03 田舎村
ここは異世界?
馬鹿なありえん。けど、テムロが見せてくれた大陸の地図を見ると、俺の考えは妄想だとは言い切れない。
それにテムロの話を聞いている限り、いくら田舎だからと言って俺の知っている国の事を全く知らないのもおかしい。
ここは一度冷静になって調べた方がよさそうだ。
「なあ、テムロ。外に出たいんだがいいか?」
そうテムロに聞いてみる。するとテムロは「それは、構わないが」と言ってくれた。
しかし、構わないと言ってくれたテムロは直ぐに心配顔になる。
「けどソウジ、大丈夫なのか?まだ痛むんじゃないのか?」
そう言って俺の体を心配してくれる。
何だ、テムロ、いい奴じゃん。
猪に追いかけられていた時に俺を囮にしようとした奴とは思えない。
まあ、あの時はテムロも必死だったからしょうがないと言えば、しょうがないか。
「大丈夫だ。少し痛むけど、歩けないほどじゃないからな」
それよりも、今この現状を確認する方が第一優先だ。
「分かった。なら俺が案内してやるよ。ソウジ一人で外に出て倒れられたら困るからな」
と、微笑みながら提案してくれる。
案内をかってでて、しかも俺の心配までしてくれるなんて。思わず胸が暖かい気持ちになる。
「ありがと」
「いいさ。ソウジには助けられたからな。じゃあ、外にでるか、とその前に・・・・」
テムロはベッドの脇にある籠に目を向ける。
そこにはボロボロになっている俺のスーツが置かれている。
「まずは着替えだな」
そうだった。
*
テムロから服を借りて外に出ることに。
幸い俺とテムロの体格は似ていたお陰で、服のサイズは問題なかった。
しいて言うなら俺の知っている服の素材とは違うのか、多少着心地に違和感を覚える程度だ。
靴は自前のがあるからそれを履く。
だが、服がTシャツみたいなラフな上着に革のベストを着て、これまたラフなズボンなので、スーツに合わせた靴がやけに浮いてしまう。
まあ、それもそのうち気にしなくなるだろう。
「それじゃあ、行くか」
俺の着替えが終わると、待っていたテムロと一緒に外へ向かう。
「おぉ・・・・・」
思わず感嘆の声が出てしまった。
外に出て目に飛び込んできた光景は、今まで見たことのない光景だった。
木や土壁で作られた家。舗装がされていない道。その道を歩くオッサンは農具を肩に担ぎ、主婦と思しきオバサンは野菜などを入れた籠を片手に歩いている。
その光景に呆然としている俺をテムロは苦笑した。
「何そんな顔してんだよ。こんなのどこにでもある田舎村だろ?」
変な奴だな、とテムロは言うが、俺には『どこにでも』ではない。
何故なら現代の気配が一切しないのだ。
いくら田舎とはいえ、普通電子機器や車、家に使用する部品、そう言った現代ならあって当然と言える物がどこかには有るはずだ。
だが、見る限りそれらが一切見当たらない。
俺の知っている『どこにでも』に一つも当てはまらない。
あえて例を挙げるなら、昔見た中世の時代をモチーフにしたファンタジー映画の田舎村に似ている。
まあ、どう考えてもここが映画のセットな訳がないし。
仮にこれがドッキリだったとしても俺一人のために、こんな手の込んだ仕掛けなどするわけがない。
「ほら、いつまでもボケっとしないで、行くぞ」
呆然となっていた俺を置いて、テムロが歩き始める。
「お、おい待てよっ!」
俺はそれを慌てて追いかけ、テムロに質問する。
「なあテムロ、案内してくれるのはいいが、どこに行くんだ?」
「そうだな・・・・・・とりあえずこの村をぐるっと歩いてみるか。心配すんな、そんなにデカい村じゃないから」
*
家から出て数分、テムロはノザル村の中央広場まで案内してくれた。
「ここが中央広場だ!・・・・・と言っても大して広くもないんだが」
いきなり自虐ネタかよ。
しかし言われてみれば、確かに広いとは言い難い。規模としては近所の公園程度の広さだ。
一応人の行き来もある。数人だけだけど。
「まあ、ここが単に村の中心で、何かあった時はここに村人が集まることになってるんだ」
「ふ~ん」
ここに何かあた時に集まったとして、全員入れるのか?
「この村って何人ぐらい人が住んでるんだ?」
「・・・・・・・・・五十人くらいかな」
少なっ!
いや、村なんだから当たり前か。
「昔はもう少し居たんだが、みんな王都まで出稼ぎに行ったりして、今は歳取った爺婆が大半。まあ、若いのもいるけどな」
気になる単語が出てきたぞ。
「王都?」
「お前、本当に何も知らないのか?王都って言えばシンジアレ国の王都ロクサリアだろ」
知らんがな。
しかし王都か、いよいよ異世界臭がしてきたぞ。
「とにかく、今はこの村は人口が少ないんだよ。だからこの村に住んでる皆は家族みたいなもんさ」
村の皆が家族か。それはそれでいいものだな。なんか心が暖かくなる感じで。
「じゃあ、次行くか」
「次はどこに行くんだ?」
「そうだな・・・・・この村にある店を案内するよ。店の数もそんなに多くはないけど」
まあ、この村の規模ならそうだろうな。
「ちなみに何軒?」
「・・・・・・・・三軒」
うわぁ~・・・・・・
これはまた、何とも言えん数だな。さすがザ・田舎。
「何屋なの?」
「この村には雑貨屋、鍛冶屋、宿屋兼飯屋。以上」
一応生活する分には困らないのかな?
「食料はどうしてんだ?」
「それはもちろん、畑で採れた野菜とか、後は近くにある森の動物に木の実、森の中にある小川にいる川魚とかだな」
なるほど。絵に描いたような自給自足なわけね。
となると、他には家畜を育てたり、牛の乳を搾ったりかな。
なら金はそれらを売ったりして生計を立ててるってことか?
あれ?金ってあるよな?
「金はどうやって稼いでるんだ?」
「採れた野菜とか、森で伐採した木材とかを近くの町や、定期的に来る行商人に売って金にしてるな」
やはりか。金もちゃんとあるのな。
自分たちで売りに行く以外にも、行商人なんてものもあるんだな。
「ソウジの国だって同じだろ?」
また当たり前みたいに言ってくれるな。
「そ、そうだな。大体そんな感じだよ。ハハ・・・・」
ヤバいな。俺が何も知らないってことを、あまり不審がられると、色々やりにくいぞ。
ただでさえ、ここが異世界でした、なんてことならここで不審を買うのは後々困ったことになる。
何せこの世界の事は、当然だが何も知らないのだから。
何かいい言い訳を考えておかないと。
とりあえず今はこの話の流れを変えておかないと。
「そ、それより、次を案内してくれよ。店を紹介してくれるんだろ?いや~この村がどんな店を開いてるのか楽しみだな~」
ちょっと露骨過ぎたか?
「そうだな。次行くか」
ほっ。よかった、話が流れてくれて。
しかし、何時までもこのままじゃよろしくない。
自分の状況を上手く誤魔化せる言い訳を考えておかないと、そのうち致命的なボロがでる。
そんなことを考えながら、俺は歩き始めたテムロの後について行った。
*
「ここがうちの村の雑貨屋だ」
テムロに案内されること数分。着いた先は周りにある家と同じ、木造の家の前だった。
「小さいな」
ここに来るまでに見てきた民家とさして変わらない大きさだ。
俺の勝手なイメージだと、一回りは大きいものだと勝手に思っていた。
「お前、それ、中に入って言うなよ?カジルおばさんに殺されるぞ?」
「カジルおばさん?」
「ここの雑貨屋の店主だよ。怒ると怖いんだから、変なこと言うなよ?」
まあ確かに、いきなり自分の店を小さいなんて言ったら誰でも怒るわな。
「それと、ファミリーネームは名乗るなよ?」
「え?何で?」
「馬鹿。ファミリーネームなんて名乗ったら俺みたいに要らない誤解を招くだろ?」
ああ、そっか。ファミリーネームは貴族が名乗るのが普通だったな。
「了解。気を付けるよ」
俺も余計なことでトラブルを起こしたくないからな。
テムロが店の扉を開けて中に入る。
俺もそれに続いて中に入ると、手狭な店内に商品棚らしき棚や台にランプやら蝋燭、縄に服なんかまで、色々な物が商品として並べられている。
「へぇ~こんな風になってんだ」
店内を物珍し気に見ていると、店の奥から五十代と思しきおばちゃんが顔を出した。
「あら?テムロじゃない。何か入り用?」
「こんにちは、カジルおばさん」
どうやらテムロが言っていたカジルおばさんらしい。
カジルおばさんは俺を見つけると、しげしげと俺を見てきた。
何だよ、熟女の趣味はないよ?
「テムロが連れてきた子だね?気を失ってた割には元気そうじゃないか」
「あれ?何で知ってるんですか?」
俺ってもしかして有名人?そんなわけないか。
「この村は小さいからね。噂とかは直ぐに広まるのさ」
「ああ、そういうことですか」
まあ、五十人程度の村ならそんなもんか。
「それでテムロ、何か買い物かい?」
「いや、こいつにこの村を案内してやってたんだよ」
「そうかい。ああ、自己紹介がまだだったね。アタシはこの雑貨屋をやってるカジル。よろしくね」
カジルおばさんが愛想よく自己紹介してくれる。
「はじめまして、総司です。よろしくです」
「よろしく。ところでテムロ。もう村は案内し終わったのかい?」
「いや、まだ途中だよ。後はガヤルさんとコークおじさんとこに行って、教会にも顔を出そうかなって思ってる」
また知らない人の名前が出たな。てかこんな小さな村に教会なんてあるんだ。
「教会に行くのかい?なら、ついでにこれを持って行っておくれよ」
そういってカジルさんは店の奥に一度引っ込み、戻ってくるとカジルさんの手には一つのランプが握られていた。
「この前シェスタがランプが壊れたって言っててね?うちに今は使ってない古いランプがあるから、持って行ってやっておくれよ」
そう言ってランプをテムロに渡す。
「分かった。シェスタに渡しとくよ」
「よろしくね」
「ああ。それじゃ、俺たちそろそろ行くよ」
「頼んだよ」
ここでの顔見せも終わったし、次に向かう。
「ああ、ソウジ」
と、外に出ようとしたところでカジルさんに呼び止められた。
「もし、何かあったら、遠慮なく言いな?」
「は、はい。ありがとうございます。何かあった時は頼らせてもらいます」
カジルさんはそれだけを言って、笑って手を振り見送ってくれた。
見ず知らずの俺にこんなこと言ってくれるなんて、カジルさん、いい人だ。
少し遅いですが、明けましておめでとうございます。
部屋の大掃除や、実家に帰省したりとここ最近忙しかったですが、今年も定期的に投稿していきます。
PS 帰郷した際に洗濯や食事の準備をしてくれる母の背中を見て、改めて感謝の気持ちが湧いてきました。ありがたや~