プロローグ
黒髪の奴隷の瞳に一人の傷だらけの男が映っていた。
「あなた、誰?」
「誰って・・・・・・・」
傷だらけの男は奴隷の言葉に酷く狼狽していた。
「俺の事・・・・・分からないのか?」
「えっと・・・・・・・・」
目の前の傷だらけの男は自分の事を知っている。
けれど―――――――
「ごめんなさい、知らない」
「ッ!!」
「きゃッ!!」
「何言ってるんだ美里っ!!」
男は奴隷の肩を掴んで揺さぶる。
「冗談は止めろ!俺がどんな思いであの時―――――」
「おい、ソウジ!何やってんだっ!!」
その時、後ろから男を羽交い絞めにして止めに入った少女がいた。
「離せライラっ!俺は――――――」
「落ち着けっ!暴れるな!!」
赤髪の少女が暴れる男を必死に押しとどめる。そんな姿を奴隷は呆然とその瞳に写していた。
「・・・・・・そう、じ?」
ポツリと呟いた言葉に男、総司は暴れるのを止め、どこか縋るような瞳を奴隷に向けた。
「・・・・・・・ごめん、なさい」
「美里?」
「・・・・・・・・分からないの」
「え?」
「分からないの、自分の名前以外、何も・・・・・・分からないの」
黒髪の奴隷、美里はそう言って俯いてしまう。
「分から、ない?」
男の、総司の言葉にコクリと小さく頷く。それを見て総司の身体から力が抜ける。
「冗談、だよな?」
「・・・・・・・ごめんなさい」
「そんな・・・・・・そんな事って・・・・・・」
力なく伸ばされた手は、しかし、美里には届くことは無かった。




