なら・・・・)
「そうか・・・・・じゃあ公陵大学って大学は分かるか?」
その大学の名前は総司と美里が通っていた大学の名前だ。総司は大学の名前を出すことで美里の反応を窺う。
「公陵大学・・・・・はい、分かります」
「っ!どんな大学か分かるか?」
「えっと・・・・・・二階建ての建物で、正面玄関の脇に桜の木があって・・・・・・」
(あってる。公陵大学には確かに玄関口の脇に桜がある)
「それから、テニスコートが二つあって、コートのすぐ近くに広場が・・・・・・・あれ?なんで、どうして私、そんなこと知って・・・・・・」
総司の質問に答えていくと、答えていくたびにその表情を徐々に曇らせる。
総司はそんな美里をみつつ、次々と質問を投げかける。
生年月日は?コンビニを知っているか?両親の名前は?スマホの使い方は分かるか?白石という名前に覚えはあるか?など、総司は大雑把に質問の内容を二つのカテゴリーに分けて質問していく。
その二つのカテゴリーとは知識に関する事、そして、思い出。結果分かったことは―――――
(知識はある。けど・・・・・思い出が完全に抜け落ちてる)
コンビニ、スマホ、果ては数式などの問題などは答えることが出来た。しかし、人に関するもの、特に親しい間柄の人間との関係性や、友人知人と過ごした思い出に関することが記憶から完全に抜け落ちている。
それどころか、それを思い出そうとすると何かを拒絶するかのように美里の頭に鈍い頭痛が襲う。
あらかた質問を終えた二人の間に重い沈黙が流れる。すると、今度は美里が口を開いた。
「・・・・・・私は、何者なの?」
「美里・・・・・・」
「お願い・・・・・知っているのなら教えて」
どこか縋るような瞳で総司を見上げる美里に、総司は一瞬躊躇してしまう。
(俺の知っていることを全て話す、訳にはいかないか)
思い出そうとすると頭痛に苛まれてしまう美里に、総司が知っていることを話しても記憶が戻る保証はない。それどころか逆に美里を苦しめることになる可能性がある。
(それに、思い出せないんじゃあの時の話をしたって何の意味もない)
あの時、それはすなわちこの世界に総司が来ることになった原因。前の世界で最後に美里に合った時の話だ。
「私の事、知ってるんでしょ?なら、お願い。知っていることを教えて」
美里の懇願に、総司はしばらく沈黙していたが、やがて美里を見据えて口を開く。
「・・・・・・・分かった」
総司は美里に自分が知っている限りのことを話した。大学で知り合った事、卒業後の事、総司は自分の記憶を探りながら出来る限り細かく話していく。
「そっか・・・・・・私達は友達だったんだね」
「ああ・・・・・・・・」
友達と言うフレーズに総司は一瞬目を逸らしそうになったが堪える。
「この世界は、一体何なの?」
「それは、俺にも分からない。気がついたら俺もこの世界に居たんだ」
「異世界、なんだよね」
「ああ、俺達がいた世界とは明らかに違う世界だ」
「帰る方法は?」
「それも・・・・・・分からない」
「そっか・・・・・・」
再び部屋の中に沈黙が生まれる。沈黙に耐えかねて先に声を出したのは総司だった。
「なあ、美里。お前の事も聞かせてくれ。この世界に来てからの事、お前が記憶しているところから教えてくれないか?」
それは一つの疑問だった。なぜこの世界に美里が存在しているのか。
(俺は死んでこの世界に来た。なら美里は一体どうやってここに来たんだ?)
記憶が無いからこの世界に来てからの事しか覚えていないだろうとは予想しているが、それでも何かヒントになるものがあるかもしれない。総司はそう願って美里に問いかける。
「私が覚えてるのは――――――」
*
「う・・・・・・んン・・・・・・・」
意識が覚醒し、周りを見渡すとそこは森に囲まれた川の畔だった。
「ここ、は?」
ぼんやりした意識が徐々に覚醒していくと、違和感を覚える。
「私、どうしてこんなところに・・・・・・・うっ!」
思い出そうとしても何も思い出せない。それどころか頭痛がして頭を抱えてしまう。
痛みが引いてきたところでふと気づく。
「あれ・・・・・・私、誰?」
思い出せない。その事実に顔を青ざめさせると、慌てて思い出そうと必死になる。しかし、思い出そうとすると例の頭痛が邪魔をして思い出すことが出来ない。
そうして、唯一思い出せたのは―――――
「美里・・・・・天霧美里・・・・・・」
自分の名前だけだった。
「そうだ、私は天霧美里。分かる、自分の名前が分かる。けど・・・・・・」
それ以外が思い出せない。そのことに恐怖を抱いた美里は震える自分の体を抱く。
そこでふと気づく。自分が今、なにも着ていない裸であると。
「え!?なんで、私裸なの!?」
慌てて周囲を見渡すも、衣服などどこにも見当たらない。
「どうしよう・・・・・・こんな格好でどうしたらいいの?」
あまりにの事態に瞳に涙が浮かんできたその時、茂みからガサガサと音が鳴った。
「っ!」
その音に美里は身体を強張らせると、茂みから出てきたのは中年の女性だった。
女性は裸の美里を目にすると驚き、美里の下に駆け出す。
「貴方、どうしたのこんな格好で!?何かあったの?盗賊にでも会ったのかい!?」
「え、あ、あの・・・・・・」
女性の剣幕に押されて上手く答えることが出来ないでいると、女性は立ち上がり踵を返す。
「今家に戻って毛布か何か持ってくるから、貴方は私が戻るまでそこの木陰にでも隠れてなさい!いい?私が戻るまで出てきちゃダメよ!」
「あっ・・・・・」
女性はそう言い残し元来た道に引き返していく。その後ろ姿を呆然と見送った美里は、女性に言われた通り木陰に身を潜める。
暫くすると女性が手に服を持って戻ってくる。
「ほら、これに着替えなさい。私のお古だけど、それは勘弁してね?」
「あ、ありがとう、ございます」
受け取った服に袖を通すと、人心地ついたのか美里はホッと息を吐く。
「それで、一体どうしたって言うんだい?こんなところで、しかもあんな格好で」
「えっと、その・・・・・自分でも分からないんです。気がついたら倒れていて、服も着ていなくて・・・・・」
自分でも一体何を言っているのだと言いたい気持ちをグッと堪えて、美里は状況を説明する。すると話を聞いた女性は美里の全身を頭からつま先まで眺める。
「あ、あの、どうしました?」
「貴方、ここら辺の人間じゃないね?よその国か、どこか別の大陸から来たのかい?」
「えっと、それは・・・・・・」
よその国とか大陸だとか言われても美里には何のことだかさっぱり分からない。女性は言葉に詰まる美里を見て、何か勘違いしたのか美里を安心させるように手をひらひらと振る。
「ああ、いいよ。何か事情があるんだろ?」
「えっと、はい」
よくは分からないが、自分の置かれた状況に混乱している美里は反射的に頷いてしまう。
「そうかい、なら事情は聞かないよ。・・・・・・行く当てはあるのかい?」
「それは・・・・・・」
「ないなら、家に来るかい?」
「・・・・・・いいんですか?」
「かまわないよ。うちの村には似たような奴らもいるからね」
「ありがとうございます」
女性の申し出に素直に頭を下げる美里に、女性は快活な笑顔を見せる。
「困った時はお互い様だよ。さあ、そうと決まれば村に案内するよ。ついておいで」
「はい」
*
「そうして私は、その人の好意で村で暮らすことになったの」
「そうか」
美里がこの世界で目覚めてからの出来事を聞いていた総司は少し残念に思った。
(やっぱり、どうやってこの世界に来たかの手掛かりはないようだな)
「それで、その後はどうなったんだ?」
気を取り直して話の続きを促すと、美里の表情に陰がささる。
「・・・・・・村で暮らし始めて一ヶ月は経ったの。その間に村の人達とも徐々に打ち解けて、村の人達も受け入れてくれ始めていたんだけど・・・・・・」
「けど?」
「・・・・・・・・村のある人に、売られたの」
「っ!」
俯きながら美里は語る。村であったことを。
助けてくれた女性の家で生活をしていた美里は、女性の夫から度々不審な視線を向けられていた。
最初は勘違いかと思っていた美里だったが、徐々に夫の視線は露骨になっていった。
美里は助けてもらった恩もある為、女性には言えず我慢をして過ごしていた。
そんなある日の夜、美里が暮らす家に数人の男達がやってきた。
男達は家に押し入り、止めようとした女性を押しのけ、美里を見つけると強引に連れて行き、男達が乗ってきた馬車に両手両足を縛られて乗せられた。
馬車に乗せられる寸前、家から出てきた夫が男の一人に何かが書かれた羊皮紙を渡すと、男から何かが詰まった革袋を受け取っていた。
夫は中身を取り出すと、それは金貨だった。夫はその金貨を見つめながら悦に浸ったようにニヤニヤと笑う。
それを見て美里は悟った、ああ、自分は売られたんだと。
夫に縋り付いて止めようとした女性を夫は蹴りつける。地面に倒れた女性は美里の名を懸命に叫ぶが、馬車は無慈悲に美里を乗せて村を離れた。
「――――――お前は売られた。今日からお前は奴隷だ。そう言って私はこの街に連れてこられたの」
「そう、か・・・・・・・」
「それからはあなたも知っている通り、檻に入れられて、そして助けてもらった」
話を聞き終えた総司は強く拳を握った。それは怒りだ。
(どんな神経してたらそんな真似が出来るんだよ、クソがっ!!)
美里を売り飛ばした夫に対して激しい怒りを覚える総司だが、ここで総司が怒ったところで何も変わらない。結果はもう既に出ているのだから。
「改めてお礼を言うね。助けてくれて、本当にありがとう」
そう言って微笑む美里に総司は困惑する。
「え?」
「ここの人に聞いたの。あなたが私達を助けるために戦ってくれたって」
「いや、まあ、な」
「だから、ありがとう。えっと、総司」
「っ!」
総司と呼ばれて、心臓がドクンと跳ねあがる。
(何度も美里に呼ばれたはずなのに、なんで、こんなに・・・・・)
怒っていいのか、笑っていいのか、それとも泣いていいのか、自分の気持ちが分からなくなっていく総司の耳に、扉をノックする音が届いたのは丁度そんな時だった。
「失礼するよ」
入ってきたのはこの組合の所属の主治医と付き添いの助手だ。総司も何度かお世話になったことがある。
「診察をしに来たのだが、今いいかね?」
「あ、はい」
主治医はそう言って美里の下まで来ると、美里の顔を覗きこんで経過を観察する。
「ふむ、顔色はだいぶ良くなったね」
「すみませんが、詳しい診察をするので、部屋を出てもらえますか?」
「あ、分かりました」
助手の女性に言われ、総司は部屋を出ようとする。
「あ、総司」
「ん?」
美里の声に総司は扉を開けようとしていた手を止め顔だけ向けると、美里は何所か不安そうな顔をしていた。
「また、来てくれるよね?」
「・・・・・・ああ、また来るよ」
そう言って総司は扉を開けて部屋を出る。その脳裏に去り際に見せた美里の安堵したような笑顔を浮かべながら。
部屋を出るとライラが壁を背にして待っていた。
「話は終わったか?」
「まあ、大体な」
「・・・・・・その様子じゃ、あんまりいい話は聞けなかったみたいだな」
「・・・・・・・・」
何も語らない総司にため息を吐くと、ライラは預けていた壁から離れ、組合の出入り口に向けて歩き出す。
「ここじゃ何だし、話は飯でも食いながらにしよう。アタシもさっきオベールのオッサンから聞いた話をお前に話しておきたいし」
「分かった」
そうして二人は組合を出て街に踏み出した。
*
総司が美里に合うために組合に向かった時間より少し遡る。
「ハァ、ハァ・・・・・・」
調査官ラクメルは追跡の手を振り切り、部下数名と共に薄暗い森の中を歩いていた。
「くそ、こんなことになるなんて・・・・・・」
オベールが手配したハンター達によって奴隷を解放されたラクメル達は、追ってから逃げ出した。そして、現在王都を目指して暗い森の中を松明の明かり一つで進んでいる最中だった。
「ラクメル様、余り無理をしては―――――」
「うるさいっ!それぐらい分かっているっ!!だが、一刻も早く王都に戻らねばお終いなんだぞ!?」
「しかし、王都に戻っても私達は・・・・・・」
護衛の男が不安そうにそう言うが、ラクメルは違った。仄暗い瞳に増悪を滾らせながら笑う。
「心配するな。あのお方に言えば、この程度、どうということは無い」
「そう、なのですか?」
ラクメルは不安そうな部下たちをおいて歩き出す。それを慌てて部下たちがその背を追う。
(そうだ、これで終わらすものか。私はこんなところで終わるような器ではないっ!!)
王都に戻ったら今回の事を報告して、こんな目に合わせた組合の連中に報復を進言して・・・・・そう頭の中で戻った後の事に考えを巡らせていると―――――
「残念だが、戻ったところでお前の居場所はもうないぜ?」
『!!』
その声にその場の全員がビクリと身体を震わせて立ち止まる。
「だ、誰だッ!?」
ラクメルが混乱したかのように喚くと、薄闇から頭からローブで姿を覆った一人の人物が姿を現した。
「お前は要無しだ。理由は・・・・・分かるよなぁ?」
松明の明かりに照らされたローブの人物の口元がニヤリと笑みを浮かべる。
「ひっ!!」
その狂気じみた笑みにその場の全員の背に冷たい汗が流れる。
「た、頼む!見逃してくれ!金ならいくらでもやる、だからっ!!」
自分がこれからどんな目に合うのか、それは今までラクメルも同じような末路を辿った者たちを見てきたから分かる。
自分はここで、殺される。
だから、ラクメルは必死にローブの人物に懇願するが、ローブの人物は聞き入れるつもりが無いのか、その手に赤黒い闘気を纏わせながらゆっくりとラクメル達に近づいていく。
「た、頼む・・・・・助け――――――」
「馬鹿が、聞くわけねぇだろうが」
ローブの人物が身体を低く構えると、地面を蹴って勢いよく襲い掛かる。
「や、やめ・・・・止めてくれええええ!!!!」
薄暗い森の中で、地獄のような断末魔が木霊した。
という事で第三章スタートになります。
いきなり問題発生からのスタートになるわけですが、一体どうなっていくのかな?




