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異世界リベンジ! ~前世の借りをヤリ返す~  作者: 神ノ味噌カツ
第二章
55/74

23 真実は残酷に

 突き出された槍の一撃をライラは後方に飛んで回避する。だが、回避したのも束の間、すぐさま距離を詰めて鋭い刺突が繰り出される。


「チッ!」


 ライラはそれをティソーナで迎撃、返す刃で切りかかるが、今度は相手が後ろに飛ぶことであっさりと躱される。


「見ない間に腕を上げたんじゃないのか?」


 間合いを図る様に油断なく槍を構えながらベヤドルは余裕の笑みを浮かべる。


「・・・・・・黙れ、裏切り者が」


「裏切り者とは酷い言い草だな」


 ライラの罵倒にベヤドルは肩をすくめておどけてみせる。


 ベヤドルがここにいて、あまつさえ敵として立ちふさがった事に総司は混乱し、ライラの加勢に参加すべきなのかどうかの判断が出来ないまま二人の激しい攻防を見ていることしかできなかった。


「何でだ・・・・・なんでなんだベヤドルっ!!」


 総司の信じたくないと言う気持ちが言葉になって口に出る。


「何で、か・・・・・・さて、何から話したものか・・・・・」


 ライラが目の前で構えているのも関わらず、ベヤドルは総司の質問に答えるために思案する。


 ライラもこれを好機と見て切りかかる・・・・・・ことが出来ない。


 何故なら―――――――


(・・・・・・隙がねぇ)


 一見無防備な姿で構えている様に見えるが、切りかかれば即座に反撃される。それをライラはベヤドルから感じていた。


(C+ランクのハンターは伊達じゃないってか、クソがっ)


 ライラはこの数合のやり取りで実感してしまった。ベヤドルは自分よりも格上だと。上でシュレッダとやり合った時よりも強くそれを意識してしまっていた。


 ベヤドルもそれが分かっているからか、刃を向けるライラが目の前にいるにも関わらず、総司の放った問いに対して考えを巡らすだけの余裕がある。


「最初に訂正しておくが、俺は別に裏切っちゃいない」


「はぁ?何を寝ぼけたことを―――――」


「最初からお前たちの事を仲間だなんて思ってないんだからな」


「ッ!!」


 ベヤドルの告げた言葉に、総司は息を飲む。


「ファムから俺達兄妹がスラム出身だってのは聞いたな?それからハンターになるまでの事も・・・・・俺はな、ハンターになりたかったわけじゃないんだ」


「じゃあ、なんでハンターに・・・・・」


「簡単な事だ。手っ取り早く金が稼げて、名声を手に入れるのにはハンターはうってつけだった」


 ベヤドルの答えにライラは鼻で笑う。


「はっ!金?名声?んなもん、ハンターじゃなくても出来る話だろうが。それこそ商人にでもなればよかったんだ」


「じゃあ聞くが、お前はスラム出身の奴が商人になるだけの知識と経験をどうやって手に入れられるか分かるのか?」


「それは・・・・・」


「分からないだろ?いや、分かってるんじゃないのか?お前もスラムの出だもんな」


「・・・・・・・」


 逆にベヤドルから問われたライラは黙るしかなかった。


 ベヤドルの言っていることは正しいと理解しているからだ。


 スラム出身の人間の大半は文字も読めないほど学が無い。文字を読めるようになるよりも、その日を生きるのに必死だからだ。


「ガキだった俺達兄妹がスラムで生きてくためには他人から奪うしかない。お前もそうだったんじゃないのか?」


「それは・・・・・」


 そうだ、と言いそうになるのをぐっと堪える。


「俺達が生きるためには、誰が傷つこうが知った事じゃない。例え、それが生みの親でも」


 親、と口に出した瞬間、ベヤドルの目に暗い憎悪の様なものが宿ったように総司は感じた。


「俺達の親はロクでもない奴だった。親父は毎日酒を飲んで仕事もしない。母親は別の男の所に行って碌に俺達を見ようともしない、そんなクズだった」


 総司は思い出す、ファムが話してくれた自分達兄妹の話を。その時にファムは言っていた、他所から見たら褒められるような親ではないと。


「親がそんなクズなもんだから、俺は小さかったファムを守るために何でもやった。金を奪い、物を盗み、そうしてどうにか生きていた・・・・・・そんな時だ、ある日偶然俺は両親が話をしているところを聞いたのは」


 ベヤドルの顔が明白に憎悪で歪む。


「ファムを・・・・・奴隷として売り払う、てな」


「っ!そんな、自分の娘を?!」


「意外か?けどな、スラムじゃありふれた話さ・・・・そう、どこにでもある、ありふれた話だ。けどな、俺はそれを許せなかった。だから――――――」


 ベヤドルの顔が、今まで見たことも無いほど狂気で歪む。



「殺したのさ」



『ッ!!』


 告げられた言葉に二人は驚愕する。


『誰に殺されたのかも、どうして殺されたのかもわかりません・・・・・・・それから私達はスラムで二人だけで生きていくことになりました』


 総司の脳裏にファムが語ってくれた両親の事を思い出す。


(ファムの両親を殺した犯人が、ベヤドル!?)


 ファムの両親、つまりは自分の親を殺した犯人が目の前の人物であると告げられて、総司は頭がぐちゃぐちゃになりそうになっていた。


「殺すのは簡単だった。酔っぱらいに腕力もない女、ナイフ一本あれば十分だった、ハハッ!」


 その時を思い出しているのか、ベヤドルは笑って言葉を続ける。


「傑作だったぜ?あれだけ威張り散らしてた親父とオフクロが泣きながら命乞いをしてる姿はっ!思わず何度もぶっ刺しちまったよ!!」


 実に楽しそうに語るベヤドルの姿に二人はぞくりと背中を震わす。


「けど、アイツらを殺したからと言って今までの生活が変わるわけじゃない。俺達は相変わらず生きるのに必死だった。そんな時だ、ビジャルにあったのは」


 幼いベヤドルが妹のファムの為にスリや窃盗を繰り返していた時、偶々スリをした相手がビジャルだった。


 当時からクロードと並ぶほどの実力を持っていたビジャルは当然の如く、スリを働いたベヤルドを捕まえた。そこで憲兵に引き渡す前に色々事情を問い詰めたところ、ビジャルは何の気まぐれか、ベヤドルに「その気があるなら俺が生き方を教えてやる」と言い出したのだ。


 最初は怪しんだベヤドルだったが、しばらく街に滞在していたビジャルに色々な事を教えてもらっているうちに考えを変えた。それは――――


「ハンターになれば、少なくともこのクソみたいな生活からオサラバできると思ったのさ」


 それからファムと二人、ビジャルに弟子入りと言う形で世話になりながら読み書きや戦う術を教えてもらった。


 ベヤドルが字を読めるようになり、ファムが持ってきた英雄譚や冒険譚をせがまれて読み聞かせてやっていた。表向きは「またかよ」と言いつつも、内心ファムが持ってくる物語に少なからず興味をいだいていた。


 それから二人は成長し、ある程度の知識と実力を手に入れた時、二人はハンターになる為に住んでいた街をでて、このデムローデの街にやってきた。


 今までの努力が実を結び、晴れてハンターとして二人はこの街で暮らすことが出来た。


 ハンターとして生活を始めたベヤドルは、スラムで生きていたころよりも活き活きとしていた。まるでファムが持ってきたあの物語の様だと。


 スラムでの生活が、まるでなかったかのように毎日が輝いて見えた。


「そんな時さ、あれを見たのは」


 ハンターになって数度の依頼をこなして新人から卒業と言われた時期に、ベヤドルはある依頼でその光景を見た。


「依頼の内容は簡単なものだった。ある商人の警護の依頼だった」


 その日、ベヤドルは成功報酬は低いが簡単な依頼だからと一人でこの依頼を受け、その商人の護衛をしていた。


 商人は不憫な男だった。家族を失い、それでも家族ではじめた商売を続けようと頑張っていた健気な商人。ベヤドルはそんな商人に同情し、この依頼を成功させようと張り切った。


 しかし、それはベヤドルが今まで忘れていたことを思い出させる切っ掛けになってしまった。


 商品の受け渡しをする為に、荷馬車を引いて街道を進んでいた時、運悪く盗賊に襲われた。


 しかし、ビジャルから叩きこまれた教えにより、ベヤドルの腕前は中々のものだった。


 苦戦の末、手傷を負いながらなんとか盗賊を退けたベヤドルは、商人を目的の場所まで連れていくことが出来た。


 だが、そこで見たのは――――――


「奴隷商人だったのさ、その男は」


 並べられた奴隷達を弄り、罵り、暴力を振るい、そして奴隷を使って違法な商売をする。男は根っからのクズだった。


「がっかりしたよ。まさか、同情した相手が人を人とも思わない最低なクズ野郎だったなんてな。俺は憤った挙句、その男に詰め寄った、「俺をだましたのか」と、そしたら何て言ったと思う?」


 肩をすくめておどけながらベヤドルは口を開く。



『騙される方が悪いんだよ』



 男は別に雇っていた護衛を使ってベヤドルを殺そうとした。口封じだ。手傷を負っていたベヤドルは戦うことが出来ず、逃げるしかなかった。


 追っ手を振り切ったベヤドルは、物陰に隠れながら後悔した。そして、思い出したのだ。


「この世は所詮、弱肉強食。弱い奴から食われるクソみたいな世界だってな」


 その後、何とか帰り着いたベヤドルは組合にこの事を話したが、既に商人は逃げ出した後で、どうにもならなかった。


 そして、ベヤドルは気付いた、いや、思い出した。スラムで生きていた時の事を。この世界が物語の様な(きら)びやかな世界ではないことを。


 このままでは、いずれ自分だけでなく妹のファムまであの頃の様な思いをさせてしまう、と。


「けど、俺には力が無かった。だから俺は成り上がることにした」


 鍛錬を重ね、力をつけ、これは世渡りだと、自分に言い聞かせながら、正義などと吐き気のする自分を演じた。


 その傍ら、甘い言葉で便利な仲間を作り、その陰で自分と考えが同じ人間を仲間に引き込みながらクランを立ち上げ、上に昇り詰めるための準備を進めてきた。


 ベヤドルの言葉を信じて付いてきた人間を内心見下しながら、ベヤドルはチャンスを待った。


「その時さ、ハイデルと会ったのは」


 ベヤドルと偶然知り合ったハイデルは、ベヤドルに交渉を持ち掛けた。自分は今、王宮に勤めているある人間と好意にしている。その人物にベヤドルを紹介しよう。その代わり、いくつか仕事を頼みたい、と。


 ベヤドルはこの話に乗った。ハイデルが自分と同じような考え方で生きていると直感したからだ。それに、この話に乗れば、王宮に潜り込むことが出来るかもしれない。そうなれば、今よりも地位が上がり、ファムにもハンターなどよりももっといい生活をさせてやれると考えたからだ。


 ハイデルの依頼はどれも汚れ仕事と言われる様なものだった。時には強盗まがいの依頼や、果ては暗殺と言った依頼もあった。


 どれも今までハンターとして依頼を受けていたのとは真逆の内容だったが、ベヤドルは進んでそれをこなした。


「どうして、そこまでして・・・・・・・それに、この事、ファムは知っているのか?」


 話を聞いていた総司は思わず口に出す。


「ファムは何も知らない」


「・・・・・・ファムがこの事を知ったら、軽蔑するんじゃないか?」


 ファムの泣く姿を想像しながらライラが言った。


「そうかもな・・・・・けど、これも全てファムの為だ」


「?」


 ファムの為、そう言った刹那、ベヤドルが握る槍から微かに黒いナニかが霧のように立ち上るのが総司には見えた気がした。


「はっ、ファムの為、か。妹大好きシスコン野郎もここまで来ると笑えないな」


 ライラの罵る様な言葉に対し、ベヤドルは首を傾げる。


「好き?違うな。俺はファムを愛してるんだ」


「は?」


 ベヤドルの言葉にライラは一瞬何を言っているのか理解できなくなった。そんなライラを他所に、まるで何かに取り憑かれたかの様に喋りだす。


「そう、愛してるんだ!好きなんてモノじゃない、愛だ!!分かるか?分かるだろう?!ファムは華麗で心の優し、まるで女神の様な存在だ!ああ、ファムの事を思うと胸が締め付けられてどうしようもない・・・・・・・ファムが他の男と話しているだけで相手を殺してやりたくなる。あの時ソウジがファムと話をしていたと聞いた時は気が狂いそうだったよ。もしもファムを汚そうとしたなら間違いなく殺していたよ」


 まるで舞台役者の様に捲し立てるベヤドルの変貌に二人は寒気を覚える。


「愛してるんだよ、ファムを・・・・・・だから、ファムを俺だけのモノにしないと・・・・・・」


「ベヤドル?」


 狂ったように捲し立てていた様子から一変、ブツブツと俯いて呟くさまは不気味としか言いようがなかった。


「だから、それを邪魔する奴は・・・・・・・・」


 顔を上げたベヤドルの目に狂気の光が宿る。


「ここで、死ねっ!!」


 ゴオッ!と地面の一部に亀裂を作ると同時に、ベヤドルは構えた槍を手にライラに向けて突撃。


「っぐ、がっ!!」


 間一髪ティソーナを盾にして防いだが、余りの威力にライラの身体が勢いよく後ろに吹き飛ばされる。


「ライラ!」


「次はお前だ、ソウジっ!」


 再び槍を構えたベヤドルは総司に向けて足を踏み出す。


「っ!!」


 総司はこちらに向かってくることをあらかじめ予想していたおかげで、間一髪避けることが出来た。しかし、そこで止まる程ベヤドルは優しくはない。


「シャッ!」


 脇を通り過ぎたベヤドルはすぐさま反転、突くのではなく横に払うように槍を振るう。


「いっ!!」


 避けた直後の態勢では完全に躱すことが出来ず、総司は右肩を切られ、血しぶきが舞う。


「もらった!」


「させるか!!」


 そこに吹き飛ばされたライラが縮地を使って急接近、総司とベヤドルの間に強引に割って入る。


「邪魔だ!」


 ライラごと総司を貫くつもりで闘気を纏った刺突(しとつ)を放つ。ライラはその一撃をティソーナを傾けることで軌道をずらし、一歩踏み込んで切りかかる。が、ベヤドルは恐ろしい速さで手元に槍を戻すと、ライラの一撃に対処して防いでみせた。


「まだまだ甘いな」


「うるせぇ、ボケが!」


「っ!」


 鍔競り合いに持ち込んで硬直したベヤドルに向かって、態勢を立て直した総司が拳を放つ。


「おっと!」


 視界の端に捉えていた総司の奇襲にベヤドルは鍔競り合いを止め、後方に跳躍して躱す。


「くそ!」


「お前もまだまだだなソウジ」


 余裕の表情を浮かべながらベヤドルは槍を肩に担ぐ。


「ベヤドルさん。こちらの方は大体終わりましたよ」


「おお、そうか」


 今まで部下に指示を出していたハイデルが一人で戻ってベヤドルにそう言うと、ベヤドルは肩に担いだ槍をだらりと下げる。


「奴隷は運び出したんだな?」


「ええ、問題なく。ですので、早くここを片付けていきましょう。先方も待ちくたびれているでしょうし」


「そうだな、直ぐに片付ける」


「では、私は先に外に向かいます。後の事は頼みましたよ?」


 そう言ってハイデルは元来た道に戻ろうと背を向ける。


「ああ、後は俺に任せて――――――」


 ドスッ!


「・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」


「なっ!」


「っ!」


 ハイデルの胸に血に濡れた刃が生える。


「死んでろ」


 ハイデルを貫いた槍を引き抜くと、ハイデルは胸から大量の血を噴き出しながら地面に倒れ伏す。


「な、なに・・・・を・・・・・・」


「ご苦労さん。役に立ったよお前は」


「う、うら・・・・ぎ・・・た・・・・のか・・・・・ごふっ!」


 血を吐きながら呻くハイデルに、ベヤドルは何処までも暗い瞳でハイデルを見下ろす。


 血を流して倒れるハイデルの身体を思いっきり蹴り上げて扉の先、地下水路に水しぶきと共にハイデルの身体が沈む。


「騙される方が悪いんだよ」


 吐き捨てる様に言った言葉は、沈んでいくハイデルに届くことはなかった。



            *



「ベヤドル・・・・・どうしてハイデルを?」


 目の前で死んでいったハイデルの姿に愕然としていると、俺の代わりにライラが口を開いた。


「言っただろ?邪魔な奴は殺すってな」


「そいつを殺して、お前に何の得があるってんだ?」


「あるさ。こいつをここで殺しておけば、王宮に入り込むのに都合がいいのさ」


「そんなに上り詰めたいのかよ」


「言っただろ?ファムの為だって。そして、こうも言ったはずだぜ?」


 刃に着いた血を一振りして振り払うと、再びその刃を俺達に向けた。


「邪魔な奴は殺すってな」


「来るぞッ!」


「っ!」


「遅えっ!!」


 地面を爆発させる勢いで突進してきたベヤドルに、俺とライラは反応できず、二人纏めて吹き飛ばされる。


「うわぁぁぁ!!」


「がはっ!」


 俺は地面に転がる様に吹き飛ばされ、ライラは壁に激突して倒れる。


「弱いな。弱すぎるぜ、お前ら」


 まるで虫けらのように俺達を見下すベヤドルに、俺達はなすすべもない。


「く、クソが・・・・・・」


 起き上がろうと体を起こすが、上手く力が入らないのか、ライラは再び地面に倒れる。


 かく言う俺も似たようなものだ。立ち上がろうにも今の一撃をまともに食らって力が入らない。


 そんな俺達に対して、ベヤドルは何処までも余裕の表情を浮かべている。


 対して俺達は先程受けたダメージと、ここに来るまでの連戦で体力もマナも著しく消費してまともに戦うだけの力が出ない。


「さて、そろそろ終わりにするか」


 そう言いながらベヤドルはゆっくりと俺に向かって歩いてくる。


「ベヤ・・・・ドル・・・・・・」


「悪いなソウジ。お前の探してる女、俺が使わせてもらうわ」


「っ!て、てめぇぇぇ!!」


 その一言で俺は残った気力を振り絞って立ち上がり、ベヤドルに拳を振るう。が―――――


「フンッ」


「ごふっ!!」


 それもあっさり避けられ、逆に殴り飛ばされ再び地面を転がる。


「その状態で立ち上がった事は褒めてやる。が、それだけじゃ俺は倒せないぜ?」


 倒れ伏す俺を薄気味悪い笑みを浮かべながら見下ろす。


(くそ・・・・・こんなところで死ぬわけにはいかないのに・・・・・・まだ、美里に届いてないのにっ!!)


 そう思うも、身体は立ち上がるどころか言う事も聞いてくれない。


 必死に体を動かそうとしている俺を他所に、ベヤドルは手にした槍を俺に向ける。


「じゃあな、ソウジ。嫌いじゃなかったぜ?」


「ま、て・・・・・やめ、ろっ!」


 ライラの制止の声を無視し、ベヤドルは俺に向けた刃を無慈悲に放つ。


 朦朧(もうろう)とする意識の中、放たれた刃がゆっくりとした動きで迫ってくるように映る。


(ここまで、なのか・・・・・・)


 来るであろう痛みに目を背ける様に瞼を閉じたが、一向に痛みがやってこない。


 不審に思って瞼をあけると、刃は俺の目の前で停止していた。


 どうして?と思った矢先、倒れた俺の頭上から声が降ってきた。


「そこまでにしときな」


「お前ッ!?」


 槍を片手で止めて俺を救ってくれたのは、左目に黒い眼帯をつけた偉丈夫の男。


「ぐっ!」


 握られた槍を強引に振り払うようにして払い除けると、ベヤドルは後ろに跳躍して下がり、先程まで見せなかった緊張の様な顔色を浮かべる。


「来るとは思っていたが、よりにもよってこのタイミングか・・・・・・何しに来た?」


「決まってるだろ」


 眼帯の男は腰に差した片刃の剣を引き抜く。


「不出来な弟子に、お仕置きだ」


 そう言って眼帯の男、ビジャルは不敵に笑った。

寒っ!どんどん寒くなっていくな(気温の事です)

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ベヤドルの暗く濁った愛情がおぞましい。  せっかくここまで来たのにこれまでかと思ったところで、意外な人物の登場。  更新ありがとうございます。  次も楽しみにしています。
感想一覧
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